第1話 到着した場所は準田舎?
「■■さま。お待たせしました」
それは昔の思い出だ。
「息子さんの魔法適性は………」
目の前にいるのは白衣を来た医者。
「ございません」
その宣告が、俺にとっての地獄の幕開けとなるものであった。
矛盾の魔法使い 第1話「到着した場所は準田舎?」
「はっ!!?」
目を開けると飛び込んでくるのは、一面森や畑の自然だった。
聞こえてくるのは等間隔で聞こえる電車の音だった。
「……なんだ、夢か」
俺はほっと胸を撫で下ろす。
俺の名前は、尾崎 圭一、どこにでもいる高校生だ。
俺はこれから通うことになる高校がある場所へと向かっていた。
『次は終点、鳴神です。お荷物のお忘れ物がないよう、ご注意ください』
そんな時、終点を知らせるアナウンスが聞こえてきた。
俺は急いで席を立つと、ドアのほうに歩いて行った。
こうして、俺は鳴神市に降り立ったのだ。
――鳴神県
一言でいえば農業で盛んな街だ。
都会と言うよりかは準田舎の方がしっくりくる。
畑しかなく、交通があまり発達していないのがその理由だ。
かくいう俺も、そういう場所でないといけないわけがあった。
まあ、目的地はここよりは断然都会なのでいいことには良いが。
「えっとバスは……30分後!?」
突然の洗礼だ。
俺が行くのは鳴神高校だ。
鳴神県で有数の進学校で、競争率が高くて有名だ。
そして俺は上栄荘に下宿して通うことになっている。
その上栄荘があるのが鳴神県鳴神市なのだ。
「とにかくバスを待つか」
俺は停留所にあるベンチに腰かけて、バスが来るのを待った。
「まだか……」
過ぎ去ること15分。
俺はまだバスを待っていた。
今の季節は5月の中旬とも相成って、ただ単に熱いのだ。
(こんなんだったら、厚着してくんじゃなかった)
朝の予報では冷えると言っていたのを信じて、厚着で来た俺がまるで馬鹿みたいだった。
「のどが渇いたけど、自販機って近くにあったっけ?」
俺はあたりを探すが、そんなものは見当たらない。
(まいったな)
俺が内心で困り果てていた。
「はい」
そんな時、誰かが俺にペットボトルを差し出した。
いつの間にか、目の前に人が立っていたようだ
「え?」
俺は顔を見上げた。
そこにいたのは、ピンク色の髪を短く切り揃えて、目がくっきりとしている少女が立っていた。
「え? じゃないよ。のどが渇いたって言ってたから、これあげる」
「いや!? そんなの悪いよ!!」
俺は自分の不注意が招いたことなので、断ろうとしたが、少女は強引だった。
「いいって。それに君ここに来たの初めてでしょ? だから飲んでいいよ。私はもう一本持ってきてたし」
そう言って少女はバッグから水筒を取り出した。
「………そ、それじゃ、お言葉に甘えて」
俺は少女からペットボトルを受け取った。
「よいしょっと」
「……君もここのバスを使うの?」
俺は横に腰かけた少女に聞いた。
「うん。ちょっと用事があって隣町まで行ってたの」
俺に少女が答えた。
よく見れば少女の服装は青色のシャツを着て、紺色のスカートを穿いていた。
「ん? どうかしたの?」
「あ、いや!? なんでもない」
俺は慌ててペットボトルのキャップを開けて中身を口に含んだ。
「ッ!?!?」
その瞬間、口の中に何とも言い難い味が広がった。
そう、言うなればお茶に砂糖とガムシロップそしてクリームを入れたような感じだ。
「どうかな? スイート緑茶って言ってね、私のお気に入りなんだよ」
嬉しそうに聞いてくる少女だが、名前通りだ。
「ま、まあいいんじゃないかな?」
俺は『甘すぎだ!!!』とは言えずに、辺り障りのない感想を言う事にした。
「あ、私は中井 奈々(なかいなな)って言うの」
「俺は尾崎圭一です」
とりあえず名前を名乗り合うことにした。
「尾崎君だね。ここで会ったのも縁だから、私がバスが来るまで色々と教え――って、もう来ちゃった」
俺はこの時ほど時間が経つのが早いと思ったことはなかった。
「まあ、私も乗るから問題はないよね」
中井さんは自分に言い聞かせるように言うと、バスに乗った。
それに続くように俺も乗るのだった。
「それじゃ、ここでお別れだね」
「ああ、色々と教えてくれてありがとな」
ようやく到着した鳴神市の停留所で、俺は中井さんにお礼を言った。
「そんな、お礼を言われるようなことはしてないよ」
「いや、中井さんのアドバイスもかなり役に立ったよ」
中井さんのアドバイスは、この街のおすすめスポットや、特色など分かりやすく説明してくれたことだ。
そのおかげで簡単な知識が身についた。
「商店街はこの道をまっすぐ進めば行けるよ」
「ありがと」
ついでに商店街への行き方を聞いていたのだ。
「何だか、また会えるような気がするね」
「同感だ」
なぜだろうか、中井さんとまた会えるような気がしてならなかったのだ。
「もしまた会ったら、その時もよろしくね」
「……こちらこそ」
俺は彼女にそう答えると、中井さんはそのまま歩き出した。
(彼女は魔法使いなのかな?)
俺はふとそんな事を考えてしまう。
この世界では”魔法”と言うのが存在する。
それはいい意味でも悪い意味でも世界に革命を与えた。
政府は魔法使いの育成機関が重要と言う事で、魔法使いを育成する機関を作り出していった。
魔法=便利な物。
そんな等式しか頭になかった。
政府は常に自分にとって利益になることしか考えてないのだ。
それがどのような結果になるのかを知らずに
そしてそれに伴って増えたのが魔法使いによる犯罪だ。
相手は魔法使い、普通の人では対抗も出来ない。
それを裏付けるように、魔法使いの育成機関が出来てから魔法を使った犯罪は8割増しとなっているのだ。
強い者が弱い者を虐げる。
あってはないことだが、それが現実だ。
さらには魔法使いとそうでない物との差がはっきりしている。
魔法適性のある子が生まれた家庭に国は育成費を出すと言う政策を出した。
しかしその裏で、魔法適性のない家庭では税金を増やしているのだ。
それに伴って、適性のない子供を捨てたりする非常識な親が急増した。
ありえないかもしれないが、それが今の社会なのだ。
(………まあ、いっか)
俺は暗い雰囲気になるのを必死に堪えて考えるのをやめた。
そして俺も商店街へと向かうのだった。




