第20話 超えられない壁
フィールドに入ると、勘坂はゆっくりと俺達に近づいてきた。
「出来損ないのくせに、決勝戦に来れるなんてな、まあよくやったと褒めてやろう」
「そりゃどうも」
勘坂の見下すような笑いを浮かべながらの言葉に、俺は平常心で答えた。
「だが、それもここまで。貴様らはここで負けるのだからなッ!」
「決勝戦を開始します。それぞれ所定の位置についてください」
勘坂が宣言した瞬間、審判の教師が静かにそう告げた。
勘坂はもう一度俺を見ると、鼻で笑い反対側……パートナーがいる場所まで戻って行った。
「それでは決勝戦、3組対4組の試合を開始します。お互いに、礼ッ!」
審判の教師の言葉に、俺達はお互いにお辞儀をする。
「それでは、始めッ!」
その合図と同時に、俺達は一気に動き出した。
一気にフィールドを駆け抜け、勘坂のペアの背後に回り込む
「ラム・ルストス・ナテリアル・メルサス………」
さらに中井さんが魔法の詠唱を始めた。
「尾崎武術……」
「遅いんだよッ!」
ペアの男子学生が反応し、反撃をしようとする。
だが、遅かったのは男子学生の方だ。
「閃っ!」
剣に纏う白銀の魔力のために白く輝く剣で、男子学生を斬りつけた。
「がはッ!?」
「ヴィーナス・テルティア!!」
さらに同時に中井さんの魔法詠唱が完了し、金色の魔法弾が勘坂たちに向けて放たれた。
「ぐぅッ!!」
斬りつけられた衝撃で飛ばされていた男子学生が、それらを避けることはまず不可能であり、結局全弾を被弾することとなった。
『勘坂ペア小暮氏のMS停止を確認。退場ッ!』
「クソッ!」
小暮と呼ばれた男子学生は、悪態をつきながらフィールド外へと去って行った。
対する勘坂は全く動揺せずに、清々しそうに立っていた。
やがて、俺の方へと右手を動かすと
「ルピア」
そう静かに呟いた。
矛盾の魔法使い 第20話「超えられない壁」
俺は突然の受けた攻撃の衝撃で、中井さんの立っていた場所まで吹き飛ばされた。
「グフッ!?」
「尾崎君ッ!」
慌てて駆け寄る中井さんに大丈夫だと伝え、立ち上がった。
「今のを防いだか。出来損ないのくせによくできるじゃねえか」
勘坂は笑みを浮かべていた。
あの時、勘坂はたった一詠唱だけしか唱えていなかった。
それが意味するのは一つしかない。
「詠唱破棄か」
「お、よく分かるじゃねえか。そうさ、俺様が最強たる力さ」
基礎フレームなどの詠唱をせずに必要な部分だけの詠唱で魔法を発動させようとする技術。
それが詠唱破棄だ。
失敗すれば威力などが下がったり、最悪の場合には魔法自体が発現しないこともある。
勘坂は詠唱破棄行えることが、強みなのだろう。
「もう一度くらいな。バリンティウス」
勘坂から黒い魔法弾が放たれる。
俺はそれを冷静に目で見る。
魔法弾の数は”5”
それぞれにはタイムラグがあり長さは0.03秒と言った所だ。
ならば、出来るだけ素早く剣を振りぬく。
問題はない。
鍛錬ではいつもやらされていたことだ。
そして、間合いへと入ってきた。
「バリンティウスッ!!」
俺は、出来るだけ素早く魔法弾を斬って行く。
斬られた魔法弾は、勘坂の元へと戻って行く。
「バレント」
勘坂はそれを防御障壁で防ぐ。
「エスタティア!」
だがそこに、身体強化魔法で強化され目まぐるしい速さで駆けぬいて背後を取っていた中井さんが杖を振りかざす。
それが決まれば一気に崩せる。
そして中井さんの攻撃が直撃すると思った瞬間だった。
「ルピア」
「きゃあ!?」
勘坂の詠唱によって、中井さんの体は一旦宙に舞うと重力に従って落下する。
「うるさいんだよ。雑魚が」
「かはッ!?」
だが、それを狙っていた勘坂は中井さんを俺の方まで蹴り飛ばした。
「中井さんッ! 大丈夫か?!」
「う、うん。なんと……か」
俺の言葉に頷く彼女だが、その表情は苦痛に歪んでいた。
そんな俺達の様子に、勘坂の顔色が変わった。
その表情にあるのは憎悪
「ちゃらちゃらと鬱陶しいんだよ。雑魚と出来損ないの分際で。二度と俺様に立てつけないように、躾けてやるっ!! バレット・ルピア!」
「がッ!?」
「きゃあ!?」
勘坂の詠唱が終わった瞬間、俺達の周囲が爆発を起こして吹き飛ばされた。
「バリンティウス」
「ぐッ!?」
さらに俺に向けて魔法弾を放ってきた。
成す術もない俺はただ喰らうことしかできなかった。
「ふんっ! しぶてぇ奴だ。だったら、俺様のとっておきをくらわしてやる。バルム・ルピア・エニシエンティウム……」
勘坂の詠唱が聞こえる。
だが、俺は起き上がることもできない。
ふと横を見れば、中井さんが地面に横たわっているのが見えた。
そして、首元を見ると赤く点滅するMSが見えた。
もうあと一発被弾すれば終わりだろう。
そんな諦めにも似た感じがした時、その声は聞こえた。




