合流 ‐キズダラケ‐ 肆
猫又は呟き、一本取られたと悔しがる。
真っ暗返しの予想外の行動。それは唯一となった自身の凶器を投げた事だった。
攻撃してきた所を友恵の母親の手を掴む手筈も、それでは不可能になる。
猫又の左手は友恵の父親で塞がり、さらには真っ暗返しの予想外の行動に驚き、体が一瞬硬直してしまった。
故に猫又本人ならともかく、友恵の父親と抱えて避けるのは間に合わず。よって、猫又が取らざるを得なかった選択は。
友恵の母親の右手首から手を離し、空いた右手で投げられた出刃包丁を掴み取る事であった。
「よもや自ら凶器を捨てるとはの」
漏らして猫又は出刃包丁から手を離すと、大きめの出刃包丁は地面に転がった。
そして、真っ暗返しを目で追う先。猫又の近くからは離れ、既に児亡き爺の元へ走っていく友恵の母親の姿が見えた。
「ふむ。だがこれで……」
たんっ、と。まるで階段を二段抜かしで登るみたく軽快に。小さな動作で大きく飛ぶ猫又。
友恵の父親を抱えていても大して関係無いと、着物の袖をはため宙を舞う。
供助と友恵が居る場所への距離は四十メートル程。それをまさに文字通り、一飛びで移動した。
「ほっ、とな」
「猫又お姉ちゃん! お父さん!」
「気を失っておるが怪我は無い。児亡き爺からの呪縛からも解放されれた。安心していいの」
猫又は抱えていた友恵の父親を降ろし、地面に寝かせる。
友恵は心配して寄り添うも、友恵の父親は気絶したまま動かない。
だが、取り憑いていた児亡き爺はもう離れた。心配は要らないだろう。
「供助、傷はいいのかの?」
「大丈夫じゃねぇけど、体は丈夫でよ。昔っから打たれ強さにゃ自信があんだ」
今は止まっているようだが、頭から血が流れていた跡。体中の痣。
見ている方が痛々しく感じるが、供助は平気とまではいかないが問題は無さそうだ。
「さてと、ようやく終わりが見えてきたな」
「うむ。流れは完全こちらに向いているの」
供助は首元に手を当て、こきん、と関節を鳴らし。
猫又は着物の袖に手を入れ、腕を組む。
「友恵の父親は戻ってきた。あとは母親だけだ」
「奴等の手駒も手札もほぼ底尽きただろうしのぅ」
二人の霊気と妖気。決して混ざり合う事の無い水と油。
だが、向かい放つ先は同方向。児亡き爺と、真っ暗返し。
「これで奴等は……」
「詰み、だの」
二匹の妖怪へと突き刺さるような霊気と妖気が、襲い掛かる。




