区大会、奇跡の善戦と告白未遂事件
区大会当日。
理央たちは5人揃って、体育館のコートに立っていた。
「よし、作戦確認!」
『理論バスケ・ver4.0』
・24秒ギリギリで攻撃
・声で圧をかける
・ゾーンの穴を突く
・“ナイス!”は1人3回まで(近所迷惑対策)
・詩的間合いと感情乱流を戦術に組み込む
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試合開始。相手は強豪・第三中。
理央たちは“時間”を支配し、“声”で空気を揺らした。
「ナイス!」
「グッド!」
「青春!」(←瞬、また言った)
第1Q終了。スコアは2対12。
でも、理央は笑っていた。
「これが“善戦”だ。点差じゃなくて、空気を支配する」
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第4Q残り1分。スコアは18対32。
理央は最後の作戦を発動した。
「“告白未遂戦術”いくぞ!」
「は?」
「俺がみのりに告白しようとする。相手が動揺してミスる。そこを突く」
「それ、バスケじゃなくてラブコメじゃね?」
「でも、青春は全部入りが正解なんだよ!」
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理央がみのりの前に立つ。
「みのり、俺…」
その瞬間、藤堂がボールを持ってコートに戻った。
理央の言葉を遮るように、力強くドリブルを始める。
「…試合、まだ終わってないだろ」
みのりが一瞬、藤堂を見つめた。
理央は言葉を飲み込んだ。
「ナイス…」
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試合終了。スコアは22対38。
でも、観客席からは拍手が起きた。
理央たちの“理論バスケ”は、確かに空気を変えた。
みのりが言った。
「理央、今日の試合…すごく面白かった」
「マジで?俺、バスケでちょっとモテた気がする」
「それは…気のせいかもね」
藤堂は黙っていた。
みのりの言葉に、ほんの少しだけ目を伏せた。
理央はその視線の揺れを見逃さなかった。
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そのとき、璃子がみのりに近づいた。
「みのりさん、理央くんのホワイトボード、見たことある?」
「ううん、あんまり…」
「今日の試合、あれ全部作戦だったんだよ。あなたのことも、ちゃんと考えてた」
みのりが少し驚いた顔をした。
「…そうなんだ」
「私は記録係だけど、見てて思った。理央くん、あなたのこと、すごく大事にしてる」
みのりは何も言わなかった。
でも、目が少し揺れた。
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瞬が叫んだ。
「俺は確信してる!今日だけで“ナイス!”を42回叫んだ!」
蒼空が冷静に言った。
「それ、近所迷惑になってるだけだと思う」
蓮はノートに一行だけ書いた。
“善戦って、覚えててもらえることだ”
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その夜、理央はホワイトボードにこう書いた。
『理論バスケ・ver4.5』
・告白は試合後に
・“ナイス!”は心で叫ぶ
・善戦は、空気と記憶に残る
・三角関係は、青春のバグであり、燃料である
・藤堂の沈黙=余白
・璃子の記録=揺れの証拠
理央はつぶやいた。
「勝てなくても、覚えてもらえたら、それでいい」
ホワイトボードは、いつの間にか“記憶の地図”になっていた。




