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星と召喚と女神の聖剣士  作者: 桐生スケキヨとYOM
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第032話「資質の輝き」

【〇三二 破滅獣ゾーン・グール・グレイブ】

■かつて世界を蹂躙した凶悪な魔物の末裔。

女神の力の加護を受けた勇者が討伐して回ったという神話が残っており、それほどの力がなければ討伐することはほぼほぼ不可能な存在であるとされる。

ギバ渓谷に現れたゾーン・グール・グレイブはまだ小型で、幼体に近い存在。

高い再生能力と、見かけによらない知能が脅威となった。

成熟した大型のものはどれほどの実力なのか。

果たして、ゾーン・グール・グレイブ以外の破滅獣も存在しているのか?


【〇三二 資質の輝き】


「コォオオオオオ!」


 門を突破したゾーン・グール・グレイブは体から四本の太い触手を伸ばし、門の跡や村の家々の破壊をはじめていた。時折漆黒の奔流を吐き出し、崖肌を抉り落石を起こしてもいる。


「好き勝手やってくれて!」


 エリシアが叫ぶ中、ルーミアはなにかを唱えていた。


顕現せよ(ギア)! 雷鞭撃壁(ライゼルベツテ)!」


 ルーミアの周囲に青白い鞭状の光が数本現れる。


「それが防御魔法?」

「そう。近づく触手とかを撃ち払ってくれる。でも、あまり長くは続かない」

「その切れ目が潮時ね。来るわ!」


 地面を抉りながら無数の触手が接近する。

 エリシアが斬り払いながら進む中、ルーミアに迫る触手は雷光の鞭が触手を撃ち払っている。


(ディア・)古の言葉を紡ぎ(アルスワーズ・)力と成す(ドラクラムズ)――」


 自動防御を行いつつ、ルーミアは詠唱をはじめる。

 詠唱妨害対策も行っていた。それを見たエリシアも短く息を飲み、言葉を口にする。


(ディア・)古の言葉を紡ぎ(アルスワーズ・)力と成す(ドラクラムズ)――」


 エリシアの詠唱を聞いたルーミアは一瞬驚くも、魔法は使えると聞いていたことを思い出した。エリシアは細剣で触手を払いつつ、詠唱を続ける。


熱波より(エリメルス・)出でし光弾(ティ・エムダム)閃光になりて(エルトムール・)穿て(リゾマ)――」


 エリシアが細剣の切っ先をゾーン・グール・グレイブへと向け、叫ぶ。


顕現せよ(ギア)! 灼弾熱紅(エリエムルダ)!」


 細剣の先より、人の頭ほどの大きさの光の弾が赤い尾を引きながら十数発、ゾーン・グール・グレイブの本体にたたき込まれる。当たった場所は体が抉れるが、すぐに再生してしまう。


「このくらいの威力じゃダメね。でも、一発は食らわせたわ。大きいのはルーミアに任せる」


 その言葉に応じるように、ルーミアが唱える。


先鋭たる烈光(ルマニストン・ゾロ)空を裂く矛となせラリオス・ラム・ベルソ――」


 エリシアは詠唱中のルーミアから注意をそらそうと、ゾーン・グール・グレイブへと接近する。無数の巨大触手が迫るも、回避に徹したエリシアを捉えることはできなかった。


覇撃の轟きをもってクレビア・ドルス・アレンクト・爆ぜよ(ラゼムナ)雷光(ライオール)――顕現せよ(ギア)! 雷烈射槍(ライオーゾルスト)!」


 ゾーン・グール・グレイブが行う鋼鉄の槍のように、ルーミアは雷光の槍を数十発と弾丸のような勢いで射出する。それらはゾーン・グール・グレイブの体に突き刺さり、爆発を起こす。


