まずは、ドリブルからだな
「まずは、ドリブルからだな」
理央が言った。
美術室に集まった“超絶ビギナー”たちは、バスケ部というより理科実験班のような顔つきだった。
「ドリブルって、地面にボールぶつけるやつでしょ?俺、家庭科室でやって怒られたことある」
「それは床がフローリングだったからだろ。ここは体育館…じゃないけど、まあいい」
瞬がボールを床に叩きつける。
跳ね返ったボールが三浦先生のイーゼルに直撃。
「おおっと!それは“春の風景”だったのに…」
「先生、すみません!」
「いや、いい。これも青春の衝撃だ」
---
「じゃあ、次はパスだな。バスケって、パスが命らしい」
蒼空が言った。
将棋部出身の彼は、空間の“読み”だけは一級品。
「理央、パスの種類って何があるの?」
「チェストパス、バウンスパス、オーバーヘッドパス…あと、ノールックパスってのもある」
「ノールックって、見ないで出すやつ?」
「そう。成功率は低いけど、決まるとカッコいい」
「じゃあ俺、それ練習する!」
「瞬、お前はまず“見て出す”練習しよう」
---
「で、理央。理論バスケって、どうやって勝つの?」
蒼空が聞いた。
理央はホワイトボードを取り出した。そこにはこう書かれていた。
『理論バスケ・初期戦略案』
・相手のミスを誘う
・時間を支配する
・空間を制する
・声で圧倒する
「まず、“勝てないけど負けない”ためには、相手のミスを最大化する必要がある」
「どうやって?」
「統計的に、相手が焦るのは“残り2分”と“点差が3点以内”のとき。そこを狙う」
「そんなに細かく分析してるの?」
「俺、去年の区大会の動画を全部見た。Excelでミスの時間帯をグラフ化した」
「…お前、バスケ部じゃなくて分析部じゃね?」
---
「あと、フリースローは“誰が打つか”で成功率が変わる。瞬は今のところ成功率12%。蒼空は28%。俺は…5%」
「理央、低っ!」
「だから俺は打たない。打たない勇気も戦術だ」
「それ、ちょっとカッコいいな」
---
「で、声は?」
「声は“モテるための第一歩”だ。試合中に“ナイス!”って叫ぶだけで、印象が2割上がる」
「それ、どこの調査結果?」
「俺の妄想。でも、信じる者は救われる」
---
その日、彼らは体育館で初練習をした。
ドリブルは転倒祭り。パスは壁に直撃。シュートは天井に当たった。
でも、理央は笑っていた。
「これでいい。今は実験段階。青春は、失敗から始まるんだ」
瞬が叫んだ。
「俺、今日だけで3回モテた気がする!」
「それは錯覚だ。でも、錯覚も青春だ」
---
理論バスケ・ver1.5(第2話時点)
項目内容
実験テーマドリブル・パス・声の影響
統計応用ミス誘発タイミングの分析(残り時間・点差)
戦術進化“打たない勇気”と“声の圧”を戦術化
教育的補足統計=“感情の予測装置”として活用可能
次の課題空間支配のための“歩き方理論”の構築と、4人目勧誘の戦略設計




