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二話 ライバルの財閥の息子がやって参りました

ブーン


 見たところ、一本道と、それを囲む木々。そして奥にはさらに山が見える。車をハイスピードで運転していたが、もう何分もずっと同じ景色の繰り返し。もういまの季節は秋。赤や黄色の落ち葉が散り散りに落ちていって、まるで芸術のようだった。そして車の中はその冷気が少し籠っている。


「おい、まだ着かないのか」


子供のような声をしたものが急かすように言う。


「もう少しで着きますよ。王子」


若い男の声をした者がそう言った。


 ―そうして数分後、景色が変わり、大きな豪邸が子供の目に止まった。そして、少し笑い、いや、声を出して笑った。

 車のドアをバンと開け、外に立った


「ははっ!良いじゃないか!俺が支配するのに相応しい豪邸だ!」


子供は笑った。

 そうして運転手も、その豪邸の中に入っていった。


 ―一方その頃アリファは…


「ヤダヤダ!水族館行きたい行きたい行きたいー!」


アリファは、またも好き勝手をしていました。それを見て、私は呆れながらも言いました。


「駄目ですよ。しばらくは好き勝手禁止でございます」

「やだやだー!!」


そうやって、いつも通りの日々を送っていました。

 また一方その頃、子供と若い男は豪邸の玄関前までやってきた。


「これ、どうやって入るんだ?」

「はっ、どうやらここの御父様、フォーズ・ローランド様は、右にある"ボタン"を押してくれ、と」

「あぁ?ボタン?ボタンってこれか?」


子供は右にあった木製のボタンを指差した。


「多分これだと思います。どうやらフォーズ様は日本の文化が好きなようで、日本で家に入る時はこのボタンを押すらしいです」

「ふーんそうか。まぁいい、押してみよう」


ピンポーン


「ん?」

「…誰か来た…?」


 アリファと三神は、戸惑いながらもドアを開けた。


「えーと誰ですか…?」


恐る恐るドアを開けると、そこには息子と若い男がいた。子供は仁王立ちで立っている。


「えっと…ホントに誰ですか」


 この時、私は本当に誰なのか分かりませんでした…


しかし、その時仁王立ちをしていた子供が、一歩前に出て言った。


「お前が執事か?オレの名前は、ベン・ウェヤード!六歳だ!今日からここに住まわせてもらう!事前にフォーズ王からは連絡をしておいた!さっさとベッドへ案内しろ!」

「え…?」


 この時ばかりは本当に謎に謎がありました。しかし、記憶の片隅にあった"ある言葉"を…

 確か…あれは三日前ぐらいの出来事です。いつも通りに寝ていたのですが…夜の一時に突然起こされ、無理矢理言われたのです。


「三日後にウェヤード家の息子が王になるのに相応しいかを確かめさせてもらうために、一人で住む事になったようだ。そのために、しばらくここで住まわせてやれ」


と!


 ―そして現在、夜に眠気で忘れ去られていた記憶の彼方から、光して戻ってきたのです!言い訳にはなりますが、その時本当に眠気が凄かったのです。眠すぎて眠すぎて…起きてるのが精一杯の状況、完璧に忘れてしまいました…

 でもとりあえず、使ってない部屋は何個もあります。その内の一つの部屋を紹介し、無事に事なきをえました。

 そして、王女様はというと…


「えー!?今日からここに住むの!住むの!?友達になれるかなー?」


と、結構能天気です。

 これから先、この二人は仲良くやっていけるのかと心配になりました。あ…そういえば、ベン王子ともう一人の若い男性…あの方はウェヤード家の執事ゲル・レイガー、名前はと言うようで。詳しく話したことがないのでそこまでの事はわかりませんが…


 ―そうして突如として始まった生活。ベンは、日頃から行なっている廊下がけ、洗濯、食器洗い、落ち葉拾い、その他諸々を三神と協力してテキパキこなした。まるで、王女様と同年代の子供ではないかのような家事さばき、三神の仕事は、予定の三十分早く終わった。

 その時、ゲルは"一人で住む"を実行してもらうために、早速ウェヤード家に帰り、報告をしていた。

 ベンを感心していた三神。

 しかし一方アリファは…


「ねぇ行きたい行きたい行きたい!」


まだ駄々をこねていた…


 ―長らくしてやっと仕事が終わりました。しかし予定よりも大分早く終わってしまいました。これもなにもかもベン王子のお陰です。そんなベン様は、今、リビングにある椅子で絵本を読んで静かにしています。なんて素晴らしく優秀な王子でしょう…

 ですが、それとは逆に、王女様はいつにも増して大騒ぎ、好き勝手、このままだといけません。何を言おうか考えている時、パタンと絵本を閉じた音がしました。そう、ベン王子が本を読み終わったようです。


「行きたい行きたい行きたい行き…」

「うるさい」


この時のベン王子は、最初に会った時とは裏腹に、今では鋭い目つきで王女様を睨んでいました。その「うるさい」と言う言葉がリビング全体に響き渡り、一瞬にして冷たい空気感になってしまいました…


「大体、なんでミカミはこんなアリファを叱らないんだよ」

「ぐっ…」


 この言葉を聞いた時、自分の心にこの言葉がグサッと刺されていました。

 確かに、そう考えると今まで王女様に対して怒ったことは無かったのですから。むしろ前まで甘やかし過ぎていたのですから。最初から好き勝手だと知っていたのだから、もっと何か改心させることはできたのではないだろうか。一年もの間、私は何をしていたのでしょうか。