「コォ、オォオオ!」


 四本伸びていた太い触手と、口から伸びていた舌を吹き飛ばした。舌はすぐに再生するも、太い触手は再生はしなかった。


「まだ、もう少し時間を――」

「エリシア!」

「えっ――なっ!?」


 再生しないと思っていた太い触手であったが、ちぎれた箇所からの再生はしなかったが、体の違う場所からもう一本が生え、それが凄まじい早さでエリシアに迫る。


「くっ!」


 接近してきた太い触手をたたき切ったが、時間差で接近していた別の触手がエリシアの体に巻き付く。


「エリシア! あっ!?」


 ルーミアは魔導杖の魔法を解放し、エリシアを援護しようとした。しかし、ルーミアの防御魔法の効果が切れ、それと同時に別の触手がルーミアを頭上から押さえつける。そしてルーミアの体も巻き取り、空中へと持ち上げる。


「ぐっ……ル、ルーミア……!」

「エリシ……ア!」


 触手はきつく巻き付き、微動だにしない。魔法を使おうとも、首を締め付けられて声を出すこともままならない。

 ゾーン・グール・グレイブは触手に巻き付けたふたりを、漆黒を吐き出す口元へと近づける。

 食べる気だ――エリシアはそう思った。この気色悪い化け物に食べられて自分は終わるのか、だとしたらあまりにも惨めな結末だ。後悔しないようにしてきたつもりだった。でも後悔はある。後悔しかない。まだ消えて終わりたくない――こんな時、いつもなら、生きていたら、ユーリなら、なんとかしてくれた。

 ゾーン・グール・グレイブが口を開く。エリシアは叫んだ。


「ユ……ユーリーっ!!」


 声が谷にこだまする。それだけで終わると思った。もう、この声を聞くユーリはいない。

 それはわかっていた。エリシアはこれが最後の言葉だと思った。

 だが――目の前に光が走る。それは、星が煌めくがごとき光。


「えっ」


 青白い魔力の残滓を残し、駆け抜けた光はエリシアとルーミアを縛っていた触手を斬り裂いた。そして、ゾーン・グール・グレイブの体をも斬り刻む。

 地面に落下したエリシアはそこで信じられないものを見た。


「ユ、ユーリ……!?」


 目の前で息を引き取ったはずのユーリが立ち、走り、跳び、ふたつの剣を使いゾーン・グール・グレイブを斬り裂いている。


「ユーリ!」


 エリシアとルーミアが同時に叫んだ。

 ユーリが一瞬、こちらを振り向く。


「戻ってこれた! みんなの想いが、俺の命を造ってくれたんだ!」


 なにを言っているのかわからなかった。

 でも、目の前には、生きたユーリがいる。エリシアは胸の奥が熱くなった。立ち向かう力が湧き上がるのを感じた。

 立ち上がり、ルーミアに手を貸して引き起こす。


「ユーリ! 撤退しましょう!」


 エリシアの提案に、ユーリは首を振った。


「いや――ここで、こいつを倒す!」


 ユーリの体はいつになく強い光を纏っていた。中でも、右手に握られたティリシュベルトには一段と強い光が集まっている。


「コォオオオオ――」


 ゾーン・グール・グレイブはユーリを警戒してか、猛烈な数の触手を槍のようにユーリへと伸ばす。

 それに対し、ユーリは輝石剣を振るう。するとそこから放たれた魔力の波が、寄せる触手の槍を砂へと変える。


「輝石剣……なるほど、こうやって魔力を走らせるのか――」


 ユーリは自身の体から沸き上がる力を感じていた。

 ティリスからは、潜在能力が解放されると聞いていた。潜在的な魔力がユーリに力を与えている。しかし、ユーリは感じていることがあった。


「この力、ずっと使えるわけじゃない。なら、力が出せるうちに……おまえを倒すぞ、破滅獣ゾーン・グール・グレイブ!」

「コォオオオアアアアーっ!」


 ゾーン・グール・グレイブはユーリめがけて漆黒の奔流を吐き出した。ユーリは跳んで空中に逃れ、それをかわす。跳ぶ速度は速く、見ていたエリシアたちはユーリの姿を終えなかった。

