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【完結】大天使と呪われた雛人形 〜ひな祭り、初恋は断罪される〜  作者: 久茉莉himari


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5/8

【5】大天使、宴を断つ。 〜呪われた雛人形〜

そうして、ひな祭りパーティは、お琴の演奏から始まった。


アンジュとロクシーは瞳を輝かせ、無言で演奏に聴き入っている。


ルチアーノもショッキングピンクのシルクのハンカチを噛み締め、「ジャパンのリリカルッ……!恐るべし!」と涙する始末だ。


それからは、オーケストラによる1990年代のJ-POPが流れ出す。


ロクシーが「サイコー!」と言って、たて続けにシャンパンを飲み干し、踊り出す。


アンジュはお酒はそんなに飲めないが、和菓子を食べて「甘ーい❤️美味しーい❤️」と感動していた。


ルチアーノもボックスステップを踏みながら、「アンジュちゃん!ロクシー先生!最高でーす!」とドヤ顔で笑っている。


少しの休憩を挟み、続く、ひな祭り。


シャンデリアに照らされた桃の花が咲き誇り、和洋中の料理、世界各国のスイーツが並ぶ。


夕方から再び始まった演奏は、一流ギタリストによるソロ演奏や、太鼓アーティスト、春を題材にしたオペラと、演出は留まるところを知らない。


ロクシーは既に一人で「シャトー・デスクラン」を一本空けてご機嫌だ。


「ルチアーノ!

あんた、やるじゃない!」


ロクシーの言葉に、ショッキングピンクの扇子で額をパチンと叩くルチアーノ。


「いやいや!

やはりロクシー先生の脚本あってこそでありますよ〜♪

それに、ほらッ!」


ルチアーノが向けた扇子の先には、雛人形に釘付けのアンジュの姿があった。


「アンジュちゃんと雛人形のコラボ……!!

美し過ぎて……眩しい!!

正に西洋とジャパンの美の競演!

ルシアンも、ひな祭りに間に合わなくても、カメラマン100人がアンジュちゃんを撮ってる姿に、感動する筈!

これぞ、次なる恋のチャーンス❤️❤️❤️」


ロクシーがウンウンと頷き、シャンパンを口に運び、ぐいっと飲み干す。


「……そうね!

あのアンジュちゃんを観たら、ルシアンの恋心に火を付けられるわ……!」


「それそれ♪ハイッ!それそれ♪ハイッ!ハイッ!」


ルチアーノが陽気にその場でボックスステップを踏み出すと、次は雅楽が始まった。


「お!

凄い!これはマジあんたのお手柄……」


ロクシーがそう言った時だった。


バタンと音を立てて、ホールの扉が開かれる。


そこには――

ルシアンがいた。


いつものスーツ姿ではなく、少しフォーマルなスーツを着ている。


ルチアーノが喜びの雄叫びを上げる。


「ルシアン!間に合ったな!」


だが、ルシアンはルチアーノも、ロクシーすら無視し、雛人形の前に立つアンジュに向かう。


「……アンジュさま!」


ルシアンの厳しい声に、アンジュが柔らかく、まるで夢見るように返す。


「ルシアンよ、見よ。

雛人形、きれいだな」


「……アンジュさま!

今すぐに、雛人形から離れて下さい!」


ルシアンの厳しい声がホールに響く。


雅楽の奏者も一斉に手を止め、静寂がホールを包む。


ルチアーノが慌ててルシアンとアンジュの元にやって来る。


「……ズッ友!

どうしたんだよ!?

これはひな祭りだぞ!?

アンジュちゃんも雛人形も美しいだろ?」


ルシアンはそう言うルチアーノを、無表情で見た。


だが――

その眼は大天使の戦士のそれだった。


「ルチアーノ、今すぐ、ロクシーを連れ、外に出ろ!

このホールの人間も全て!」


「ど……どうして……どうしてそんなこと言うんだよ!?」


ルチアーノが思わず叫ぶと――

ルシアンは大天使の剣を手に言った。


「聞こえなかったか?

今すぐ、去れ!

