統計で見えた、勝てなくても負けない方法
「勝てなくても、負けない方法はある」
理央はホワイトボードにそう書いた。
体育館の隅、バスケ部(仮)の作戦会議。
瞬は床に座りながらポテチを食べている。蒼空はExcelを開いている。三浦先生は水彩画を描いている。
「まず、相手のミスを誘う。これが俺たちの戦術の核だ」
「どうやって?」
「統計だよ。去年の区大会の試合動画を全部見て、ミスの時間帯を記録した」
「…お前、暇だったの?」
「違う。青春に時間を使っただけだ」
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理央が示したグラフには、こう書かれていた。
『区大会・ミス発生率(平均)』
・第2Q残り2分:ミス率28%
・第4Q残り1分:ミス率35%
・点差3点以内:ミス率42%
「つまり、相手が焦るタイミングを狙えば、勝てなくても“善戦”できる」
「それ、戦術っていうより心理戦じゃね?」
「そう。バスケは“心のスポーツ”でもある」
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「じゃあ、俺たちの作戦は?」
「“時間を支配する”だ。攻撃は24秒ギリギリまで使う。守備は“声”で圧をかける」
「声って…俺、叫ぶだけでいいの?」
「瞬、お前の“ナイス!”はミス誘発率12%だった」
「それ、俺のせいで相手がミスってるってこと?」
「そう。お前の声は武器だ」
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蒼空が言った。
「あと、ゾーンディフェンスの穴を見つけた。相手が2-3で守ると、トップの間が空く」
「そこに誰を置く?」
「俺は視野が狭いから無理。理央は…動きが遅い」
「じゃあ、瞬だな」
「俺!?俺、そこに立って何すればいいの?」
「叫べ。“ナイス!”って」
「それだけ!?」
「それだけで、相手が混乱する。統計的に証明済み」
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そのとき、体育館の扉が開いた。
制服姿の女子がひょこっと顔を出す。
「失礼します。あの…マネージャー、募集してますか?」
理央が振り返る。
「えっ、君は…?」
「白石璃子です。理央くんのホワイトボード、面白いなって思って。私、バスケできないけど、戦術とか記録とか、手伝えるかもって」
蒼空が小声で言った。
「理央、なんか雰囲気変わってない?」
瞬がニヤニヤしながら言った。
「理央、モテてるぞ。戦術成功じゃね?」
理央は顔を赤くしながら、ホワイトボードに書き加えた。
・女子マネージャー加入:白石璃子(理論補佐・記録係)
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さらに、体育館の奥から声がした。
「おーい、ここでバスケやってるって聞いたんだけど」
現れたのは、長身の男子。
髪はボサボサ、手には文庫本。名前は藤堂大翔。無口で、帰宅部の謎キャラ。
「俺、バスケはやったことないけど…みのりが“男子も頑張ってる”って言ってたから。…それだけで十分だろ」
理央は一瞬、言葉を失ったが、すぐに手を差し出した。
「ようこそ、理論バスケへ」
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さらにもう一人、体育館の隅で逆立ちしていた男がいた。
「おい、俺も入れてくれよ。バスケは知らんけど、体力だけはある!」
佐々木陽翔。元体操部。運動神経は抜群だが、ルールは全く知らない。
「俺、走るの得意だし、ジャンプもできる。あと、逆立ちでフリースローもいける」
「それ、戦術に組み込めるかも…」
理央はホワイトボードに書き加えた。
・部員5人達成:理央・瞬・蒼空・藤堂・陽翔
・マネージャー加入:璃子(理論補佐・記録係)
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三浦先生が言った。
「君たちの戦術、なんだか“現代アート”みたいだね」
「先生、それ褒めてます?」
「もちろん。意味不明なのに、なぜか目が離せない。…それが現代アートってやつだ」
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その日の練習は、“声の圧”と“時間の支配”をテーマにした。
24秒ギリギリでシュートを打つ練習。瞬は毎回「ナイス!」と叫ぶ。蒼空は時計係。璃子は記録を取り、理央はホワイトボードを更新し続けた。
「これで、勝てなくても負けないバスケができる」
「でも、みのりは今日も3ポイント決めてたらしいよ」
理央は空を見上げた。
「俺たちは、**3ポイントじゃなくて“3秒の支配”**を目指すんだ」
瞬が叫んだ。
「俺、今日だけで“ナイス!”を42回叫んだ!」
「それ、ミス誘発率じゃなくて、近所迷惑率が上がるぞ」
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理論バスケ・ver2.5(第4話時点)
項目内容
統計応用時間帯・点差によるミス誘発率の分析と戦術化
心理戦術声・焦り・空間の“揺らぎ”を利用した干渉戦術
空間支配ゾーンの穴を“心理的盲点”として活用する配置理論
美学補足声=“空間の乱流生成装置”、統計=“感情の予測装置”
組織進化女子マネージャー(璃子)加入、部員5人到達(藤堂・陽翔)
次の課題女子バスケ部との合同練習による“理論の実証”と、感情の乱流への対応戦略




