【5】大天使、宴を断つ。 〜呪われた雛人形〜
そうして、ひな祭りパーティは、お琴の演奏から始まった。
アンジュとロクシーは瞳を輝かせ、無言で演奏に聴き入っている。
ルチアーノもショッキングピンクのシルクのハンカチを噛み締め、「ジャパンのリリカルッ……!恐るべし!」と涙する始末だ。
それからは、オーケストラによる1990年代のJ-POPが流れ出す。
ロクシーが「サイコー!」と言って、たて続けにシャンパンを飲み干し、踊り出す。
アンジュはお酒はそんなに飲めないが、和菓子を食べて「甘ーい❤️美味しーい❤️」と感動していた。
ルチアーノもボックスステップを踏みながら、「アンジュちゃん!ロクシー先生!最高でーす!」とドヤ顔で笑っている。
少しの休憩を挟み、続く、ひな祭り。
シャンデリアに照らされた桃の花が咲き誇り、和洋中の料理、世界各国のスイーツが並ぶ。
夕方から再び始まった演奏は、一流ギタリストによるソロ演奏や、太鼓アーティスト、春を題材にしたオペラと、演出は留まるところを知らない。
ロクシーは既に一人で「シャトー・デスクラン」を一本空けてご機嫌だ。
「ルチアーノ!
あんた、やるじゃない!」
ロクシーの言葉に、ショッキングピンクの扇子で額をパチンと叩くルチアーノ。
「いやいや!
やはりロクシー先生の脚本あってこそでありますよ〜♪
それに、ほらッ!」
ルチアーノが向けた扇子の先には、雛人形に釘付けのアンジュの姿があった。
「アンジュちゃんと雛人形のコラボ……!!
美し過ぎて……眩しい!!
正に西洋とジャパンの美の競演!
ルシアンも、ひな祭りに間に合わなくても、カメラマン100人がアンジュちゃんを撮ってる姿に、感動する筈!
これぞ、次なる恋のチャーンス❤️❤️❤️」
ロクシーがウンウンと頷き、シャンパンを口に運び、ぐいっと飲み干す。
「……そうね!
あのアンジュちゃんを観たら、ルシアンの恋心に火を付けられるわ……!」
「それそれ♪ハイッ!それそれ♪ハイッ!ハイッ!」
ルチアーノが陽気にその場でボックスステップを踏み出すと、次は雅楽が始まった。
「お!
凄い!これはマジあんたのお手柄……」
ロクシーがそう言った時だった。
バタンと音を立てて、ホールの扉が開かれる。
そこには――
ルシアンがいた。
いつものスーツ姿ではなく、少しフォーマルなスーツを着ている。
ルチアーノが喜びの雄叫びを上げる。
「ルシアン!間に合ったな!」
だが、ルシアンはルチアーノも、ロクシーすら無視し、雛人形の前に立つアンジュに向かう。
「……アンジュさま!」
ルシアンの厳しい声に、アンジュが柔らかく、まるで夢見るように返す。
「ルシアンよ、見よ。
雛人形、きれいだな」
「……アンジュさま!
今すぐに、雛人形から離れて下さい!」
ルシアンの厳しい声がホールに響く。
雅楽の奏者も一斉に手を止め、静寂がホールを包む。
ルチアーノが慌ててルシアンとアンジュの元にやって来る。
「……ズッ友!
どうしたんだよ!?
これはひな祭りだぞ!?
アンジュちゃんも雛人形も美しいだろ?」
ルシアンはそう言うルチアーノを、無表情で見た。
だが――
その眼は大天使の戦士のそれだった。
「ルチアーノ、今すぐ、ロクシーを連れ、外に出ろ!
このホールの人間も全て!」
「ど……どうして……どうしてそんなこと言うんだよ!?」
ルチアーノが思わず叫ぶと――
ルシアンは大天使の剣を手に言った。
「聞こえなかったか?
今すぐ、去れ!
