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おちるおもい  作者: 一筆
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 3-2組の教室の片隅で、少女が目のまえの机に乗っている藁半紙を見ている。20字×20行で書かれた文章が、A4用紙に上下2段に記されている。上段の右隅には、「私の将来の夢」と印字されている。1度鼻でもかんだように皺だらけの紙だった。

 少女は藁半紙を丁寧にふたつ折りにして席を立ちあがった。教室の中には、彼女しかいなかった。グラウンドから、運動部のかけ声が聞こえてきた。

 藁半紙を胸にいだいて、少女はこつんこつんと踵を鳴らして歩く。背中ではエナメルのバックが左右に揺れている。廊下に反響する足音は、やがて空間のしじまにとけていく。

 下駄箱にもまた、静けさが所狭しと行き渡っていた。軽やかなステップで少女はそこを行き過ぎた。3年生の下駄箱までくると、出入り口近くにある傘たてへ足をむけた。そこに傘は1本もささてはおらず、かわりにタイヤの空気入れがひょろっとたっていた。それを彼女は手にする。それから下駄箱をあとにして、別棟の階段をあがって行った。どんどん駆けあがり、2階3階と越えて行く。4階までくると渡り廊下へとむかい、だがその手前にある自動販売機のまえで足をとめた。バックの中からスカイブルー色の財布(ガマ口タイプ)をとり出して、100円硬貨を2枚選びとった。その200円でペットボトルの水を2本買った。

 少女は再度階段を目指す。右手に水のペットボトル2本。左手には空気入れ。背中のエナメルのバックが、太陽を反射してきらりとまたたくのが隣の校舎から確認できる。だが、そうだと認識したものはいない。

 4階の階段をあがり、ついに屋上へいたるドアのまえに少女はたった。

 ドアは勢いよく開け放たれた。青空と静寂に占められた屋上が、とたんに暴音とひとりの異物によって締め出された。しかし、引いた波が戻るように、すぐさま静けさが広まった。

 少女は屋上を横切り、柵に寄りかかった。そして、おおきく1回叫んだ。その声に、グラウンドで活発に動く少年少女たちが天を仰ぐ。日常から乖離した異物が空を横切る影でも見たように。遥か頭上に銀色の飛行船がうかんでいた。

 バックから少女はペットボトルロケットとガムテープをとり出した。ペットボトルロケットに藁半紙を巻いて、ガムテープでとめる。

 バックを足もとへおろして、水をひとくち飲む。ペットボトルロケットを逆さにして、噴射口をオマージュする飲み口へ、水のはいったペットボトルの飲み口を近づける。ゆっくりと、せせらぎのように水を置換させる。500mlのペットボトルにはいっていた水を、1.5L入りのペットボトルへと移す。移し終えると、カラになったペットボトルは屋上の中央にむかって投げ捨てた。それからもう1本のペットボトルをあげて、すべて移す。移し終えてカラになったペットボトルが、屋上の宙を舞う。

 ペットボトルロケットを手に持ったまま、思い出しように片手でバックの中を少女は漁る。そして板とホースと釘(と少々の愛情)で組みたてられたペットボトルロケットの発射台をとり出す。

 発射台のホースへペットボトルロケットを繋ぎ、しっかりと口を固定する。これがあまいと、口からどんどん水が漏れてしまう。大変重要な作業だ。それから空気入れの送空口をホース逆側の突起に噛ませる。ちゃんと結合させなければ空気が漏れてしまうため、これも重要な作業といえる。

 少女は、1歩2歩とあとずさる。セットし終わったペットボトルロケットの全景を目にとらえて、「Good」と頬笑んだ。


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