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星と召喚と女神の聖剣士  作者: 桐生スケキヨとYOM
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第030話「致命の一撃」

【〇三〇 ルーミアの実力】

■実戦経験のほとんどないルーミアは実戦の中でも上手く立ち回ることができている。

才能と呼べる部分もあるのかもしれないが、ルーミアは人の機微を伺う生活を長く強いられてきたことで、状況把握能力に優れていることから、学習能力が高い。

このことにより、瞬間的判断を要する戦闘において、初見殺しを見舞われようとも上手く動けている……のだと思うが、彼女はおそらく天才なのだろう。

しかしエネスギア人の血を引くものの、召喚魔法が使えないという短所は大きい。

【〇三〇 致命の一撃】


「ルーミア伏せろ!」


 降り注ぐ鋼鉄の槍を、ユーリとエリシアは剣で弾き返していく。ルーミアは伏せているが、ふたりの弾き漏らしが伏せた帽子の上をかすめていく。

 鋼鉄の槍の投擲魔法だったが、エリシアの発言がもう少し遅れていたら防御に入る予備動作が遅れ、体中串刺しにされているところだとユーリは思った。


「大丈夫かエリシア!?」


 投擲がやんだ瞬間、ユーリはとなりに来ていたエリシアを見る。


「死ぬかと思ったわ」

「ルーミアは!?」


 背後を振り返りルーミアを見ると、ルーミアは伏せたまま魔導杖を掲げて無事を知らせた。


「なんとかやりきったか。でも――」


 十分強力な相手ではあるが、伝説の破滅獣とはこの程度なのか? ユーリにそんな疑問が浮かぶ。高い再生能力、重力を操る魔法、魔法のふたつ同時使用など、強力ではあるが、一匹の存在が国を滅ぼすと言われるまでには至らないような、そんな手応えだった。


「コォオオオオオオ」


 そのユーリの心情を知ってか、ゾーン・グール・グレイブが唸りを上げる。


「もしかしてユーリ、破滅獣って思ったほどじゃないって思った?」


 エリシアは同じことを考えていたらしい。


「あ、あぁ、思った」

「心を読まれたのかもしれない」

「まさか」


 エリシアはそう言って不適な笑みを浮かべた。そのエリシアの視線の先、ゾーン・グール・グレイブがぶるぶると震えはじめる。すると胴体と思われる土蟲のような部分に生えていた、パルアが折った角ような部分が巨大化して伸びる。そして胴体から、カエルのような手足が生え、胴体正面部分が口のように開き、円形に広がる鋭い刃と、そこから伸びる舌を見せた。


「な、なによあれ……」

「気持ち悪い」


 いつの間にかとなりに来ていたルーミアと合わせ、エリシアとふたりは嫌悪感をあらわにしていた。


「本気を見せてくれるのかもな」

「冗談じゃないっぽいわね」

「なんだろう……肌ひりつく……」


 開いた口の奥が光を湛える。


「みんな散れ!」


 ユーリの反応に合わせて三人がバラバラに散会する。すると、三人がいた場所を目がけ、ゾーン・グール・グレイブの口から漆黒の奔流が放たれる。


「なんだ!?」


 ユーリが振り返り見えると、漆黒の本流は地面を抉りながら直進し、渓谷の崖にぶつかり、崖を大きく抉っている。

 ゾーン・グール・グレイブはその奔流を放出したまま、巨大な後ろ足を使い飛び上がった。


「逃げろ!」


 空中に浮いたゾーン・グール・グレイブは漆黒の奔流でエリシアを狙い、追いかける。


「走れエリシア!」

「言われなくったって!」


 エリシアの走る先に、ゾーン・グール・グレイブは触手を伸ばす。


「先にひとり仕留めるつもりか!? そうはさせるか!」


 ユーリはエリシアの先に飛び出し、行く手を阻む触手を斬りひらく。

 ゾーン・グール・グレイブが跳躍で到達した頂点を過ぎたころ、漆黒の奔流はとまる。しかし、口から伸びた舌が驚異的な速度でユーリを狙う。


「ユーリ!」


 ルーミアが叫んだが、触手を斬っていたユーリは反応が遅れる。


「がっ!?」


 舌がユーリの体を殴りつけ、ユーリは崖の壁面まで弾き飛ばされた。壁に激突するも、ユーリは咄嗟に体に魔力を流し、激突時の衝撃を和らげる。だから、激突してもすぐにその場から離れることができた。ユーリが激突した壁面には、ユーリと入れ替えで槍状になった触手数本が突き刺さっていた。


