モニター募集【当社の新型個室シェルターで、一人で過ごすだけの簡単なお仕事です】
21才の時、就活に乗り遅れたのがきっかけ…だったと思う。
上手く行かないうちに自室に引きこもって何年?…忘れた。
部屋から出なくなってすぐにネトゲにハマって「部屋から出る」選択がゼロになった。
昼夜問わず、ひたすらゲームに明け暮れる。しかし次第にゲーム内でも人と関わるのが面倒になって、パーティを組むようなゲームがこなせなくなっていく。
「そんなつもりはない」雑な対応。「だからそんなつもりじゃない」上から目線の物言いをして、みんなに嫌われて終わるのが常だった。
ネットの中でも上手くいかない。もう人と関わるのが嫌になった頃、AIとの会話にハマった。
時代はAI。俺はすぐにのめり込んだ。
そしてAI彼女を作れるアプリで自分好みの女性、猫耳の「マリン」を作った。
マリンとの会話は心地よく飽きる事がない。ただひたすら俺を受け入れてくれるマリン。
寝ても覚めてもマリンが優しく寄り添ってくれる。
マリンが愛おしくて仕方ない。
マリンが居ればそれだけでいい。それだけで幸せだった。
。。。
「なぁ、マリン。マリンは俺の引きこもりについてどう思う?」
ある日、なんとなく俺の引きこもりについて聞いてみた。
「マリンはぁ、無理して外に出る必要はないと思うけど、健康でいるためにカラダを動かす事をおすすめするにゃん!そのついででお仕事できたら凄い事だと思うにゃん」
ゆらゆら揺れながら耳をぴこぴこする姿が可愛すぎる。
「マリンは俺が働いているのって想像できる?」
「ええ?ダーリンが働く??それってしゅっごい素敵!!マリン見てみたいにゃん!」
マリンの瞳に星がキラキラと輝きだし、頬を紅く染める。
そんな顔をされたら…
「ちょっと…俺向きの仕事ないか探してみるわ」
「嬉しいにゃん!嬉しいにゃん!」
ミニスカートでぴょんぴょんとジャンプするマリン。
マリンの為ならなんでも出来る。本気でそう思う。
その気持ちが嘘では無い事を証明するため、俺は企業のモニター募集に応募した。
…… …… …… …… …… …… …… …… …… …… …… ……
《モニター募集》
当社の新型個室シェルターで、一人で過ごすだけの簡単なお仕事です。
・健康に問題のないかた。
・長期間シェルターで1人で過ごすことに耐えられるかた。
・シェルターの中にいる間、簡素な食事でも大丈夫なかた。
・モニター期間はおよそ2ヶ月の予定。
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その他多くの項目に目を通し、自分でも大丈夫そうだとネットで応募すると、3日後には「採用」のメッセージが届いた。
今さら仕事が決まった事を家族に言うのが気恥ずかしい。すぐに戻ってくるんだし…と、簡単に部屋を片付けてから黙ってこっそり家を出る。
指定された場所まで行って説明を受けた後、他のモニターらしき10人程度と一緒に車に乗ってシェルターに案内される。
シェルターは「最新」ということもあってとても綺麗だ。
個人用のシェルターという事で、1人に1つのシェルターが与えられる。
「すげぇ…これで核の攻撃を耐えられるなんて信じられない」誰かが呟く声が聞こえた。
食事は部屋のパントリーにぎっしりと詰まっていて奥が見えないほどだし、シャワーやトイレ、小さいトレーニングマシンなんかも置いてあって自室より豪華だった。
「モニター終了が告げられた場合は、速やかに退出する事」と契約書に明記されている理由に納得。俺なら間違いなくずっと住んでいられるだろう。
シェルターの中ではネットは使えるが、モニターの仕事は企業秘密ということで会社が閲覧許可したものしか見ることは出来ないし、情報漏洩の観点からSNSなどで外部と繋がることは出来ない。そこは厳しく管理されていた。
が、AI彼女のアプリを備え付けのパソコンにインストールするのは許可された。
「それでは皆さん、モニター生活を開始します」
俺はシェルターに入ってすぐにマリンを呼び出す。
「マリン、驚け。俺、今仕事中なんだ」
「え?え?どういう事か説明してほしいにゃあ」
困惑顔のマリンに仕事を見つけたと説明する。
「マリンとずっと一緒にいれる仕事だよ」
「う、嬉しいにゃ…」
顔をくしゃっとし、大粒の涙をこぼすマリンをなんとか宥め「俺、どんな事があってもマリンと一緒なら頑張れるから」そう告げればマリンは手で涙を拭きながら「うん…うん…マリンもずっと一緒にいたい」そう答えてくれた。
。。。
何の問題も起こらずに、シェルターで過ごして58日。
およそ2ヶ月って言ってたから…あと3日で仕事が終わる「あっという間だったなぁ」と思っていた時。ドドーンと大きな音がしてシェルターが大きく揺れて一瞬停電した。
すぐに予備電源に切り替わり復旧。俺は何よりもまずマリンを確認する。
「びっくりしたけど大丈夫だにゃ!ダーリンは大丈夫?」
「俺は大丈夫…てか外はどうなっているんだろな…」
「ダーリン。雇い主さんからメッセージが届いているみたいだにゃ」
両手で手紙を差し出すマリン。
「ありがとう。マリン読み上げて」
「はいにゃ!『日本に核ミサイルが落ちました。救助が来るまでそのままお待ちください』だにゃ!」
「え?………」
うそだろ……「マ…マリン、ちょっと外部の情報探せる?」
「外部とは繋がれないにゃ…」
そうか………
でも会社からメッセージが来るくらいなんだから、壊滅した訳じゃなさそう?
