表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
114/457

      隠蓑 ‐タネアカシ‐ 参

「それに物を返せと言える立場か?」

「なんじゃと、小僧?」

「攻め手も無ぇ逃げ場も無ぇ。もう詰んでんだよ。てめぇらは」


 空いた両手。供助は右手で握り拳を作り、左手に打ち込む。

 公園に響く、小気味の良い音。

 猫又が一歩前に出て、冷たい目を向けて口を開く。


「気付いておらんのか? 貴様等の絶望的な立場にの」

「ひっひ、何を言う。儂らはまだ……」

「友恵の母親を盾に逃げるかの? まぁ取り憑いたまま逃げようと友恵の母親を捨てて逃げようと、どちらにしろ私の足の方が速い。隠れ蓑を失った以上、貴様等が逃げ切るどころかこの公園から出る手段は既に無いの」

「ぬ、ぐ……」

「奇襲も出来なくなり、正体も明らかになり、手札も殆んど失った。貴様等にはもう生き延びる術は無いの」

「ぐっ……ならば、この人間がどうなってもいいのかっ!? 人間を殺すなど容易い……」

「阿呆が。生きているから人質の意味があるというのに、それを殺せば自分の首を締めるだけだの。尤も、貴様らが自分で首を締める前に私が息の根を止めるがの」


 圧倒的不利な立場になっても尚、卑劣下劣な児亡き爺を、猫又は刃のように鋭い目で睨み付ける。

 児亡き爺の怒りを買う言動に猫又の腹中は煮え滾り、怒りのボルテージは最高潮まで来ている。


「っひ、ひっひっひっひ! 獣娘、儂らが逃げ延びる為にこの人間は生かすと踏んでおるのだろうが、その気になれば……」


 ――――ズズンッ!


 そんな、轟音。地響きとも、地鳴りとも、地震とも違う。

 地面が僅かに揺れ、風が起こり、砂煙が舞う。


「きゃっ! な、何が起きたの……?」


 余りの大きな音と突然の衝撃。

 友恵は驚愕して短い悲鳴を上げた。


「その気になれば……なんだの?」

「っひ……!?」


 舞い上がる砂煙が落ち着く前に、児亡き爺はそれを目にした。

 組んでいた筈の腕を解き、大きく横に払う猫又の右腕。

 まるで建設機械を使ったかのように、猫又の足元が横に数メートルも抉られている地面。児亡き爺は友恵よりも短い悲鳴を上げ、表情は青ざめ身震いする。

 友恵の両親に取り憑き、隠れ蓑を隠し手として取っていた時は強気だった児亡き爺も。

 こうして手札が無くなり猫又の力を目の当たりにして、ようやく自身の余命が短い事を悟った。


「ひっ、ひっ……確かに貴様らの言う通りのようじゃ……」


 勢いの無い引き笑いに、引きつった表情。

 勝ち目無し、逃げ場無し、命無し。絶望的状況に児亡き爺もとうとう、諦めの色を見せた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