合流 ‐キズダラケ‐ 弐
「ッ! 貴様、気付いて……」
「ま、仕留めればそれも関係無ぇがな」
「ぐっ、ぬ……!」
子泣き爺の藁蓑を掴む左手。供助はその腕を丁度良い高さまで上げる。
供助の胸あたりの高さ。角度は斜めに。これ位が丁度良い。そう、丁度良い。
――――ムカつく奴を思いっ切りブン殴るのに、丁度良い。
「倍返し程度で済むと思うな……よっ!」
供助は空いた右手に力を込める。ぎちりと、骨が軋む程の力を。
自身の最大の武器である拳。それを引き、狙いを定め、妖怪にとって鈍器以上に危険な拳を振るう。
「ぬぅ……っ!」
が、供助の拳が当たる直前。児亡き爺は|顰めた表情を作り、苦渋の決断を強いられた。
結果、児亡き爺が選んだ行動は。
身に纏っていた藁蓑を脱ぎ捨て、我が身を自由にする事だった。
「チッ」
空振った己の拳。避ける老人の妖怪。
予想し、望んだのとは異なった結果に供助は舌打ちし、逃げた標的を目で追う。
「老人の癖にすばしっこい奴だ」
供助から離れ、既に数メートルも先に児亡き爺は移動していた。
供助と友恵。猫又と真っ暗返し。その間の位置。
児亡き爺はつい先程までの余裕も、勝ち誇った顔も消え失せて。逆転してしまった状況に醜悪な表情を浮かべていた。
「小僧……あれだけしこたま殴られてまだ動けるとは予想外じゃった」
「体が丈夫なのが数少ない自慢なんでね」
供助は右手で髪を掻き上げ、乾いた笑いを漏らした。
「供助お兄ちゃん、無事だったんだねっ!?」
「この傷を見ろっての。どこが無事だってんだ」
供助が生きていた事に喜び、友恵は供助に抱きつく。
「よかった……児亡き爺が、供助お兄ちゃんは死んだみたいな事を言って、心配して……でも、泣いたら妖怪を喜ばすからって泣かないように我慢して……」
「ったく」
小さな溜め息を一つ。
抱きつく友恵を引き剥がすに引き剥がせず、供助は肩を竦ませる。
「真っ暗返し、こっちに来て儂を拾うんじゃ!」
藁蓑を奪われ、余裕が無くなった児亡き爺。
焦りを露にし、仲間である真っ暗返しの名を呼ぶ。
「ふん。私が友恵の母親の手を掴んでおる以上、此奴はこの場から動けん。残念だの」
「ギィ、ギギギ……」
友恵の母親が包丁を握る両手の内、右手首を掴むは猫又の手。
この手が離されない限り、友恵の母親はその場から離れる事は出来ない。
「真っ暗返しぃぃぃぃぃ!」
「ギギ、ギィ!」




