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癒しの手、知られざる夜

ユウは、標的の写真を見つめていた。

男の名は、佐久間仁。元公安の情報屋。今は裏社会で武器の流通に関わっている。

「殺す理由は十分だ」

そう言われた。

だが、ユウはその言葉に、どこか空虚さを感じていた。

任務は深夜。

佐久間が出入りするバーの裏口で待ち伏せる。

ユウは、無音の足取りで近づき、ナイフを抜いた。

——だが、佐久間はすでに倒れていた。

胸を押さえ、苦しそうに息をしている。

「心臓発作か…?」

ユウは一瞬、手を止めた。

殺すまでもない。

だが、そのとき——

「大丈夫ですか!」

若い女性の声が響いた。

ユウは物陰に身を隠す。

現れたのは、白いコートの女。

彼女は佐久間に駆け寄り、右手をそっと胸に添えた。

光はなかった。

だが、佐久間の呼吸が安定し、顔色が戻っていく。

ユウは、目を見開いた。

「……何者だ?」

女は、佐久間の手を握りながら言った。

「もう大丈夫。救急車、呼びますね」

ユウはその場を離れた。

任務は、また失敗。

報告書には「標的、第三者の介入により生存」と記すしかなかった。

帰宅すると、ミナがソファで眠っていた。

彼女の右手が、毛布の上に投げ出されている。

ユウは、その手を見つめた。

「……まさか、な」

彼は頭を振った。

ミナが、そんな場所にいるはずがない。

ただの偶然。そう思いたかった。

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