私の命令に逆らうのなら、この剣で、雛人形もろとも、お前も切る」


ロクシーがルチアーノの手を引っ張った瞬間――

二人も、

そしてホールにいた人間も、

全ては消え去り、


ホールにはルシアンとアンジュ、雛人形が残された。




ドスッとルチアーノが豪華な絨毯に落ち、ロクシーがふわりとソファに座る。


その前の一人掛けのソファには、イレイナ――


「イレイナ!

イレイナが瞬間移動させてくれたの!?」


ロクシーがホッとした顔で、大声を上げる。


イレイナはフンと鼻を鳴らし、床に転がるルチアーノを睨み付けた。


「仕方ないでしょ?

ルシアンは本気よ!


それよりもルチアーノ!

あんた……新しい雛人形じゃなくて、あんたの寝室で夜中にガタガタ動いていた雛人形を、ひな祭りパーティに持って来たわね?」


ルチアーノがゆっくりと絨毯の上に座ると、小さく言った。


「……そうだ」


ロクシーの鋭い声が飛ぶ。


「何で!?

新しい雛人形を用意する約束でしょ!?」


「だ、だって…!」


ルチアーノが、ロクシーに向かい、必死に喋り出す。


「俺様のリリカルな感性に反応してくれたカワイイ雛人形で、ひな祭りがしたかったんです!

それっておかしいですか!?

……新しい雛人形じゃなくて、俺様のリリカルな感性が詰まった雛人形で、ズッ友ルシアンの初恋成就がしたくて……!」


すると、イレイナがドレスを翻し、立ち上がると、スパーンとルチアーノの頭を叩いた。


「この……ボンクラ!

あんたのリリカルな感性で動く物なんて何一つないの!

あの雛人形は、私の呪いで動いてただけよ!」


「呪い……!?

まじないじゃなくて!?」


ロクシーが叫ぶと、イレイナがジロリとロクシーを睨みつけた。


「あのねえ……。

地獄の王の寝室に飾られている人形を動かすのよ?

まじないなんて、生ぬるい!

呪わなきゃ、地獄という空間では、本当の恐怖は与えられない!


だけど……よくもまあ……」


イレイナの鋭い視線が、ルチアーノに戻る。


「自分の“リリカルな感性”で動くって勘違い出来るわね!?

あんた、その無駄なポジティブ思考を活かして、自己啓発セミナーでもやったら?」


ルチアーノが涙ながらに言い返す。


「じゃあ……イレイナのせいじゃねーか!!」


イレイナが無言で再び、ルチアーノの頭をスパーンと叩いた。


「ふざけるな!

普通の悪魔ならね……!

地獄の王なら、尚更ね!

自分の寝室でガタガタ動く人形を地上に持って来ようなんて、馬鹿馬鹿しいことは考えない!

これは、何かある、と気づく。


そして――

良いわよ?

地獄で、その人形を愛でてもね。


だけど!

ロクシーを騙して、地上に持って来た時点で、あんたのせいなのよ!」


その時、ロクシーが「待って!」と叫んだ。


「じゃあ……ルシアンが、ルチアーノに、去らなければ大天使の剣で切るって言ったのは……?

あの時のルシアンは本気だった!」


イレイナはドレスを翻し、ソファに戻る。


「そうよ。

ルシアンは本気。


何故なら、あの呪われた雛人形は――

確かに女の子の幸せを願う顔をしてるけど、三月三日の夜中の0時を過ぎると、清らかな魂を探し出して、蝕み、魂を喰らう怪物になる。


あのホールで最も清らかな魂を持っているのは?

アンジュ!


もう、呪いの侵食が始まっているのを、ルシアンは見抜いたのね。

大天使の恩寵で」


ルチアーノが泣きながら叫ぶ。


「じゃあ……俺様はどうしたら!?」


イレイナがピシャリと言う。


「あんたに出来ることは何もない。

呪いを掛けた私すら、解けない強力な呪いよ。


それよりも――

時計を見なさい」


イレイナの声に、ルチアーノとロクシーが同時に自分の腕時計を見る。


そこには――

23時30分と表示されていた。

ここまでお読み下さり、ありがとうございます(^^)

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