バスケでモテようって言ったの誰?
放課後、美術室。なぜかここが男子バスケ部の仮拠点。
顧問は美術教師・三浦先生。バスケ経験ゼロ。
絵の具の匂いが、青春の香りに変わっていく。
「で、なんで俺たちがバスケ部に?」
蒼空が聞いた。元将棋部。冷静で、空間認識力が異常に高い。
「みのりが女子バスケ部に入ったんだよ」
「それが理由かよ」
「いや、違う。…いや、違わない。バスケでモテたいんだ!」
瞬が爆笑した。
「それ、最高じゃん!俺もモテたい!バスケやる!」
「お前、体育のバスケで3回ボール見失ってたじゃん…」
「でも、モテたい気持ちは見失ってない!」
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「でもさ、勝てるの?俺ら、全員ド素人だよ?」
蒼空の冷静な指摘に、理央はニヤリと笑った。
「勝てなくても、負けない方法はある」
「は?」
「確率論、統計学、心理学。全部使う。バスケを“理論”で攻略するんだ」
「お前、バスケを数学の問題集と勘違いしてない?」
「違う。バスケは“時間と空間の制約”の中で最適解を探す、動的パズルだ」
「…なんか、ちょっとカッコいいな」
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理央はホワイトボードに向かい、マーカーを走らせた。
『理論バスケ・ver1.0』
・目的:モテる
・手段:バスケ
・障壁:運動音痴
・解決策:思考・統計・心理戦
・初期戦術:声・時間・空間の支配
「まず、バスケは5人制。試合時間は8分×4クォーター。攻撃は24秒以内にシュートしなきゃいけない」
「24秒って、短くね?」
「だからこそ、時間管理が命なんだよ。将棋と同じ。秒読みが勝負を分ける」
「なるほど…って、俺バスケじゃなくて将棋やってたんだけど」
「だから呼んだんだよ、蒼空。お前の“空間認識力”が必要なんだ」
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「で、俺は?」
「瞬は…声がデカいから、ベンチで盛り上げ役かな」
「おい!俺もモテたいんだぞ!」
「じゃあ、フリースロー練習して。成功率が上がれば、出番あるから」
「成功率って…俺、数学赤点なんだけど」
「安心しろ。俺が計算する」
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三浦先生が言った。
「お前ら、バスケのことは知らんが…青春の余白なら、任せろ」
瞬が叫んだ。
「先生、それカッコいい!」
蒼空が言った。
「でも、余白って…どこにあるんだ?」
理央はホワイトボードの隅を指さした。
「ここだよ。俺たちの青春は、この余白から始まる」
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その夜、理央はホワイトボードにこう書き加えた。
『バスケでモテる戦略案:ver1.0』
・声は大きく
・ユニフォームは清潔に
・理論は熱く、プレーは冷静に
・ホワイトボードは常に更新
・“善戦”とは、記憶に残ること
青春は、まだ始まったばかりだ。
でも理央は確信していた。
「勝てなくても、モテる方法はあるはずだ」




