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少女は中学生のころ、学校の自転車置き場のそばで奇妙な拾いものをした。作文の藁半紙で包まれた消しゴムだ。いや、消しゴムはうげばっちぃとすぐさま捨てたから、手もとには作文だけが残った。それは空から降ってきた。思わず空を仰いだが、もちろん青空があるだけだった。校舎も見てみたが、誰の姿もなかった。
はて、なんだろう? ひとまず作文を読んでみると、大切な人との出会いは舟でさまよっていた海で偶然出くわすものだという、大仰な夢が書かれていた。
なにこれ? いわゆるエッセイ? 少女には理解しがたかった。だけれど、大切な人との出会いは、「大丈夫ですか?」ではじまるというのには、共感できた。だから、この作文の持ち主に会いたいと思った。誰だろうと名前を見てみるが、無記名だった。謎が謎を呼び、少女は落ち着かなくなった。なんとしてでも、この人に会いたいと思った。
うわっ、やばっ、わたしもしかしてこの文の主にフォーリンラブってる?
少女は名もなき作文に恋をした。
そして今、少女は高校生となり、校舎の屋上で大の字になって倒れている。少女もふくめて、あたりは海洋生物でものたうちまわったあとのように湿っている。
勝ち誇ったように笑みをたたえて、彼女は空にむかって拳を突きあげた。「きみが好きでした」とつぶやいた。それからむんずと起きあがり、エナメルのバックを背負ってすぐさま屋上から逃げ出した。数分後、数名の教員が屋上へやってきたが、500mlペットボトル(カラ)2本と珍妙なホースと板の融合体が残されているだけだった。「人工雨か?」と、教員の1人がつぶやいた。
少女は1階まで降りると、1度グラウンドへむかった。だが、ロケットの姿は見あたらなかった。ただただ、運動に励む生徒たちの姿があった。そのほうが都合が良かった。
時計を見ると、もう間もなく5時になる。下駄箱で待ち合わせがあるから、すぐに戻らねばならない。と、少女はみじめにまるめられた紙を見つける。これは! と鼻の穴をおおきくしてそれに近づいた。拾いあげて広げてみると原稿用紙だった。文章のかわりに、名前が書かれていた。
なんの偶然だろうか? と、ひとまずその紙を折りたたんでスカートのポケットへ入れた。書かれていたのは、待ち合わせている相手の名前だった。
下駄箱まで戻ると、すでに待ち合わせの相手がいた。手持ちぶさたに立ちつくしていた少年は、少女を見て「なんでずぶ濡れなの?」と聞いた。
「愛を叫んできたの」と少女は答えた。
「偶然だね。俺は愛を叫ばれたような気がしたところだよ」と少年は笑う。
少女はちょっとからだを固くしてから、「あぁ」と頬笑み、そっか、見つかったんだっと思った。
〈了〉
以上で『おちるおもい』は終了です。お読みいただき誠にありがとうございました。