私の命令に逆らうのなら、この剣で、雛人形もろとも、お前も切る」
ロクシーがルチアーノの手を引っ張った瞬間――
二人も、
そしてホールにいた人間も、
全ては消え去り、
ホールにはルシアンとアンジュ、雛人形が残された。
ドスッとルチアーノが豪華な絨毯に落ち、ロクシーがふわりとソファに座る。
その前の一人掛けのソファには、イレイナ――
「イレイナ!
イレイナが瞬間移動させてくれたの!?」
ロクシーがホッとした顔で、大声を上げる。
イレイナはフンと鼻を鳴らし、床に転がるルチアーノを睨み付けた。
「仕方ないでしょ?
ルシアンは本気よ!
それよりもルチアーノ!
あんた……新しい雛人形じゃなくて、あんたの寝室で夜中にガタガタ動いていた雛人形を、ひな祭りパーティに持って来たわね?」
ルチアーノがゆっくりと絨毯の上に座ると、小さく言った。
「……そうだ」
ロクシーの鋭い声が飛ぶ。
「何で!?
新しい雛人形を用意する約束でしょ!?」
「だ、だって…!」
ルチアーノが、ロクシーに向かい、必死に喋り出す。
「俺様のリリカルな感性に反応してくれたカワイイ雛人形で、ひな祭りがしたかったんです!
それっておかしいですか!?
……新しい雛人形じゃなくて、俺様のリリカルな感性が詰まった雛人形で、ズッ友ルシアンの初恋成就がしたくて……!」
すると、イレイナがドレスを翻し、立ち上がると、スパーンとルチアーノの頭を叩いた。
「この……ボンクラ!
あんたのリリカルな感性で動く物なんて何一つないの!
あの雛人形は、私の呪いで動いてただけよ!」
「呪い……!?
まじないじゃなくて!?」
ロクシーが叫ぶと、イレイナがジロリとロクシーを睨みつけた。
「あのねえ……。
地獄の王の寝室に飾られている人形を動かすのよ?
まじないなんて、生ぬるい!
呪わなきゃ、地獄という空間では、本当の恐怖は与えられない!
だけど……よくもまあ……」
イレイナの鋭い視線が、ルチアーノに戻る。
「自分の“リリカルな感性”で動くって勘違い出来るわね!?
あんた、その無駄なポジティブ思考を活かして、自己啓発セミナーでもやったら?」
ルチアーノが涙ながらに言い返す。
「じゃあ……イレイナのせいじゃねーか!!」
イレイナが無言で再び、ルチアーノの頭をスパーンと叩いた。
「ふざけるな!
普通の悪魔ならね……!
地獄の王なら、尚更ね!
自分の寝室でガタガタ動く人形を地上に持って来ようなんて、馬鹿馬鹿しいことは考えない!
これは、何かある、と気づく。
そして――
良いわよ?
地獄で、その人形を愛でてもね。
だけど!
ロクシーを騙して、地上に持って来た時点で、あんたのせいなのよ!」
その時、ロクシーが「待って!」と叫んだ。
「じゃあ……ルシアンが、ルチアーノに、去らなければ大天使の剣で切るって言ったのは……?
あの時のルシアンは本気だった!」
イレイナはドレスを翻し、ソファに戻る。
「そうよ。
ルシアンは本気。
何故なら、あの呪われた雛人形は――
確かに女の子の幸せを願う顔をしてるけど、三月三日の夜中の0時を過ぎると、清らかな魂を探し出して、蝕み、魂を喰らう怪物になる。
あのホールで最も清らかな魂を持っているのは?
アンジュ!
もう、呪いの侵食が始まっているのを、ルシアンは見抜いたのね。
大天使の恩寵で」
ルチアーノが泣きながら叫ぶ。
「じゃあ……俺様はどうしたら!?」
イレイナがピシャリと言う。
「あんたに出来ることは何もない。
呪いを掛けた私すら、解けない強力な呪いよ。
それよりも――
時計を見なさい」
イレイナの声に、ルチアーノとロクシーが同時に自分の腕時計を見る。
そこには――
23時30分と表示されていた。
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