「反応速度も速い……動きも鋭い……!」


 ユーリは走りながらその強さを実感する。

 ユーリが動いていたのを見て、エリシアとルーミアは一瞬安堵する。しかし、隙はない。

 ルーミアは魔導杖を構え、詠唱に入る。


(ディア・)古の言葉を紡ぎ(アルスワーズ・)力と成す(ドラクラムズ)――」


 その詠唱が聞こえた瞬間、ゾーン・グール・グレイブの角が震動する。


「なっ――えっ!? がっ!」


 ルーミアは突然喉を押さえ、その場に膝をついた。そこを狙った触手数本が鋭く伸びる。


「ルーミア!」


 ユーリが間に合わない、しかし素早く動いたエリシアが触手に貫かれる寸前のルーミアを抱き、跳び退いた。


「どうしたのルーミア!?」

「わ、わたしがやったのと同じ……詠唱による魔力の集合を、振動魔法でかき消した……。あいつ、魔法を打ち消す方法をわたしから知った!」

「そんなことある!? 魔法が使えないってこと!?」

「振動で対応しているのなら対策はできる。たぶん」

「……天才ね、ルーミアは」


 飛んでくる触手の槍を細剣で打ち払いながらエリシアはルーミアを降ろす。

 ルーミアは魔導杖を掲げて詠唱をはじめる。


(ディア・)古の言葉を紡ぎ(アルスワーズ・)力と成す(ドラクラムズ)――」


 ゾーン・グール・グレイブの角が再度振動を開始する。しかし、ルーミアの詠唱は止まらない。


命の灯火よ(ティアリーズ・)我が言葉に応じよディア・レセク・エルワーズ、|大気震わす雷を以て槍とせよ《エンセルト・リク・ライオール・セムズ》――」


 詠唱が止まらないと判断したのか、ゾーン・グール・グレイブがルーミアに向かって跳ぶ。エリシアは再びルーミアを抱いて跳び退く。その時、エリシアは気がついた。


「ルーミア……あなた詠唱しながら杖に魔力を通して振動させて、破滅獣の振動を振動で打ち消しているっていうの!?」


 ルーミアは頷きながら詠唱を続ける。


星の脈動に通じよ(ステラー・マクセム)雷撃の力よ(ガムド・ライオール)……」


 ルーミアを抱きながら回避を続けるエリシアにユーリが追いつく。


「ルーミアをこっちに! 魔法の弾道に合わせる必要がある! 俺がやる!」

「ユーリ任せた! ルーミアお願い!」


 エリシアは抱いていたルーミアを投げると、ユーリも跳び空中でルーミアを横抱きに抱きとめる。

 ユーリはゾーン・グール・グレイブに近づき、ルーミアの魔導杖の先が向くような位置を取った。周囲に迫る触手はエリシアが切り裂く。


顕現せよ(ギア)! 轟雷槍撃(ライオースピザメル)!」


 雷撃の轟音が轟き、魔導杖から雷の槍が伸びる。その槍はゾーン・グール・グレイブの正面にある口を内側から貫いた。

 それは生物なら致命傷を負わせた一撃に思えた。しかしゾーン・グール・グレイブは雷撃の槍を、口を閉じて噛み砕いた。


「なんだと!?」

「コォオオオオオオ!」


 それと同時に体を振動させると、猛烈な衝撃波が起こり、地面を抉りながらユーリとルーミア、近くにいたエリシアも巻き込んで弾き飛ばした。

 吹き飛ばされながら、ユーリはルーミアを抱きしめ、落下の衝撃に備える。吹き飛ばされたエリシアは壁面にぶつかるも、すぐに立ち上がった。

 落下したユーリも、ルーミアが怪我を負うような落下ではなかった。


「大丈夫か?」

「目が回ってる」

「それなら大丈夫だ」

「コォオオオオオ!!」


 ゾーン・グール・グレイブは胴体の口から再び漆黒の奔流を吐き出す。しかしそれは直接ユーリたちに向けられておらず、頭上の崖へと向けられていた。


「まずいぞ」


 ユーリはこれから起こることを予測し、体を起こしてルーミアを抱き上げる。

 すると、頭上からは砕かれた巨大な岩石が落下してくる。ゾーン・グール・グレイブは崖を削り、落石による攻撃を行った。そして回避に入るユーリたちに向かい、触手と、鋼鉄の槍の魔法を使う。

 全方位からの猛攻を回避しつつ、ユーリは気がついた。


「こいつ、戦いながら戦い方を覚えていってる……言い方は悪いが、ルーミアと同じように、相手に合わせて自身の使い方を洗練させている!」

「わたしは自覚ないけど?」

「こいつもそうだろうな。破滅獣が伝説に残る破壊者だとするなら、それはこの高い再生能力を前に手を焼いていると、どんどん強くなっていくってのが理由のひとつかもしれない」


