第24話 和解
風呂にも入り終え、復習でもしようかと思っていた矢先にドアがノックされた。
「尾崎君、いる?」
「あ、はい」
その声の主は寮長でもある田土先生であった。
「ごめんなさいね」
「いえ。それで何の用ですか?」
謝ってくる先生に、俺はそう答えると用件を尋ねた。
「あなたにお電話です」
「俺に……ですか?」
「ええ、あなた宛ての電話です。あまり待たせるといけないので、早く出てくださいね」
「はい、分かりました」
突然の事に、頭の中はかなり混乱しているがそう答えた俺は、電話がある場所へと向かった。
(俺に電話してくるような人っていたか?)
その道中、俺は電話するような人物がいたかどうかを考えていた。
父さんはよほどのことがない限り電話などはよこさない主義だし、親せきなどもいないためやはり電話をするような人物に心当たりはなかった。
(嫌な予感がする)
だが、俺は妙にそんな感じがしていた。
そして、それが現実のものとなることも、この時の俺はまだ知りもしなかった。
矛盾の魔法使い 第24話「和解」
「はい、お電話変わりました。尾崎です」
俺はとりあえずそう告げた。
『尾崎 圭一様ですね。突然のお電話失礼いたします』
電話口から聞こえたのは、優しい感じを受ける男の声だった。
『私、神谷家当主、神谷秀三様の使いをしている、金倉と申し上げます』
「ッ!?」
俺は、その男の人の口から出た名前を聞いた瞬間、思わず息を飲んでしまった。
神谷 秀三、彼は神谷家の現当主でもあり、俺を捨てた男でもあるのだ。
実際のところ、俺を捨てたことに対する恨みはもうないが、だからと言って許せることでもなかった。
「その神谷家の使いの方が、自分に何のご用でしょうか?」
だからこそ、口調が少しばかり攻撃的になるのも仕方のないことだった。
『はい。秀三様から、神谷家に戻らぬかという提案をお伝えするために、お電話した次第でございます』
(何をいまさら)
俺は思わず口に出してしまうのを必死に抑え込んだ。
「大変ありがたいお言葉ですが、結構です」
『ですが、圭一様――――』
俺の答えに、金倉さんはなおも食い下がり続けた。
そのたびに俺は拒否の意思を示し続けた。
そのやり取りを数十回も続けると、金倉さんは諦めたのか一息ついた。
『分かりました。しつこく申し上げてしまい、大変失礼しました』
「いえ。………金倉さん」
俺は、あることを頼もうと金倉さんの名前を呼んだ。
『はい、何でございますか?』
「当主の方に、伝言を伝えてほしいんですが、良いですか?」
『はい。喜んで承りましょう』
俺の申し出を、快く引き受けてくれた金倉さんには頭が上がらないなと思いつつ、俺は伝言を口にした。
「『申し訳ありませんが。私は尾崎圭一。神谷ではありません』とお伝えください」
『かしこまりました。それでは』
俺の伝言を聞いた金倉さんは、そう告げると電話を切った。
それを確認した俺も、受話器を置くのであった。
こうして、一日は幕を閉じた。
翌日、朝礼で俺達は表彰式を受けていた。
「尾崎圭一、中井奈々殿、貴殿らはクラス対抗魔法戦で、優秀な成績を残されました。よってここに表彰いたします」
表彰状を読み終えると、中井さんが表彰状を、俺が優勝トロフィーと記念品を受け取った。
それと同時に、拍手が湧き上がった。
それは主に3組からだった。
そんなこんなで朝礼は幕を閉じた。
「いや~、まさかお前が神谷家の魔法使いだったとは知らなかったよ」
「一応”元”だからな。それと、あまりそのことは言わないでくれ」
俺は苦笑いを浮かべながら、隆に告げた。
俺自身、神谷家の者であることは忘れたいことだ。
「………分かった」
そのことを分かってくれたのか、隆は頷いた。
そして俺は周りを見回してため息をつく。
「早くいつも通りにならないかな」
今、クラス中では俺の事(具体的に言えば俺が神谷家の魔法使いであること)でもちきりだ。
尊敬と好奇心の視線が、何とも居心地が悪くて仕方がない。
「とは言え、そうそう戻らないだろうな」
「ああ、さっそくの問題だ」
「うおッ!? 功樹か」
隆の言葉を引き継ぐようにして現れた功樹に、俺は思わず半歩後ずさってしまった。
「お前に客だ」
「客?」
功樹の言葉に、俺は功樹が示す方向を見た。
その方向……廊下に続く扉の方に立っている勘坂の姿があった。
「………」
勘坂は俺の姿を見つけるや否や、教室へと足を踏み入れた。
その姿を見たクラスメイトは、一気に静まり返った。
そして何事だとばかりにざわめいていた。
「まさかお前が神谷家の魔法使いだったとはな。騙された物だ」
「それに関しては謝る」
勘坂の嫌味が混じった言葉に、俺は軽く謝った。
「だが、お前の勝利だ。謝る必要は………何だこれは?」
「見てわからないか? 優勝トロフィーだ」
勘坂の言葉を遮って、勘坂に優勝トロフィーを差し出した。
「俺はお前に負けた」
「何を言ってるんだよッ!? お前は勝ったじゃないか!」
俺の言葉に隆がまくし立てるが、俺はそれを無視した。
「あいつの言葉を借りるわけではないが、その通りだ。お前が勝った」
「でも、あれは俺の力じゃない。それに俺はあの時の記憶がないんだ。それなのに俺が勝ったなんて言えるわけないだろ」
勘坂の言葉に俺は反論した。
本当であれば優勝トロフィーだけでも返上しようと思ったのだが、田土先生からそれは失礼だと言われていたので受け取ったのだ。
「……なるほど、お前の言い分は理解できた。だが、受け取ることは出来ねえ。それを受け取る時は、この俺様がお前を倒した時だ」
「次こそは正々堂々、お前に勝って見せる」
勘坂の宣言に、俺も宣言し返した。
「俺様は、勘坂 正だ。よろしく」
「……俺は、尾崎 圭一。こちらこそ」
自己紹介とともに差し出された手を取り、俺と勘坂は握手を交わした。
だが俺にはそれが、お前をライバルと認めると言っているようにも取れた。
「ではな。授業も始まるし、俺は失礼する」
そう言って勘坂は俺達に背を向けると廊下に向かって歩き出した。
「っと、そうだった」
途中で、何かを思い出したのか足を止めてこっちに戻ってくる。
「出来損ないや今までの暴言、すまなかったな」
「別にかまわないよ。本当の事だから」
勘坂の謝罪に、隆たちが『信じられない』と言っていたが、それを無視して俺は答えた。
そんな俺の言葉に勘坂はフッと笑うと、今度こそ教室を後にしていった。
「何だか友情が出来上がっちまったようだな」
「友情じゃなくて好敵手だ」
それを見届けた俺に声をかけてきた隆に、俺はそう反論した。
こうして、俺は再び日常がやってきたのであった。
俺達は訪れた日常を満喫できると思っていた。
そう、この時までは。




