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星と召喚と女神の聖剣士  作者: 桐生スケキヨとYOM
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第029話「蠢く脅威」

【〇二九 星煌剣】

■ステラーアーツとも呼ばれる、ユーリの扱う「剣技」の総称。

アシダナ村に古くから伝えられている剣術であり、魔力を身体能力の補助や、武器の威力の強化として使うことが特徴となっている。

この魔力を身体や武器に纏わせる副次的な効果として、光の粒子が残像を作り出すことが確認されている。

威力は使用者の魔力と技量により大きく変化していく。

ユーリは物語の現時点では、師匠筋に当たるエリシアの祖父よりすべてを教わってはいないらしい。

【〇二九 蠢く脅威】


 明け方頃だろうか。崖底に光が差すのは遅いらしく、ユーリは窓の外の様子を見ただけでは今がどのくらいの時間なのかわからなかった。しかし、自分が目を覚ましたということは夜明け近くなのだろうと思った。

 ベッドから起き、体を動かす。


「……よし」


 痛みも、感覚の痺れもない。

 部屋には自分しかおらず、静かだった。目を閉じ、意識を澄ます。意識もしっかりとしている。もう不調はない。

 少し外で体を動かしてくるかと思い、立てかけてあった輝石剣とティリシュベルトを腰につける。正体のわかったふた振りの剣であるが、ギーファンはこのティリシュベルトを女神の聖剣と言っていた。それは「それほどの逸品」という意味なのか、それとも「言葉そのまま」の意味なのか、ユーリにはわからなかった。

 部屋の扉に手をかけた時、微かな振動を感じる。


「ん……?」


 また間欠泉か? そう思ったが、揺れは断続的に続く。微かだったその振動は震源が近づくように大きくなっている気がした。


「なんだ――」


 肌がひりつく。すると次の瞬間、半鐘の音が響いた。地面の揺れが続く中、ユーリは部屋から飛び出した。すると、そこには向かいの部屋から同じように飛び出してきた、身支度を終えたエリシアと鉢合わせる。


「なにが起こった!?」

「村の外に見張り台があるの。そこでは絶えず監視の人がいる。その人が半鐘を鳴らしたっていうことは、なにか来たんだわ」


 エリシアがそう言っていると、ルーミアが帽子を被りながら同じ部屋から出てくる。


「考えられるのはひとつしかない」


 ルーミアもこの半鐘の原因を察しているらしかった。


「破滅獣……ゾーン・グール・グレイブってやつか」

「行ってみましょう。村には近づいてこないと言っていたけど、なにかあったのかもしれない」

「ユーリ、もう動ける?」


 ルーミアは少し心配そうな視線を投げかけた。ユーリは笑みを返す。


「あぁ、もう大丈夫だ。ルーミアこそ、昨日あんなに食べて、動けるか?」

「うん、大丈夫」


 頷くルーミアを見ると、三人はギーファンの家を出る。外にはすでにギーファンがいた。


「ギーファンさん」


 ユーリが声をかけると、ギーファンは遠くを見たまま応じる。


「どうやらやつが来たようだ。村の若い衆が防衛に出ているが、なぜか進行が遅いらしく、まだ防衛線までは到達していないらしい」

「俺たちも行ってみます。みんなは……どうか避難を」

「あれが来たら村は壊滅する……。遺憾ではあるがこの土地を破棄するしかない」

「逃げる場所はあるんですか?」


 エリシアが問うと、ギーファンはこちらを向いて頷いた。


「地上への出口はひとつしかないと言ったが、実はこういう時のために、となりの渓谷へ抜ける洞窟がある。入り口は大岩で塞いで隠してしまっていたが、爆破すれば通れるようになる。防衛線を突破されたら……それを使うしかない。おまえたちも、あやつを倒そうなどとは考えるな。儂らにかまわず、隙を見て地上へ逃げろ」

