変わった二人
変わった二人が親しくなるきっかけ。
今回、目茶苦茶普通。
暗いお話じゃない。
そこまで悲しい?感じでもない。
やべ、まとも。
こういうお話久しぶり。
『よし、カオスでもバッチこいやぁああああああ!!!!!受け止めたるっ!!』
という優しいお方はどうぞお進み下さい。
『新撰組死ね!嫌いだ!』
という方はお帰り下さい。新撰組はとっくの昔に亡くなってる事をお忘れなく。
いや、普通にどうぞ。
→
僕は本を読むのが一番好き。
誰も急かさず、僕のペースで進められる。
鈍臭い僕はやる事なす事周りに迷惑かけて、ダメダメだから。
本を読む事は周りに被害がないし、怒られることもない。
蔑まれることもなければ、注意を受けることもない。
僕一人の世界。
勉強よりも友達といるよりも楽しい。
知識も高まるし、得るものが沢山ある。
本が生涯のパートナーでも良いくらい。
どんなジャンルでも読みあさる。
ジャンル=本の氏名で、タイトル=本の名前。
友達みたいに読んだ本のフルネームを覚える。
一度知り合った本は忘れないようノートにフルネームを書く。
もうノートは十冊目だ。
並べられている本の名前を読み返す度に、沢山友達ができた気分になれる。
全部違う名前。
人間と同じように、本もそれぞれ違うんだ。
僕は本を読むのが好き。
人間よりも、並べられた文章が好きだ。
この司書の仕事は天職だと思える。
ありがとう、司書っていう職業を考えてくれた人。
アナタが神様です。
顔も名前もわからないけど、大好きな人間です。
今日も司書の仕事の合間に、新しい本との出会いを満喫していた。
思わず顔が緩む。
多分気持ち悪い顔をしているかもしれないけれど、そんなのは気にしない。
人間に嫌われても、本には絶対嫌われない。
本に嫌われたら僕は死ぬ。
それくらい本が好きだ。
「あ、あの!」
「はい?」
本の整理をしている間に読み耽ってしまっていた。
奥の方だから人も少ないし、先輩にバレないからちょくちょく立ち読みしてしまう。
本から顔を上げて、声を掛けられた方を向く。
高校生や大学生くらいの男の子が緊張した様子で立っていた。
スポーツバックを掴んで、緊張からか顔を赤くさせている。
何か僕に用があるのだろうか?
こんな奥の方の本を読むタイプには見えないけど。
実際、この辺りには人が少ない。
「あの!俺、最近越してきたばかりで、友達もまだ出来てなくて、何度か暇つぶしに本を借りに来たんですが、あんまし詳しくなくって!司書さん、楽しそうに本読んでるから、きっと面白い本を知ってそうだな、と思って!ノートに何か書いてるの、ちょくちょく見かけるし!
