隠蓑 ‐タネアカシ‐ 弐
「これ、供助」
「あん? ……あぁ、忘れてねぇよ」
猫又に呼ばれ、供助は横目で隣を見る。供助同様、猫又も顔は向けず目だけを向けて。
二人の間に殆んど言葉は無い。だが、供助は猫又が言いたい事を理解していた。
「おい、てめぇら」
「のう、貴様等」
供助は顔を少し曲げ、ガンをくれるように。
猫又は背を伸ばし、真正面を見据えて。
「人喰いを知ってるか?」
「共喰いを知っているかの?」
二人の言葉が、重なる。互いの探し者。その妖怪。
二人は依頼で妖怪や幽霊に会う度、必ず聞いている問い。
もはや妖怪を祓う通過儀礼と言ってもいいだろう。
「人喰いに共喰いじゃと……? ふん、知っておったらなんじゃと言うのか。尤も、知っておっても答える気は無いがな。ひっひ」
「ギィギィギィギィ!」
児亡き爺は皺くちゃな顔を揺らして、真っ暗返しに至っては笑うだけ。
予想を裏切ってくれる嬉しい返答が返ってくる事は無かった。
「ま、だろうな。期待はしてねぇ」
「右に同じく、だの」
情報無し、収穫無しのいつも通り。 落胆もしなければ残念がりもせず。
供助と猫又は二人揃って、小さく息を吐くだけだった。
「聞く事ぁ聞いた。なら、次は仕事を終わらせる」
「のぅ、供助。その隠し蓑をずっと持っておるが……どうするつもりかの?」
「あぁ、これか。何かしらに使えるんじゃねぇかと思ったんだけどよ、この大きさじゃあ無理そうだ」
猫又は供助が喋る途中で割り込み、気になっていた事を聞いてきた。
供助が児亡き爺から奪い取った隠れ蓑の大きさは、大体一メートルあるか無いか。姿も妖気も完全に消しされる優れ物だと知り、供助は何かに使えないかと思っていた。
だが、供助や猫又が使うには小さ過ぎる。小学生の友恵ですら小さい位だ。
児亡き爺が幼稚園児と同じ位の奇形体型だったからこそ使えた訳で、供助達が使用するのは無理そうだった。
となると、使えないのならゴミと大して変わらない。
「小僧、それは儂のじゃ……その蓑を返せぇぇぇぇぇ!」
「これを? はっ!」
余程重宝していたのだろう。大声を出して必死になる児亡き爺を、供助は鼻で笑う。
そして、持っていた隠し蓑を地面に落とし――――。
「嫌だね」
靴底で、踏んだ。
「貴様ぁぁぁぁぁぁぁぁあぁぁあ!」
「おー怒った怒った。笑うよりそっちの顔の方が合ってるぜ。醜ったらしくてよ」
供助は児亡き爺を小馬鹿にする台詞を吐き、僅かに口を吊り上げた。