 空中のユーリは全身に魔力をまとう。その姿は、夜空に輝く、ひときわに大きい星のようになる。

 今なら、今の自分の状態と、このふたつの剣ならできる気がする――爺ちゃんに教わった、使えなかった必殺剣が。大丈夫か? 手に持つふたつの剣に問う。すると、輝石剣も、ティリシュベルトも、大丈夫だと返事をくれたような気がした。

 ユーリは確信する。できる、と。


星煌剣(ステラーアーツ)必殺――星煌輝刃斬ステラー・ルミナスブレード!」


 ふたつの剣を振ると同時、全身の魔力が剣によって増幅されて光の刃となって放出される。その光はゾーン・グール・グレイブが向けてきた漆黒の奔流をもかき消し、禍々しい巨躯を光の中に包む。

 巨大な光の柱があがり、ゾーン・グール・グレイブはその中で体を削られる。


「コ、オォオオ、オォオオオオ……」


 断末魔としては弱々しい声が響く中、ゾーン・グール・グレイブは体を再生させるも、消滅していく速度がそれを上回る。ユーリは空中に浮いたままその様子を見るが、光の柱の維持に、体中の魔力が吸い上げられている感覚があった。

 魔力が尽きる前に倒しきれるか――そう思ったが、ゾーン・グール・グレイブの体はみるみる小さくなっていく。

 その中、ユーリの頭に声が響く。

『忌々しき勇者になりきれぬ愚者よ――我に仇なすものもまた破滅の道へと迷い込むだろう……』


 重々しい、獣の唸りのような声だった。


「これは……破滅獣の声……?」

『貴様の中にある憎悪が貴様の力を喰らい、貴様は周囲を巻き込み滅するであろう』

「なにを――」

『終わりのはじまりが告げられた――力を失った女神は去り、勇者はもうひとりも現れぬ……とこしえの苦しみを味わえ、愚かな民どもよ……』

「女神はいる……勇者は現れる……人は愚かじゃない!」

『そう遠くなくわかる……』


 ゾーン・グール・グレイブの体は塵ひとつ残らずに消滅した。ユーリの放った光も収まり、ユーリは着地した。

 再生の気配はない。ユーリはふたつの剣を鞘に収めた。手の平を見る。


「力が元に戻ってる……あの一撃が最初で最後の一撃だったのか……」


 だとしたら、ぎりぎりだったということだ。ぎりぎり、一回死んで、奇跡的に戻って来ることができ、しかも本当にぎりぎりのところで、この破滅獣を倒すことができた。

 ユーリはそう思いつつ、周囲を見渡す。そこは壊れた家屋や落石で荒れ地のようになっていた。

 村は無傷ではなかったが、そこに怪我人や死者がいなかったことが、唯一の安堵となった。

 そして、エリシアとルーミアが駆け寄ってくる。


「エリシア、ルーミア」


 エリシアはなにも言わずに一直線にユーリに駆け寄り、飛びつくように抱きつく。


「死んだと思ったじゃない……!」


 ユーリはエリシアの顔は見えなかったが、泣いていることはわかった。

 自分もエリシアを抱きしめる。


「死んでた。けど、女神に、ティリス様に会ったんだ」

「ティリス様? ラ=ティエリスタ=ティリス様のこと?」


 そばに立つルーミアが驚いたように目を見開いた。


「あぁ、そう名乗っていたよ。白い空間にいて、そこで会ったんだ」

「ティリス様と言えば……八勇者の話がある。ユーリ、ティリス様に会ったということは。勇者に選ばれたということ?」


 ルーミアは興奮気味だった。しかしユーリは首を振る。


「それが、俺はまだ勇者にはなれないらしい。様子見みたいなことらしい」

「……すごい!」


 ルーミアは感極まったのか、その場で数回小さく飛び跳ねた。


「それなら、あの破滅獣を倒せたことも理解できる。神話に出てくる破滅獣は、八勇者が倒したことになってる。ユーリに勇者の力が、資質があるんだ!」

「どうだろうな。この力も一時的なものだし。運がよかった」

「それでもいい、戻って来てくれたなら……なんでもいい……!」


 エリシアはユーリから離れようとしなかった。


「ユーリ、ティリス様からなにか聞いた?」

「邪神ゾディアの復活が近づいているらしくて、それで破滅獣が復活しているらしい」

「……聖地がゾディアス帝国の支配下に入っている影響ね。もしかしたら、わたしたちの知らないところでも破滅獣が出現しているのかもしれない。これは……教会に報告する必要がある」

