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第三十六話 倒敵 ‐トドメ‐ 壱

 再度、地面に転がる児亡き爺。

 その体の真ん中には、大きく見事な風穴が開けられていた。


「ひゅ……ひゅう」


 土と砂に汚れて横たわる児亡き爺は、喉から変な音鳴らして息する。

 目は虚ろになりかけ、辛うじて意識を保ち生きていた。


「まだしぶとく生きてやがる」

「だが、傷は完全に致命傷だの。そう長くはない」


 見下ろす供助(きょうすけ)と猫又。

 真っ暗返しの骸は完全に消え、地面に散らばっていた肉片や血糊は無くなった。


「っひ、ひ……まさかこのような、小僧に、やられると、は……」


 口から血を流し、喋りにくそうに児亡き爺が口を開く。


「丁度良く……降霊術をしている子供達を、見付け……久方の宿主だ、ったと、いうに」

「……友恵が言っていたこっくりさんか」

「っひ、ひ……未熟で上手くいっては、おらんかった、が……妖怪を、呼び寄せるには……十分じゃ」


 仰向けに倒れ、半ば喪心(そうしん)で気力も体力も無く。

 児亡き爺は供助と猫又を見上げて口だけを動かす。


「なんで友恵を狙った?」

「っひ……その、小娘を狙った、のは……たまたま、その中の一人だった……に、過ぎん」

「ただ運が悪かった、ってか」

「子供、が……泣き叫ぶ姿、を、見れれば……誰でも、良かった……わい」


 ひゅう、と喉を鳴らして。ほぼ虫の息で喋る児亡き爺。

 いやむしろ、片腕を引き千切られた上に腹部に大きな風穴。この大怪我で瀕死状態にも関わらず、これだけ喋れているしぶとさに驚きである。


「短い、間だっ、たが……それな、りに……堪能させて、もらった……ひひ」


 己がした行いと、友恵の泣き叫ぶ様子を思い出して。

 子泣き爺は過去の愉悦を反芻(はんすう)し、ほくそ笑む。


「供助、もういい」

「あん?」

「いい加減、こいつの声は聞きたくないの」


 友恵の母親を(かつ)ぐ猫又が、供助と児亡き爺の間に入り。


「地獄に落ちろ」


 空いた左手に灯すは紅蓮の炎。猫又の持ち技である――――篝火(かがりび)

 それを児亡き爺へと投げ付けた。


「ひ、ひっひ……燃える、儂の体が……燃える」


 既に瀕死の児亡き爺は避けれる筈もなく。足元に落とされた篝火は、下半身から児亡き爺の体を飲み込んでいく。

 猫又は周りの木々に燃え移らないようにと、普段よりも威力を抑えられた炎。本来の威力であったなら、児亡き爺など一瞬で灰になっていたろう。


「ふん。この汚い藁蓑(わらみの)も持って逝け。せいぜい、それで地獄の鬼から逃げ回るといいの」


 火に蝕まれていく児亡き爺の上に落としたのは。

 少しボロく汚れた藁蓑――――隠れ蓑であった。


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