よ、よかったら、オススメの本、紹介してくれませんか!?お願いします!」
「も、もうちょっと声を小さくしてくれるかな?他の利用者さん達の迷惑になるから。ね?」
「あ、すみません。緊張してて…すみません。」
後頭部に手を当てて申し訳なさそうに謝る。
体育会系というか、彼は家で本を読む知的なインドアではなく、皆で外で遊びに行くスポーツ好きなアウドドアに見受けられる。
僕とは対照的。
友達がいないから外で一緒に遊べる相手がいないのか。
高校生や大学生にとっては悲しい青春だな。
軽く同情してしまう。
しかし、彼は小説や哲学よりも漫画とかの方が断然好きそうだ。
僕も漫画は小説と比べると少ないが、嫌いではない。
だって同じ本だし。
本を嫌うわけがない。
全ての本は僕の友達だ。
僕はそれくらい本を愛してる。
本気でラブ。
確か、此処の図書館にも漫画のコーナーがあった筈、そこを紹介するか。
小説よりも彼に合いそうだし。
「漫画のコーナーには行った?そこなら、君の好きそうな本がありそうだけど。」
「あ、もう全部読み終えました。幼児向け以外は。」
「え?」
普通の事のようにアッサリ言う彼。
まさかの全部読破。
これは予想外。
漫画コーナーは狭いけど、量はそこそこあった。
三百冊前後はあった。
彼はそこまで暇だったのか。
余計哀れに思えてきてしまった。
彼の青春に色がつく事を願わずにはいられない。
僕は本があれば年中カラフルだけど。
それは置いといて、漫画は無しになったか。
ならばファンタジー系はどうだろうか。
戦闘や恋愛なども含めたジャンルだし、漫画とは違って文字だけだから想像を膨らませやすい。
バトルものが好きそうな彼なら喜びそうだ。
漫画コーナーの近くに置いてあるはず。
僕のオススメの名前を何種類か教えてあげよう。
「じゃあ、ファンタジー系はどうかな?バトルものとか、冒険とか好き?」
「あ、それも適当に読みあさりました。好きそうなやつとか、二日かけて一巻から最後までシリーズ読破したり。」
ヘヘッと照れ臭そうに笑う爽やか青年。
ワォ、またまた予想外。
見た目によらず、案外本を読むんだね。
適当に手に取ったシリーズを全巻、二日で読破する人は少ないよ。
僕も君と似たような感じだけどさ。
マジか、この子以外にも本好きなんだ。
外見とのギャップがあって、女性とかにモテそう。
爽やか好青年だし、見るからに優しそうな印象だ。
僕とは全然違う人種だ。
根暗な、本大好き愛してるという変人とは。
自覚はあるんだよ。
けどさ、やっぱり好きなんだよね、本が。
さてさて、漫画とファンタジーが消滅してしまった。
見た目で考えるのは止めた方が良さそうだ。
ギャップがあり過ぎる。
ふむ、オススメの本は山ほどあるが、彼の好みもある。
ゲームの攻略本しか読まなさそうな外見の彼。
ふむ、難しいな。
人に勧めた経験が皆無だから尚更。
学生が好きそうな、僕が学生時代に好きだった本…んー、めっちゃある。
そこから色々と絞るか。
「何系が好き?推理とか、恋愛とか、さっきのバトルや冒険とか、哲学やノンフィクションとか。」
「バトルや冒険物は勿論大好きです。学園物やミステリーも、歴史物が最近多いです。白〇魔記とか、新撰組の話。最近新撰組のゲームやドラマとか多いですよね!俺、沖田総司が一番好きなんです!
沖田総司は他の新撰組の人達と同じで色んな説がありますが、小柄で近藤をずっと慕っていたそうです。剣技は天才的で、十代のうちに免許皆伝に達したとか。京都で新撰組一番隊を率いて活躍したけど、結核を患い若くして死んでしまうのが有名ですよね。幼い頃に両親を亡くしてお姉さんに育てられたのと、子供好きなのも。美形で病弱ってイメージが世間では通ってますけど、それは新撰組を題材にした作り話だけで、実際はわからないとか。ですけど、やっぱり剣技の天才で子供好き、沖田は憧れです。俺もあんな風に慕われるような立派な人間になりたいです。」
「そ、そうなんだ。」
「…ハッ!すすすみません!俺ばっかり喋ってて!あ、また煩くしてすみません…。」
ペコペコと頭を下げて謝る彼。
趣味の話になると夢中で語り出すタイプか。
両手を顔に添えて夢見心地に語る彼は生き生きとしている。
周りが輝いたり、花が咲き誇る。
最初のおどおどしていたのとは比べものにならないくらい熱血だ。
何となく、誰からも好かれそうな、爽やかスポーツ系の彼に友達が作れない(いない)理由の原因がわかった気がする。
こりゃ引くわ。
違うギャップが、度を越えてる。
僕も軽く引いた。
そこまで歴史人物に詳しくないし、新撰組の物語の沖田総司しか知らない。
リアルのは学校で習ったのと、歴史人物の本を読んだくらいだ。
新撰組自体は全く興味ない。
現代の高校生や大学生でも、ここまでリアルの沖田を好きな学生はいないだろう。
変わってる。
目茶苦茶趣味がマイナー。
容姿はレベル高いのに、残念な青年。
本当に勿体ない人だ。
本が好きなのは歓迎するけど、根暗な僕と彼とは周りの反応が違う。
可哀相に。
趣味が合う女の子か男の子、早く見つけなよ。
僕は要らないから。
本が友達みたいなものだから。
さてと、新撰組関連の本を探しておこうかな。
向こうの本棚にあるかな。
真っ赤な顔で先程趣味を語っていた己を恥じている彼を呼ぶ。
可笑しいって自覚があるだけマシか。
一応、頑張れ。
応援くらいはしてあげよう。
あまりに寂しい青春を想像してしまったから。
一人ポツンと教室で本を読む彼の姿を。
いかん、悲しすぎて涙出そう。
あ、痛い。
ガタン!ドサドサ!
