みのりの涙と、理央の覚醒
合同練習の当日。
体育館の空気は、いつもより少しだけ張りつめていた。
女子バスケ部はすでにアップを終えていた。
理央たちは、まだストレッチの途中。緊張で、誰も口を開けない。
みのりが近づいてきた。
「よろしくお願いします」
その声は、少し硬かった。
理央は、彼女の目が赤いことに気づいた。
「…泣いた?」
「ちょっとだけ。昨日の試合、最後のシュート外して負けた。私のせいって言われて」
理央はホワイトボードを見た。
「違う。統計的に、試合は1本じゃ決まらない。流れと分布で決まる」
みのりが笑った。
「それ、慰め?」
「違う。理論だ」
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璃子が記録用紙を片手に近づいた。
「“感情の乱流”って、記録しておくね」
理央はうなずき、ホワイトボードに書き加えた。
『理論バスケ・ver3.0』
・感情の乱流=予測不能な揺れ
・乱流は“声・視線・沈黙”から発生する
・対処法:受け止めて、立て直す
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藤堂がぽつりとつぶやいた。
「泣くほど悔しいって、悪くない」
陽翔が逆立ちから着地して叫んだ。
「よっしゃー!俺、乱流の中でもバク宙できる!」
瞬が笑った。
「お前、乱流の使い方間違ってる!」
蒼空が言った。
「でも、乱流って、誰かの感情が生む“揺れ”だよな。空間が歪む感じ」
理央はうなずいた。
「なら、俺たちも揺れていい。揺れながら、進めばいい」
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その日の練習は、ぎこちなく始まり、少しずつ熱を帯びていった。
女子のパスは速く、シュートは正確だった。
理央たちは、声で空気を揺らし、時間を支配しようとした。
璃子は記録を取りながら言った。
「この空気も、乱流だね」
理央は答えた。
「でも、もう怖くない。理論に組み込めば、揺れも武器になる」
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練習後、みのりが言った。
「ありがとう。ちょっと楽になった」
「それ、理論の効果かも」
「違うよ。仲間の力だよ」
理央はホワイトボードを見つめた。
・感情は、戦術の外にあるのではなく、“戦術の中にある”
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理論バスケ・ver3.0(第5話時点)
項目内容
感情理論“乱流モデル”導入:感情の揺れを戦術に組み込む
組織進化藤堂=静の共鳴、陽翔=動の突破、璃子=記録と共感の触媒
戦術補足声・視線・沈黙が“乱流”を生む要素として再定義
教育的補足理論=感情を否定せず、支える構造として機能する
次の課題区大会に向けた“実戦理論”の構築と、みのりとの再接続の伏線形成