「みんなが避難するまでは持ちこたえます」


 ユーリの言葉にギーファンは首を振る。


「やめておきなさい。人のことを心配できるほど余裕のある戦いではないぞ。破滅獣はまさに破滅の獣。聖剣士の剣を持とうとも、女神の加護がなければ打ち倒すことはできん」

「……でも、できる限りはやります。行こう、エリシア、ルーミア」

「ギーファンさん、どうかご無事で」

「美味しい食事、ありがとうございました」

「無理はするな。若者が失われるのは……よいことではないのだ。わかってくれ」


 ギーファンの切実な言葉に、ユーリたちは頷きだけを返し、走り出した。


「……そうは言うけど、ここの生活だって大事」


 ルーミアのその言葉に、ユーリとエリシアは少し驚いた。だが、その通りだった。


「助けてくれた恩も返さないと」

「そうね。やれることはやりましょう」


 村の出口の方へ向かうと、鉄でできた門が閉められていた。その周囲には槍を持った若いギルギレイア人たちが集まっている。


「あ、ヴァイツ隊長!」


 そのひとりがエリシアの姿を見ると声を上げる。


「なにが起こったの?」

「破滅獣が村に通じる通路に現れたんです。どうやら侵入者がいるらしくて、そのものたちと交戦しているようで、こちらへは来ていないのですが、近づいてきてはいます」

「侵入者?」

「はい。姿はよく見えていないのですが、人間かエネスギア人ではないかと」


 誰だろう? と言うようにエリシアがユーリを見るが、ユーリは首をかしげる。思い当たる節がない。


「行ってみるしかないわね。打って出ます。わたしたちを門の外へ」


 エリシアは肩にかけていた銃を手に取り、弾を込めながら言った。それを聞いたギルギレイア人は驚く。


「正気ですか!? 破滅獣ですよ!? 伝聞で聞くよりは小さい個体ですが、魔力の振動がここまで届くようなやつですよ!?」

「わかってます。でも、この立派な門だけでは防ぎ切れない。わたしたちが時間を稼ぐから、避難する準備を進めてください」

「行かせてください、お願いします」


 ユーリもそう申し出ると、ギルギレイア人は困った顔になった。


「……聖剣の使い手が現れたと村長が言っていたのですが、それに合わせて破滅獣も出てくるなんて。皮肉なものです。わかりました、門を開けます。おい、門を開けろ」


 ギルギレイア人がそう叫ぶと、数人が門を開けはじめる。


「ヴァイツ隊長、お戻りになられましたら、その銃、というものをよく見せてください。我々もそれを作りたいです」

「機密なんだけどね。戻ったら見せるわ。ありがとう」

「聖剣の使い手の方、教会騎士様もお気をつけて」

「ありがとう」

「また戻る」


 門が開くと、三人は飛び出した。緩い上り坂を駆け上がっていくと、ゾーン・グール・グレイブの頭頂部、人の形をした突起が見えた。触手を振り回し、たしかになにかと交戦しているようだった。


「一体誰が!?」

「見ろ! あれは……ゾディアスタス人だ!」

「え」


 ユーリが指さした先にしたのは、チェロリダ村で交戦したゾディアスタス人、ガブリアスとパルアだった。


「迂闊に近づいたらこれか! 総督はこれを手懐けるつもりでいるようだが、夢物語のように思えるな!」

「ガブリアス様、距離を取ってください! この触手、槍状にも変化します!」

「重力魔法を使われるとやっかいだが……その前に皮のひとつも剥ぎ取らねば総督に合わせる顔がない!」


 迫る触手を大剣と破砕棍で振り払うふたりからは、そんな会話が聞こえた。


「聞いたかエリシア。帝国はこいつを手懐けるつもりらしいぞ」

「こんなのが操られたらたまったものじゃないわ」

「……帝国は破滅獣がここにいるという情報を持っていたということ?」


 ルーミアの発言にふたりの視線が集まった。


「そういう……ことよね」

「どうしてだ? こっちは知らなかったんだぞ。チェロリダ村だって、知っていたら基地に連絡はあったはずだ」


 ルーミアが考える。


「破滅獣は災害獣の同列と考えるのなら、情報収集は教会の管轄になる。教会から各基地に連絡がいくはずだけど……セルフィリア領内で教会の捜査力より、帝国の力の方が上だったっていうことね」