「俺がティリス様に会ったことは――」

「わかってるわ。それは内緒にしておく」

「ありがとう」

「でも、なにか証拠が必要ね。破滅獣がいたっていう……。帝国のあの人みたいに角のひとつも取っておけばよかったと思うけど……そんな余裕はなかったものね」


 そう言いながら、ルーミアは周囲の探索をはじめた。

 ようやく、エリシアが離れる。


「ユーリ……よかった……本当に……」

「エリシア――」


 しおらしく泣いていたエリシアは突如、キッと顔に怒りをあらわにした。


「もう!」

「エリシア!?」

「油断するからこういうことになるのよ! ユーリはいつも詰めが甘いの! 最後の最後で油断して! 相手だって必死なんだから最後の一撃くらい考えてるでしょ!」

「そ、そう言われても……」

「次からは絶対油断禁止! 勝ったと思った時こそ注意して!」

「わ、わかったよ」

「わたしを信じすぎるのもダメ! 自分の直感をもっと大事にして!」

「あ、あぁ、そうする」

「これで自信つけるのもダメだからね! 初心に戻って日々の鍛錬もしっかりして!」

「…………」


 いろいろと注文するエリシアを見て、ユーリは思わず笑みを浮かべた。


「なに笑ってるのよ!」

「またエリシアの声が聞けてよかったと思って」

「え――」


 瞬間、エリシアの顔がカッと赤くなる。


「ば、馬鹿なこと言わないで……反省しなさい」

「あぁ、反省する。もう、死なないよ」

「……当たり前よ」


 エリシアはそう言ってうつむいた。その時、ルーミアの声がする。


「これなんだろう?」

「ルーミアがなにか見つけたみたいだ」

「行ってみましょう」


 ルーミアのもとへ行くと、ゾーン・グール・グレイブの残滓である灰すら消滅し、なにも残っていなかった。その中、ルーミアの足下には虹色に輝く、握りこぶしほどの大きさの不格好な石が転がっている。


「これ」


 ルーミアが指さす。


「なんだこれ」


 ユーリが拾おうと手を伸ばすと、エリシアが服を引っ張る。


「エリシア?」

「そういう迂闊なことしないの」

「でも確認しないと」

「いきなり素手で触らなくてもいいでしょ」


 エリシアは肩にかけていた銃を下ろし、その先端で虹色の石を突く。なにも起こらない。


「罠……ではなさそうね」

「触ってみる」

「気をつけてよ」


 ユーリはしゃがみ、指先で石を突く。熱さはない。触れた指に異常もない。ユーリは石を掴み、持ち上げる。


「ゾーン・グール・グレイブの中から出てきたのか?」

「教会に持ち帰って司祭に見せれば、破滅獣がいた証拠になるかもしれない」

「……なんだろう。見た目は綺麗な石だけど……」


 エリシアはまだ警戒しているようだった。ルーミアはユーリが持つこの石に触れる。


「……魔力は感じない。もしかしたら、ただの石かもしれない」

「わたしが預かっておくわ。ギーファンさんにも見てもらいましょう」

「うん。お願い」


 そう言っていると、遠くからおーいと呼ぶ声が聞こえた。

 そちらを向くと、そこにギーファンたち、ギルギレイアの人たちがいた。


「みんなだ。おーい!」


 エリシアが手を振る。ルーミアも魔導杖を振った。

 ユーリは実感した。破滅獣を、なんとかしたのだ、ということを。

 深く息を吐き、胸に手を当てる。

 ――生きてる。けど、ここからだ。

 ユーリはそう決意し、ギルギレイアの人たちに手を振った。

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