 ユーリはルーミアを抱えながら、一カ所に一瞬としてとどまることなく移動を続ける。

 瞬間、エリシアを見る。エリシアもこの猛攻を掻い潜りつつ、ユーリたちとの合流を試みているようだった。

 ゾーン・グール・グレイブの攻撃範囲は広く、分散していても対応される。それなら、戦力を集中させるべきだ、エリシアのその判断はユーリにも伝わる。

 突破の鍵は接近、そしてルーミアの高威力の魔法による殲滅だ。

 だが、ひとつ予想外の懸念があった。戦いながら、ユーリたちは位置を押し込まれていた。気がつくと、視界の隅にはギルギレイアの村の門が見えはじめている。


「これ以上は退けないってことだ」

「どうするの?」

「ルーミア、使える中で一番威力のある魔法を頼みたい。俺とエリシアが詠唱の時間は稼ぐ。できるか?」

「任せて」

「頼む。――エリシア! ルーミアに賭ける!」

「わかったわ!」


 そのひと声でエリシアは作戦を理解する。

 ルーミアは詠唱を封じる震動魔法対策をしつつ、詠唱をはじめる。


(ディア・)古の言葉を紡ぎ(アルスワーズ・)力と成す(ドラクラムズ)――大気に潜みし猛牙よエンス・キア・ハーンブ・我が声に応じよ(ディア・セスムテンス)――」


 ルーミアが言葉を発した時、魔導杖のランタン部に光が集まる。空気も震えだし、今までにない肌のひりつきを感じる。ユーリは間近でそれを感じ、この魔法が今までの魔法とは桁が違うものだと察した。

 エリシアがユーリたちに近づく。ゾーン・グール・グレイブから伸びる触手を斬りながら、エリシアは宙を翔るように動く。その動きは凶暴な攻撃の中でも輝くような優雅さを持っていた。それを見るユーリはエリシアの持つ強さに、さらに信頼を置くことができた。


集約せよ(エルセプト・)破壊せし力の(ピエツスパーラ・)祝祭のごとき(ザムバール・)波動をこの(トゥルシオン・)我が前に(ディアゼム)――」

「エリシア! 魔法を確実に当てるために接近する!」

「わかった! 道を開くわ!」


 エリシアはユーリの前に出ると、激しく飛び交う触手と槍とを斬り払っていく。続くユーリも、左手にルーミアを抱えつつ、右手のティリシュベルトで猛攻を弾いていく。

 少しでも判断と動作を間違えれば致命傷を負いかねない状況の中、このような経験のなかったルーミアも、冷静に詠唱を続ける。


雷光の一撃よ(ライオー・バセクト・)我が(ディア・)剣となりて従え(シユベル・ミンカーゼ)――」


 ルーミアの詠唱が起こす魔力のひりつきが一瞬とまる。ユーリは次の言葉で魔法が発動すると見て、ゾーン・グール・グレイブに踏み込む。

 ルーミアの口からは、魔法発動の言葉が放たれる。


顕現せよ(ギア)! 雷滅重波光(ライオーバルヴェルド)!」


 瞬間、ユーリたちの視界が閃光で真っ白になる。その中に青白い雷光が走り、それは轟

音とともにゾーン・グール・グレイブを飲み込んだ。


「コ、グ、ガギ……」


 ゾーン・グール・グレイブのうめきのような声が起こり、光が収束すると、そこには体の三分の二を失ったゾーン・グール・グレイブがいた。


「コ、コ、バ、ゴ……」


 ゾーン・グール・グレイブはそんな音を発しながら、どすんと地面に体を横たえる。

 ルーミアの放った強力な雷撃が、この破滅獣の体を抉りとった。この姿は、どう見ても致命的な外傷だった。


「この魔法、強力なのだけど有効距離が短いの。ユーリ、近づいてくれたおかげで当てることができた」

「たまたまだけど上手くいったな」


 ルーミアを降ろすと、エリシアも近づいてくる。


「とどめを刺した方がいいかもしれない」

「……そうだな。俺がやる」


 ユーリが両手に剣を持って近づいた時だった。


「え?」


 ユーリの後ろにいるルーミアをかすめるように、


「なに?」


 その前に立つエリシアのわきを通り抜け、


「どうし――」


 ユーリは背後から、数本の触手に体を貫かれた。


「ユーリ!」


 エリシアはすぐに飛び出し、ユーリの体を貫いていた触手を斬ると、触手は砂のようになって朽ち果てる。

 ユーリはどさりとその場に倒れた。

 ルーミアは思わず背後を見る。そこにはもうなにもない。


「……わたしの魔法を先読みして、触手を背後に仕込んでいたんだ……この破滅獣、思っている以上に知性がある……!」


 ルーミアは寒気を覚えた。

 目の前では体の三分の二を失ったゾーン・グール・グレイブが、触手を支えに体を起こしていた。そして失った傷口から青紫色の粘液をしたたらせる。


「ユーリ! しっかり!」


 エリシアがユーリを担ぎ上げると、ゾーン・グール・グレイブの体の再生が開始される。


「げ……逃げ……ろ……エリシア……」

「しゃべらないでジッとしてて! ルーミア! 撤退する! 村の門まで走って!」

「わ、わかった!」


 ユーリを担いだエリシアが走りはじめると、ルーミアも必死に走る。

 ユーリの倒れていたあとには、血だまりができていた。

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