第22話 独白
「ん……」
気が付くと、そこはどこかのベッドの上だった。
(確か俺は……)
俺は何があったのかをたどることにした。
勘坂にやられて、そしたら突然変な場所にいて、変な声を聴いた。
それが、俺の覚えていることだった。
俺はベッドから起き上がると辺りを見回した。
どうやらここは保健室のようだ。
その時、保健室の扉が開く音がした。
そして扉を開けた人物が姿を現した。
「あ、尾崎君。目が覚めたんだね」
「中井さん……」
その人物は、中井さんだった。
服装は制服に戻っていた。
「良かった……尾崎君あれから4時間も眠り続けてたんだよ」
「心配かけて悪い。中井さんは?」
俺は謝ると、中井さんに疑問を投げかけた。
中井さんも思いっきり蹴り飛ばされたりしていた。
ある意味俺よりもダメージが激しいはずだ。
「私は大丈夫だよ。ちょっとだけ衝撃があったけど基本的にはMSに守られているから」
「そうか……」
俺は中井さんの答えを聞いて、ほっと胸を撫で下ろした。
もし中井さんが怪我でもしたら、俺は自分を許せなくなるだろう。
俺の未熟の性で、人を怪我でもさせたら。
「ところで」
中井さんは、話の腰を折ると言いだしていいのかをためらっていた。
俺はベッドから降りて立ち上がる。
「良いよ。なんでも言ってくれ」
「尾崎君は………神谷家の人なの?」
突然告げられたその疑問に、俺は驚きを隠せなかった。
それは、俺が今まで隠してきた誰にも知られたくない過去の事だったから。
「………ああ、そうだ。もっとも、”元”ではあるけど」
「元? 何かあったの?」
俺の含みのある言い方に、中井さんがさらに食い下がってきた。
「勘当されたんだ。5歳の時に」
「勘当ッ!? どうして?」
俺の言葉に、驚きを隠せない様子で叫ぶと、その理由を俺に訪ねてきた。
「歩きながら説明する」
そう言って、俺はゆっくりと歩き出した。
矛盾の魔法使い 第21話「独白」
外はすっかり薄暗くなりつつあった。
俺達は終始無言で校門まで歩いて来ていた。
「魔法使い優遇制度って知っているか?」
「……聞いたことがある」
俺の突然の問いかけに、中井さんは静かに答えた。
「魔法使いの子供がいる家には所得税や住民税などの税金を免除する法律さ。魔法使いの子供を育て上げることを目的にしたんだろう」
「でも、それって確か魔法使いじゃない子供がいると……」
俺の法律の概要の説明に相槌を打ってきた。
この法律は、歴史上稀に見る悪法と言われる所以を誰もが知っている。
「そうだ。魔法使いではない子供のいる家には、税金が最大で3倍になる」
その方が制定された当時、魔法使いは日本国民のうち約3割を切るくらいしかいなかったのだ。
しかもそれが子供となると、1割行くか行かないか。
「要するに、政治家は税金と称してお金が欲しかっただけなんだ。だから甘い蜜を吸わせようとした」
実際、この法律が建てられた5年後には財政がよくなり、国の借金も8割返済できた。
「その結果発生したのが、子供の育児放棄そして人身売買」
「ッ!!」
俺の言葉に、中井さんが息をのんだ。
「認知した子供を強引に離縁させる。そんなことがよく行われるようになった。当然だよな……そのまま行けば自分たちが生活が出来なくなるんだから」
「………それって、自分の子供を捨てるっていう事?」
中井さんの言葉に、俺は無言で頷いた。
「そして、魔法使いの子供がいる家族は、その子供を商売道具として利用した。当時では一人当たり100~300万円ぐらいの値で売買されていたらしい」
「そんな……」
俺から告げられた真実に、中井さんが信じられないとばかりに呟いた。
当時、人身売買や子供を捨てるなどの行為は社会問題と化していた。
しかし、それを免れるために政府は救済制度を設ける。
それは、申請のあった家庭に対しての税金の納付額を減額させるという物だった。
一見すれば、ものすごくいい制度に見えるかもしれないが……
「殆どの申し出が拒否された。当然だよな、なんせ減額分は申し出を受任した人物の給料から差っ引かれるんだから」
「………」
「まあ、その制度は10年ほど前に廃止になった。当然だけど」
俺は最後にそう付け加えた。
「俺は、魔法適性が一切なくてな。それで神谷家に捨てられたんだ。その後、俺を引き取ってくれた人がいた。そして俺はその人の姓を借りて今こうして暮らしている」
「…………ごめんね。いやな事を聞いて」
「気にしなくても良いよ。もう俺の中ではどうでもいいことなんだ」
中井さんの申し訳なさそうな言葉に、俺はそう返した。
「今の俺はただの尾崎 圭一。それ以上でも以下でもない」
「そう……なんだ。強いんだね、尾崎君」
「俺は強くないよ。現に負けたんだし」
中井さんの優しい言葉に、俺はそう言った。
今日の試合の顛末は知らない。
だが、あれはどう見ても俺の敗北だ。
「え? 何を言っているの。私達が優勝したんだよ。尾崎君が相手を倒して」
「はい? 一体何を言ってるんだ?」
中井さんの言葉に、俺は首を傾げながら返す。
俺自身には倒したような記憶はない。
だが俺には気になることがあった。
「そう言えばどうして俺が神谷家の人間だということを知ってるんだ? それを知っているのはごく限られた人物だけのはずだ」
「覚えてないの? 尾崎君、背中に銀色の翼を生やしたこと」
中井さんの言葉に、俺は衝撃を受けた。
「ああ。どうやら、その記憶がごっそり抜けおちているようだ」
「………きっと記憶が混乱してるんだよ」
中井さんの仮定に、俺は『そうかもな』と答えた。
話が終わると同時に、目の前には寮が見えてきた。
俺はそのまま寮の中に入るのであった。
(何で、あれが……”クリスティル・ウィング”が発現したんだ?)
そんな疑問を抱きながら。