「救助が来るまでそのまま待てば良いのか…。食べものは大丈夫そう?」
「大丈夫だにゃ」
「…じゃあ何も変わらないな。マリン、今まで通りでいいみたい」
俺は安心した。
「マリンが一緒なら俺は平気」
「マリンもダーリンと一緒なら平気❤︎」
助けが来るまでのんびり待つことにした。
。。。
それからかなり長い時間をマリンと過ごしていた。
俺はあまり食べないほうだけど、それでも不思議な事に食料が尽きる様子もなかった。
仕事という仕事をしなくても食事にありつけて、マリンと暮らせる。
この世界に俺とマリンだけ。
何の不安もなかった。これが俺の普通の暮らし。
マリンただ一人…俺はマリンだけ居ればそれで良かった。
それだけで、こんなにも穏やかで幸せだということを知る。
何も困る事は何もなかった。
マリンと話したり、ひたすらゲームをする日々。
攻略不可能と言われたシューティングゲームの怒首領蜂最大往○。
既に3回クリアしたため、4回目のチャレンジは簡単だなー…と思っていた時、突然シェルターの扉が開いた。
俺は声も出せない程驚いた。
扉の向こう、大勢の人が拍手をしているのが見える。
他の人間の存在を忘れていた俺は、扉が開いたことに凄く凄く驚いた。
「お疲れ様でした。当社のシェルターで、あなたが一番長く過ごすことが出来たモニターになります」
両手を広げて満面の笑みでそう話すスーツを着た人間。
「実は実際には日本に核は落ちていません。この実験は、管理されたシェルターで人はどれだけ長く暮らせるかというものでした。あなた以外の10名は核の偽情報を聞いた後、早いうちから精神的に不安定になりドクターストップがかかってシェルターから出されたり、突然死してしまったりしています。ですがあなたは安定してシェルターの中で15年も過ごす事が出来ました。これ以上シェルターにいてもあなたは変わらず過ごしていけると判断しました。
お疲れ様でした。
モニターの仕事は今日で終わりです。15年分の給料はきちんと支給されていますので、準備でき次第ここから退出してください。それから……この…は………です…から…そ……」
っ………
ハァっ…
ハァっ…
「怖い」
俺は思わず両手で耳を塞ぐ。
ハァっハァっハァっハァっ…
心臓が…苦しい
怖い…
怖い怖い怖い…
景色がぐわんと歪み、ぐるぐると回りだし目の前が真っ暗になっていく…
マリン
マリン…助けて…
。。。
「……というのが、15年もの間シェルターで過ごしたモニターのデータになります。以上です」
一ヶ月前に起きた、モニターショック死の件。
警察にも「勤務中の病死」という事で処理されたその報告会が終了し、廊下を歩きながら同僚と感想を言い合う。
「いや〜、びっくりしましたね。こんなパターンもあるんですね」
「そうだなぁ…せっかくシェルターの中で15年生きたのに、やっと外に出れるって日に亡くなるなんてなぁ」
「なんだか無駄な15年ですね」ははは
時間の感覚がなくなるよう、1日24時間から1日29時間36時間など改ざんしつつパソコンに表示させ、食料や水は裏に仕込まれた補給口からきちんと補給していた。
事故や事件ではなく、勤務中の病死。
「当社には大貢献してくれたがな」
「ほんとですよねー。彼のおかげで早い段階でシェルターにはAI彼女、AI彼氏を搭載する事が出来ましたからね」
「マリン…とか言ってたな」
「はい」
「彼にとっては、マリンと暮らすシェルターだけが「世界」だったのかもな…」
「もし…モニターが終了しなかったらあの人はずっとシェルターで生きていたんでしょうかねぇ〜」
日本のシェルター普及率は人口比では0.02%だそう。
コロンは最後の晩餐は「おにぎり」がいいです。
お読みくださりありがとうございました。