「それは問題ね」

「……なにかもっとやばい事情があるんじゃないのか?」

「え、例えばどんな?」

「それは……わからないけど」


 三人がそんな会話をしている中、声が上がる。


「むっ! そこに見えるのはセルフィリアの凶星ではないか!」


 ガブリアスがこちらに気がついたようだった。


「生きていたとはな! さすがの豪運を見せてもらったぞ!」

「ガブリアス様っ、そんな話をしている場合では――」


 ゾーン・グール・グレイブが巨体をこちらへと向ける。どうやらユーリたちの存在も認識したようだった。


「どうするユーリ?」


 エリシアの問いに、ユーリは剣を抜きながら応じる。


「あいつらが注意を引いてる間に逃げることもできたかもしれないけど……ここはやるしかない。食い止めて、村から遠ざける。それでいいか、ルーミア」

「うん。それで行きましょう」


 ルーミアもちょんちょんとランタンを突き、安全装置を解除した。


「帝国のふたりはどうする?」

「仕掛けてきたら相手をしよう。あっちだって、こいつの対応で手一杯のはずだ」

「共闘しようってこと?」


 ルーミアの言葉に、ユーリは首を振った。


「まさか。そんな都合のいいものじゃないさ。ただ、生き残る最善の選択肢を選ぶだけだよ、あっちも、こっちも」

「なるほど」


 ルーミアは納得する。


「来るわ!」


 エリシアの言葉の直後、無数の触手が地面を掘りながらこちらへと疾駆してくる。それはゾーン・グール・グレイブを中心に、ガブリアスたちへも広がっていた。


「ルーミアとエリシアは後ろへ。触手の対応は俺がやる!」

「任せる!」

「わかった!」


 群がる触手に向かい、ユーリは跳ぶ。その後には魔力の残滓が光の粒子となって残る。

 ユーリが触手を断ち切る中、エリシアはゾーン・グール・グレイブの本体に数発の銃弾を撃ち込む。しかし、効いているのか効いていないのか、手応えはまるでない。

 ガブリアスたちの方を見ると、迫る触手をガブリアスの大剣が切り裂いている。そして、パルアが俊足でゾーン・グール・グレイブへと迫った。


「あいつ接近するのか!?」


 パルアが本体に仕掛けに向かう。ユーリは不用意な踏み込みに驚いたものの、パルアはゾーン・グール・グレイブに肉薄し、体から突き出ている角のような突起を素手で掴んだ。


「ふん!」


 そして手持ちの破砕棍を振り、角を根元から粉砕すると今度は踏み込んできたよりも早い速度で距離をあける。

 ゾーン・グール・グレイブの折れた角はすぐに再生するが、パルアの手の中にある角の欠片は形を保っていた。


「パルア!? なにをした!?」

「ガブリアス様が皮でも持ち帰らねばと仰ったので、あの突起のひとつを手に入れてきました」


 パルアは当然のように言う。


「は、はは……おまえというやつは……頼もしい限りだ!」


 だが、触手は依然として暴れ回っており、その中で空気が震える。


「重力魔法が来る!」


 ルーミアが叫ぶ。それとほぼ同時、ゾーン・グール・グレイブからどすんという衝撃が広がったが、合わせてルーミアの体からも衝撃波が起こった。


「ルーミア!?」


 ユーリとエリシアがルーミアを見る。ゾーン・グール・グレイブは重力魔法を発動させたはずなのに、体に重みがない。


「重力魔法に対して妨害する魔力を放出してみた。この魔導杖にひとつ衝撃波の魔法を仕込んでおいて、それと合わせて二重の魔法を使って、相殺させたんだけど、上手く行ったみたい」


 そんなことができるのか――ユーリは一瞬そう思ったが、できているのだからできるということだと納得する。


「魔法の天才だな」


 それは本音だった。

 しかし、ルーミアは魔力を放出し続ける必要があるらしく、それは誰が見ても負担になる行動だった。


「エリシア、前に出て注意をあいつらに向けさせよう。村から離すんだ!」

「わかった!」


 エリシアも剣を抜き、ユーリとともに走り出す。


「聞いたかパルア! やつら村があると言った! この先になにかあるのだ!」

「ガブリアス様、撤退しましょう。破滅獣の存在する証拠は得ました。連中に付き合っていてはこちらも危うくなります」

「敵に後ろを見せるなど!」

「今は撤退の時です! ここでガブリアス様を失うわけにはまいりません! 失礼!」

「パルア!?」


 パルアはガブリアスを担ぎあげ、肩に腹を乗せるとユーリたちをキッと一瞥する。


「この破滅獣は捨て置け。おまえたちとて無駄死にはしたくあるまい! さらばだ!」

「降ろせパルア! 私は戦わねばならんのだ!」

「この欠片だけでも十分な武勲です!」


 そう言いながら、ガブリアスはパルアに担がれて来た道を戻っていった。

 ゾーン・グール・グレイブの注意がユーリたちに向いていたからこその撤退であった。


「あいつら逃げやがった!」

「こっちに注意が向く!」

「くっ、でも重力魔法は使えないんだ、正面から数発打ち込めば――」


 ユーリの言葉を遮るように、ゾーン・グール・グレイブは奇怪な声を発する。


「コォオオオオポ、ポポルコ、コォオオオポル――」


 エリシアは肌にびりっとした圧を感じた。使われている重力魔法は相殺されている。それなのにこの圧はなにか。


「待ってユーリ! こいつ! 同時にふたつの魔法を使う!」


 ゾーン・グール・グレイブの周囲には無数の鋼鉄の槍が形成され、それが雨のようにユーリとエリシア目がけて降り注いだ。


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