「だ、大丈夫ですか!?」
本を乗せたカートを押して歩いていたら、何もないまっ平らな場所でコケた。
こっそり涙を拭おうとした瞬間に。
手をついていたカートは僕の手と共に倒れ、本が体の上に落ちる。
毎度の事なので驚きはしない。
痛みも慣れた。
けど、やっぱり本の角は痛いな。
後ろの彼は慌てて本を退けて僕を起き上がらせてくれる。
オロオロと痛い所はないか、頭は無事かと聞いてくる。
ありがとう好青年君。
毎日一回以上はこんなドジするから問題ないよ。
眼鏡を掛ける必要がないくらい視力が良いのが唯一の救い。
もし目が悪くて眼鏡をかけてたら、毎日顔が血だらけで本に被害が。
お父さんお母さん、二人共視力が2.0か1.5でありがとう。
おかげで僕は顔面を傷だらけにしなくて済んでます。
今度実家に帰る時は手土産持って行きます。
青年が差し出した手を借りて立ち上がる。
パンパンと手でエプロンの汚れを払う。
「ありがとう。こういうのは慣れてるから、大丈夫。」
「大変ですね。あ、手伝います。」
「ごめんね。」
心配かけた上に本を拾う手伝いをさせてしまった。
優しい子だね。
早く友達ができるように後で祈っておくよ。
本の神様とかいたらその神様に。
最後にノートを拾ってパンパンと汚れを払ってやる。
まだ半分しか使ってない。
題名の箇所に“本”とだけ、下にナンバーがマジックで書いてあるキャンパスノート。
使い慣れてるからずっとこのノートを使ってる。
カートの端にノートを置いて歩き始める。
彼は何故か距離を詰めて後ろを歩く。
また転ばないように気を遣ってくれているのだろうか。
そのさりげない優しさが、僕の惨めさを強くさせる。
ごめんね、君とは対照的で。
けど、こんなんでも人間の友達はちゃんといるんだよ。
君よりいる自信はある。
対抗してみても、僕はやっぱり君には敵わない。
彼と違って僕は容姿や性格が人に好かれにくい。
さっきのちょっとした嫌味がその証拠だ。
僕は口に出さないだけで、外見通り意気地無しだ。
思ってる事をハッキリ口に出さない弱虫。
…もう止めよう。
自らを下にしても意味がない。
さっさと終わらせて、仕事に戻ろ。
僕には本が傍にいる。
「此処は新撰組関連の本があるよ。実話じゃない作り話だけど、オススメはこれかな。読みやすいし、歴史にあまり興味ない僕が面白いと思えた。」
「あ、ありがとうございます!…あ、またやっちゃった。」
「元気なのは良いけど、なるべく気をつけて。
じゃ、ごゆっくり。」
「す、すみません。ありがとうございました。」
ガバッ!と腰から体を折る。
体育会系特有の仕種だなぁ。
スポーツか何かやってたんだろう。
早く部活かサークルで友達作りなよ。
出来れば、新撰組好きな人間を。
――次の日。
僕はまたカートをカラカラ押して歩いていた。
今日はまだドジをしていない。
そのうちするだろう。
土日は利用者が多くて返却本が平日の倍以上。
他の司書さんやバイト君達もてんてこ舞い。
受け付けに人が絶え間無く並ぶ。
満席状態で座る場所がない。
