出会いはまだ先
お題メーカー(仮)を使用した小噺となっています。
より文章に磨きをかけていきたいので、批評、感想など気が向いたらよろしくお願いします。
廻り廻る。
春の暖かさに心奪われ、恋をする。
夏の思い出のように無我夢中で走る。
秋の夕暮れと共に寂しさが到来する。
冬の雪が励ますように僕らの目の前に舞い落ちる。
廻った景色を忘れないよう、僕は目を閉じる。
あれは、真夜中のことだったと思う。
不意に、階下の桜が気になったのだ。
四月といえども季節外れの寒さの今日この頃。春の宴は未だに到着する見込みがなく、空には季節はずれな雪が深々と降り、蛙は再び眠りにつき、出会いは別れと離別できずにいる。先程流れていた天気予報では、出会いが別れと別れるには、来週までかかるという。
そいつはちょっと遅すぎやしないかね。と番組の引き立て役であった、コメンテーターは、天気予報士へ茶々を入れる。僕はこのなんにでも口を挟みたがる、コメンテーターがあまり好きではない。舌がよく回るやつは信用するなと口を酸っぱくして言われたからだろう。
解説を中断された天気予報士は、そうですね。とだけ応じ、色分けされた地図と共に、詳しい解説へと入っていく。外では膠着状態である桜前線へ、劣勢の枯葉達が決死の突撃を敢行。次々と発芽を始めるふきのとう達に玉砕されてゆく。そして桜は、ゆっくりと花開き、勝利の狼煙として、あるいは枯葉達の墓標として、戦場を飾ってゆく。要するに、春が訪れる。
しかし、それはまだこの地では先の話。僕は今年の春の流行を先取りしたとまくしたてるようになったテレビをリモコンで黙らせ、ゆっくりと窓辺へ近づく。煙草に火を点け、紫煙を吐く。
部屋の中で煙草を吸うと壁紙が黄ばんでしまい、それを嫌う人は多いのだが、僕は気にしない。もちろん、他所では気を使うし、屋外では携帯灰皿を持ち歩くようにしている。嗜好品の中でもあまりほめられたものではないと、世の中が騒がしくなった現在、あまり外で吸う人達は見かけることはないが。
テーブルの上の灰皿を手に取り、そこに灰を落とす。そうした余計なプロセスを経てやっと、僕は窓辺へと辿り着いた。
窓を開けると、冷たい24時の外気が体を包んだ。体を乗り出し、階下に立ち続ける一本の桜を見下ろす。
「咲いているじゃないか」
まだ、満開とはいえないまでも、蕾は開き、優しい桜色がところどころに見て取れた。考えてみれば、至極当たり前だ。いくら寒かろうが、もう四月なのだ。
季節は春で、出会いと賑やかな宴が仲良く手を取り合って訪れ、蛙は日差しの暖かさに目を覚まし、そして、空に雪は降っていなかった。
でも―
「まだだ」
まだ、僕は外に出ることは出来ない。彼女が訪れ、悲しみに暮れ大泣きし、そうして彼女が泣き止んだ頃に、僕のこの部屋の扉は開かれる。
そしたらどうするか。そんなことは決まってるじゃないか。
僕は僕のやるべきことを果たしに行く。つまり、彼女を慰めに彼女の許へ一生懸命走るんだ。
そして、追いついた僕は時間の許す限り、彼女を慰め続けるだろう。そして、立ち直った彼女と別れ、僕はひと夏の思い出を振り返りながら、ゆっくりと部屋へ戻る。