「アリファ。お前もお前だ。自分で作れないものをわがままで通すなよ」

「べ、ベンには関係ないでしょ!」

「関係あるね。迷惑だ」


 確かにベン王子の言っていることは正しいのですが、その突き刺さるような言葉の数々は心に深く刻まれました。


「もういい!なら私自分で水族館作るから!」


 そう言って王女様は、走って階段を駆け上っていきました。


「お、王女様!!」

「心配するな。自分で作るって言ってるんだからそれでいいだろ」

「そ、それでも、ベン王子!」


私が"ベン王子"という単語を出した時、ベン王子はギロッとこっちを見ました。さっきまで本を見ていたのに…


「やっぱりお前は、オレのことをウェヤード家として見るんだな」


またもや静まり返りました。


「オレは確かにウェヤード家に生まれた人間だが、今は一人で住んでいる。だからオレにはミカミに勝てるほどの力は無いし、アリファを倒せるほどの権力も今は持っていない。なのに何故、お前は今オレに"王子"と言うんだ?」

「えっ…?」

「今までオレに対して何人も媚びへつらってきた大人がいた。このただ一人じゃ権力も持たないオレに。それは何故だかわかるか?」

「ベン様が…カッコいいからでは?」

「そういうのは要らないんだよ。」

「では…なぜ…?」


私は問いかけました。こんな若さでそこまで悩み込んでいたその理由が…

 そして、ベン様は口を開きました。


「それは、オレがウェヤード家の権力を手に入れた時に、今まで媚びへつらってきた、つまり種まきを収穫するためだよ。そして収穫し尽くしてし尽くし終わったら、そこで終わり。後はオレが枯れるだけ。所詮、そいつらは自分の利益しか考えてないんだよ人間ってやつは」


(本当にこれから小学生になる子供!?悩みが大人過ぎませんか?)


私は本当に驚きました。そして、是非王女様もここまで大人になってほしいと思いました。


 ―一方その頃、アリファはというと…


「あーもう!クジラ作るの難しいよぉ…」


本当に自室で水族館を作っていた。


「自分で作れないものをわがままで通すなよ」


(ん…私、今までわがまましてたのかな…三神はそれをどう思ってたんだろ…)


アリファは三神が自分をどう思っているのかを考えながら水族館を完成させようとしていた。


 ―そしてリビングで。


「俺は、できるなら普通の家庭で暮らしたかったよ」


ベン様は暗そうに語りました。静かな空気の中、ポツンと寂しそうに言いました。


(普通…?普通が欲しかったのかベン様は…)


何一つ音も聞こえない、無音の中、私は考えました。ベン様が何を思っているのかを!

 そうしてわかった、一つの答え、それは…


「ベン様は、誰かに認められて欲しいのですか?」


 ―その言葉に、ベンは、目をかっと見開いた。


「アハハッハハ」


子供達が遊んでいる声。草むらで、楽しそうに駆け回っている。


(いいな、僕も、僕もあそこに…)


木陰で休んでいたベンは、その子供達の方へと手を上げた。しかし…


「こんな所にいたのか。ベン」

「はっ」


ベンは息を呑んだ。この声は、間違いなく父上だ。


「ほら、行くぞベン」


そうしてベンは父上と手を繋いだ。いつもそうだ。僕は子供達とは遊べない。これからウェヤード家の王様になるためにも、必死に勉強をしなくちゃいけない。でも、父上が認めてくれることはなかった。子供達と関われば、僕を認めてくれると思っていたけど、関わることができなかった…

 だから、僕、いやオレは、誰でもいい。誰でもいいから、認められる存在になってやるんだ!


 ―気づいた頃には、目から涙が出ていた。久しく忘れていた感情。悲しみ。今まで溜めていた水が一気に流れ込むように、目からドンドン溢れ出てきた。


「な、なんだこれ。止まらねぇ…止まらねぇ…!」


そういって目を擦っている。鼻からは鼻水も出ている。


「大丈夫です。周りが認めてくれなくても、私が認めてあげます」


ベンは、三神の方を見上げて聞いた。


「ほ、ほんとに信じていいのか、その言葉!そういうのは、アリファに言うもんじゃないのか!」

「私はとっくに、王女様を認めていますよ」


優しく手を差し伸べる三神に、ベンは目を擦り、涙を自力で止めた。


「いい。そういうの」

「そっ、そうでしたか…」

「ミカミがオレを認めてくれたのはわかった。だから、オレはミカミのために頑張るよ。まずはアリファと一緒に水族館作ってくる」

「ベ、ベン様」

「ちょ、丁度オレも行きたかった頃なんだ。水族館」


ベンは照れるように階段を駆け上っていった。

 

 ―数時間後、朝からもう夕方になってまいりました。さすがに、頑張り過ぎは体にも悪いですからね。ここで王女様の好きなオレンジジュースを二人分持ってきました。

 少しはこれを飲んで休んで欲しいですね。そう思い、私は王女様の部屋をノックし、中へ入りました。


「失礼いたします。オレンジジュースを…」


そこに見えたのは、倒れたベン様と、魚を作っている王女様がいました。


「あっー!!オレンジジュースだオレンジジュース!」

「えぇ、女王様。それよりも、ベン様が…」

「あぁベン?ベンがさぁ、さっきっから水族館作り手伝ってくれないんだよ。ずっと倒れててさぁ…」

「はぁ…」


 ―それを聞く中で、ベンは思った。


(お前が、本物のクジラを作ろうとか言い出すからだろ!他にも、チンアナゴ、カクレクマノミ、ヒトデ、タツノオトシゴ!他にも作ってやったっていうのに…!!)


ベンは疲れ果て、怒りが湧いていた。

 いつ、水族館は完成し終えるのだろうか…


「ベンもオレンジジュース飲む?」

「…飲む…」

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