日差しが温かくなってきたから、冬より行きやすくなったのが原因か。
温かいから眠たくなってしまう。
忙しいのにうたた寝してしまいそうだ。
本棚に本を並べ、小さな欠伸を漏らす。
きっと絶好の昼寝日和だ。
「フアァ、眠。」
「こ、こんにちは司書さん。」
「…あー、昨日の。こんにちは。」
後ろから昨日の彼が現れた。
照れ臭そうに笑みを浮かべ、頬を人差し指でポリポリ掻いている。
照れ屋なのだろうか。
弟みたいで可愛い、なんて思ってしまう。
誠実そうだ。
こういうところは老若男女関係なく好感度高そう。
周りがほったらかしにしないだろうに。
前の地元の友達は…考えるのを止めよう。
そういえば、新しい友達はできたかな?
カートの取っ手の上に両腕を重ねて顎を乗せる。
僕より背の高い彼を見上げた。
ヘニャとした笑顔を向け、顔を更に赤くさせる。
耳が真っ赤だ。
ふと視線を落として気づいた。
彼の手には昨日紹介した本が。
感想をわざわざ言いに探してたのか?
律儀な子だ。
「どうだった?その本。」
「は、はい。面白かったです。男性の文章だからかわかりやすくて、どんどんページをめくってしまい、夢中になりました。やっぱり沖田はカッコイイです!」
「それは何より。また本を借りに来たの?」
「は、はい。出来れば、ままたオススメを教えてくれませんか?」
「僕の?」
「はいっ。」
人懐っこい笑顔で頷く彼。
まさか今日も彼に勧める本に悩む事になろうとは。
うーん、どうしよう。
まだ片付けなきゃならない本は結構あるし、彼は期待に満ちた眼差しを向けるし。
休憩時間は新しい本と出会いたかったのに。
仕方ない、か。
縁は大切にしなきゃ。
本でも人間でも。
僕は本を優先するけど。
「じゃあ、暫くそこら辺で立ち読みしてて。仕事片付けるから。」
「あ、忙しいならまた今度で…。」
犬なら耳と尻尾がシュンて下がってるな。
オーラが残念がってる。
そんな顔されたら気分悪いじゃん。
こちらがするって言ってるのに。
僕が決めたんだから、待ってろっての。
手がかかる奴だ。
「どうせ図書館以外行く宛てないんでしょ。君は大人しく待つくらい出来ないの?」
「で、出来ます!」
「じゃ、休憩入ったら来るから。それ返却するなら渡して。」
「あ、ありがとうございます!」
本を受け取り、ノートの上に置く。
さてと、ちゃっちゃと終わらせて、休憩貰うか。
彼の頼み事を済ませて、僕の自由時間を有効活用したい。
ガツッ!ゴン!ドサドサ!!
「……。」
その前に、一度泣いていいかな。
変わっている二人のお話。
本を愛してるドジな司書さんと、リアル(実在していた)沖田総司の熱烈な大ファンという外見爽やか好青年。
何故か本を読んでて浮かんだ一品。その本の内容とは全然違いますよ。一応断言しときます。
ついでに言います。私は新撰組、そこまで興味ないです。沖田総司はサイトで調べたのを抜粋。リアル沖田総司好きの人、彼と友達になってやって下さい。泣いて喜ぶと思いますから←
ありがとうございました!