日情 ‐ニチジョウ‐ 肆
『霊力、霊視、感知。基本能力は高いのに、それを活かせる知恵がないってのは……ねぇ?』
「しょうがないじゃないですか。札とか水晶とか、道具を使うのは性に合わなかったんですから」
『あそこまで使いこなせないのはある意味、才能かもしれんねぇ。まぁ、自分がやりやすいスタイルでやるのが一番だけどさ』
「喧嘩も払い屋もシンプルでいいんですよ。シンプルがいいんです。下手に考えてドツボにハマるよか、マシでしょうし」
『供助君はいいねぇ。単純明快で解りやすい』
横田の悠長な口調ではあるが、決して馬鹿にしているのではなく。
納得、関心と言うべきか。加えてどこか、羨ましがるような感情も混ざっていた。
『そういう所が気に入ってるし、好きだけどねぇ。俺は』
「俺も横田さんのそういう飄々とした所、好きですよ」
『やめてよ。可愛い子に言われたら嬉しいけど、男に言われても気持ち悪いし鳥肌しか出てこないって』
「俺もです」
『じゃ、お互い今のは何も言わなかった事にしようか』
「それがいいですね」
本心か冗談か解らない会話を交わし、お互いが軽い笑い声を漏らす。
『さーて、俺も仕事を再開せんとなぁ。仕事の用件と妖怪の情報、それと場所の地図はあとでメールするから』
「はい。仕事が完了したら連絡します」
『はいよー。じゃよろしくー』
プッ、という短い電子音が鳴って切れる通話。
携帯電話の画面は通話中から待ち受け画面に切り替わった。
「電話終わったか、供助ー。お前の分は適当に買っといたぞー」
電話が終わるのとほぼ同時に、太一と祥太郎がコンビニから出てきた。
二人とも大きなビニール袋を持ち、祥太郎のは大サイズのペットボトルが数本入っていて重そうにしている。
「おう、丁度終わったとこだ」
供助は太一に返しながら、携帯電話をズボンのポケットに入れる。
「なら早くお前の家に行こうぜ」
「それなんだが、悪い。急用が入った」
「はぁ? なんだよそれ、こんなに買っちまったのどうすんだよ?」
「どうせ明日から三連休なんだ、別に今日じゃなくて明日でもいいだろ」
「そうだけどよー」
太一は肩をがっくりと落とし、見て分かる程にテンションが下がった。それだけ残念だったんだろう。
「もしかして、さっきの電話って……」
祥太郎が気付き、僅かに顎を上げる。
「あぁ。バイト、入っちまった」
供助は肩を小さく竦ませて苦笑いし、祥太郎に答える。
実際、三人で遊ぼうと予定していたのに、このように突発的にバイトが入る事は珍しくない。今まで何回もあった。
「そっか、なら仕方ないね」
「悪ぃな」
供助は祥太郎に謝り、そして、ふと。後ろを振り返る。
なんて事のない、普通の道路。コンクリートで舗装され、電柱が立ち、民家が並ぶ。
車が走って、人が歩きすれ違う。日常の風景。
「供助君、どうかした?」
何かあったのかと、供助に聞きながら祥太郎も同じ方を見る。
しかし、そこには別段珍しいものも、おかしなものも見当たらない。
「ん? あぁ、今……」
道路、家、車、人、空、木。視界に入る全てを見て、でも全てが違うと。
ただ、この景色のどこかを見ながら、供助は。
「――いや、なんでもねぇ」
何かを言いかけて、口を閉じた。はぐらかすように小さく笑い、でも少し寂しそうに。
やはり、違うと。違うんだと。供助は心の中で呟く。
趣味が合い、話が合い、ウマが合っても。違う所はある。違いはある。
でも、自分の場合は特殊で、特異で。小さい頃から慣れてはいた。人と違う事には。
仲が良い友達と居て、その違いを目の当たりにすると……思う。
きっと、いくら仲が良くても、理解出来るモノではないだろうと。
「明日な」
もう一度、供助はさっき見た方へと目を向ける。
さぁぁぁぁぁ――――弱く凪ぐ風が髪を揺らし、通り過ぎた。
供助の耳には。供助だけには。いつもの、あの。人には聞こえない音が聞こえていた。
遠いようで近いようで、居るようで居ないようで。
「明日また、集まろうぜ」
――――チリン。
そんな鈴の音がどこからともなく、聞いていた。




