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復讐の癒し手、元仲間たちに裁きを下す

作者: なみゆき

 「シオン、お前は回復しかできねぇんだろ? 戦えないなら足手まといだよなぁ?」


——やっぱり、脳筋剣士からはこんな言葉が出るんだな。

こいつら、怪我したときには俺に「シオン!早く治せ!」って叫んでたくせに、いらなくなったらポイ。使い捨ての包帯以下だな、俺は。


「無能は、パーティーに不要だ」


——賢者様のご高説。呪いも解けない。傷も治せない、精神も癒せない、魂に触れることすらできないくせに。よく言うよ。鏡でも見ろ、クズ。


「ごめんなさい、でも…あなたがいると、みんなの士気が下がるの」


——聖女様、ありがたすぎますな。

魔族に呪われて発狂したとき、誰が魂を癒したか覚えてないらしいな。

あのままだったら、魔族のペットに成り下がっていたくせに。

都合の悪い記憶は消えちゃうんだね。便利な脳みそだこと。


俺は、パーティーから追放された。

“無能”のレッテルを貼られ、誰にも惜しまれず、誰にも感謝されず、そして、あっさり、森の中で魔物に出会い死んだ。


——ああ、俺って“無能”だったんだっけ?

自分を癒すこともできないんだなぁ。そりゃまぁ、死んだ方が楽だわ。


けど、死んだはずの俺は冥界で目を覚ました。


「ようこそ、癒しの器よ。ずいぶんと粗末に扱われたな?」


冥界に現れたのは神霊アストレア。

人間の魂を癒す者(器)を探していたらしい。


「お前の魔法、あれは“魂修復”だ。人間には理解できない力だ」


——は? 俺の魔法、そんなすごかったのか?

ただの回復魔法だと思ってたけど。

誰も教えてくれなかったよな、クソが。


「俺と契約しろ。お前の魂に、神霊の力を宿す。癒しは武器になる。蘇生は裁きになる。そして、お前は“魂癒の聖者”となる」


——選択肢? ねぇよ。

生き返るか、冥界で腐るかしかないんだから、俺は迷わず、神霊アストレアと契約した。


「契約完了。さあ、地上へ戻れ。お前を追放した者たちに、“癒し”の意味を教えてやれ」


目を開けると、俺は生きていたというか、生き返っていた。

冥界の力を宿した“魂癒の聖者”として。


最初に向かったのは、魔物に襲われ、病気や呪いが蔓延している死にかけの村。

村人たちは俺をただの旅人だと思っていた。


「お、お坊さんですか?」


坊さんじゃない。神霊の使徒だ。


俺の癒しは、ただの回復じゃない。

•呪い? 魂ごと浄化。

•病気? 根源から修復。

•死者? 魂が残っていれば蘇生可能。


村を丸ごと再生させたら——


「神様だ…! 神様が来てくださった…!!!」


土下座された。

いや、神様じゃない。神霊の使徒だ。


でも、悪くない。

あのクズどもに「無能」って言われてた頃とは大違いだ。


子どもたちが「シオン様ー!」って駆け寄ってくる。


老人たちが「命の恩人です…」って涙を流してる。


その光景を見て、俺は思った——

この力は、癒すためにある。でも、癒す価値のない魂には、断罪を。




***


魔王軍との戦いでボロボロになった、俺の元いた勇者パーティー。

勇者アーサーは片腕を失い、聖女イヴァナは人格崩壊、賢者ザイドは魔力枯渇で廃人寸前。


「シオン…頼む…助けてくれ…」


——ああ、忘れたのか?

俺を“無能”って切り捨てたことを。

魂の価値すら見抜けなかったくせに、今さら“癒し”を求めるとか、笑わせんな。


「癒しは、選ばれた者の特権だ。お前らみたいな腐った魂には、癒しじゃなくて——断罪が似合ってる」


神霊アストレアが微笑む。


「さあ、魂の裁きを。癒しの聖者よ」


俺は手をかざす。神霊の力が集まり、光が闇を裂く。癒しの魔法が、断罪の炎へと変わる。


•アーサーには“傲慢の断罪”

——永遠に戦えない体に。

•イヴァナには“偽善の断罪”

——記憶を消され、誰にも祈れない聖女に。


•ザイドには“知識の断罪”

——魔法を忘れ、ただの凡人に。


彼らは泣き叫ぶ。


「こんなの…癒しじゃない…!」


俺は静かに答える。


「癒しとは、魂を正すこと。お前らの魂は、歪みすぎた。だから、焼いて整えた。それが俺の癒しだ」


断罪後、冥界に戻った俺は、神霊アストレアに言われた。


「癒しとは、復讐ではない。お前は癒しを断罪に変えた。それは、神霊の器として正しいのか?」


——は? 今さら説教か?


俺は世界を救った。

腐った魂を焼き、癒す価値のある者だけを導いた。


それの何が悪い?


「癒しとは、魂を正すこと。だが、正すとは、焼き尽くすことではない。導くことだ」


その言葉が、胸に突き刺さる。

俺は癒しを使って、多くを救った。

だが同時に、多くを“焼いた”。

それは、果たして本当に癒しだったのか。


アストレアは静かに告げる。


「癒しとは、魂に“選択肢”を与えること。裁きも、赦しも、導きも——すべて癒しの形だ」


そのとき、胸の奥で何かが崩れ、ゆっくりと形を変えていった。

怒りだけで振るう癒しは、ただの破壊だ。

寄り添い、選ばせて初めて——癒しとなる。


俺は、初めて本当に理解した。


「……そうか。俺は、魂癒の聖者。癒す者であり、裁く者。そして——導く者だ」


アストレアは微かに微笑む。


「その言葉が、お前の癒しの形ならば、次の地へ進め。」


——その先に、何が待つのか。

まだ分からない。


だが、一歩踏み出したその瞬間、

闇も光もない冥界の空が、わずかに揺れた気がした。


旅は、まだ始まったばかりだ。

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