ドリブルは、歩き方からはじめよう
「ドリブルって、ボールを地面に叩きつけるだけじゃないんだよ」
理央が言った。
体育館の隅、バスケ部(仮)の初練習。
瞬はすでに3回転倒し、蒼空はボールを見失って壁に激突していた。
「じゃあ何なの?」
「**歩き方だよ。**ドリブルは“歩きながらボールを落とす”技術なんだ」
「それ、言い方だけ聞くと散歩じゃね?」
「違う。これは“運動音痴でもできるドリブル理論”だ」
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理央はホワイトボードを取り出した。今日も体育館に持ち込んでいる。
『ドリブル理論 ver1.0』
・歩幅とバウンドの同期
・視線は前方、ボールは感覚で
・右手→左手→右手のリズム練習
・転倒は“データ”として記録
・補足:ドリブルは“身体のリズムと空間の対話”である
「まず、歩幅とバウンドを合わせる。これができれば、ドリブルは“歩きながらできる”」
「それ、犬の散歩と何が違うの?」
「犬はボールを持ってない。俺たちは持ってる。つまり、人間の進化系だ」
「進化って言ったら聞こえはいいけど、今の俺ら、退化してない?」
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「じゃあ、実践してみよう。歩きながらドリブル。まずは右手だけ」
瞬が挑戦する。
1歩目、成功。2歩目、ボールが足に当たって転倒。
「データ取れた!“2歩目で油断すると転倒率80%”!」
「それ、俺しかいないから統計になってない!」
「でも、サンプルは貴重なんだよ。青春は、失敗の積み重ねだ」
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蒼空が静かにドリブルを始める。
将棋部出身だけあって、動きは慎重。
右手→左手→右手。リズムは悪くない。
「お、蒼空、いい感じ!」
「俺、歩き方から研究した。将棋の“歩”の動きと似てる気がして」
「それ、バスケに応用する人初めて見た」
「でも、空間の支配って意味では同じだよ」
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三浦先生が見守る中、理央は言った。
「ドリブルは、“自分のリズム”を作ることなんだ。音楽と同じ。だから、練習は“ビート”でやる」
「じゃあ、俺ラップで練習する!」
瞬が叫ぶ。
「Yo!Yo!ドリブル!Yo!…痛っ!」
また転倒。
「データ更新。“ラップ練習は転倒率95%”」
「だから俺しかいないって!」
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練習の合間、理央はホワイトボードに新しい項目を加えた。
『礼と無茶のバスケ美学』
・コートに入るときは一礼。出るときも一礼。
・ボールは投げるな。預けろ。
・スパイクは蹴るな。履かせてもらえ。
・繋がらないパスをするくらいなら、ドリブルしろ。
・進めないドリブルするくらいなら、シュートうっちゃえ。
・ディフェンスで奪えないなら、リバウンドに命をかけろ。
・“無茶”は青春の燃料。“礼”はその炎の形。
瞬が叫んだ。
「それ、無茶すぎるだろ!」
「でも、無茶って、記憶に残るんだよ」
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その日の練習は、転倒と笑いと無茶の連続だった。
でも、理央は満足していた。
「これでいい。俺たちは“理論で青春”してる」
蒼空が言った。
「でも、みのりは今日も女子バスケ部で3ポイント決めてたらしいよ」
理央は空を見上げた。
「俺たちも、いつか“歩き方”から3ポイントに届くさ」
瞬が叫んだ。
「俺はまず、歩き方からやり直す!」
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理論バスケ・ver2.0(第3話時点)
項目内容
実験テーマドリブル=“歩行とバウンドの同期”として再定義
身体理論リズム・重心・視線の連携による“空間との対話”
教育的補足運動音痴でも“構造理解”から技術習得は可能である
戦術進化ドリブルは“個人のリズム”を構築する基礎技術
美学追加礼と無茶の哲学をホワイトボードに記録
次の課題統計による“負けない戦術”の設計と、4人目勧誘の心理戦略




