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星と召喚と女神の聖剣士  作者: 桐生スケキヨとYOM
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第002話「星が翔るがごとき少女の覚悟と奇行」

【〇〇二 人間とエネスギア人】

■地上世界には元々人間たちとエネスギア人たちが暮らしていたが、ある日天界よりエネスギアたちが女神より地上に秩序と平穏をもたらすように天啓を受けたというのが、エネスギア人たちの信仰するマールセルフィリア教の教えとなっている。

 これによりエネスギア人たちは人間を支配し、本来なら平等と博愛を説くマールセルフィリア教であるはずが、人間たちを見下し、差別し、支配しているのが現状となってしまっている。このことに憂いを覚える司祭たちも少なくないが、それは少数派のようである。


挿絵(By みてみん)


【〇〇二 星が翔るがごとき少女の覚悟と奇行】


「聞いたよエリシア、本隊の野営地に合流するまで二日もかかったんだってね」


 エリシアたちの本拠地である前哨基地へと帰還したエリシアはひとり、消費した弾薬の受領に武器庫の窓口に来ていた。窓口担当官は同じ人間のシャーラ=フオミン。シャーラは明るく快活な人物で、長い髪を高い位置で束ねている。エリシアとは訓練生の同期だった。


「二日じゃないよ、三日。本隊の移動が思ったより早くて。もう、逃げ足だけは速いんだから」

「しっ、そんなことエネスギア人に聞かれたら大変。エルマン大佐の耳にでも入ったらもっと危険なことをさせられる」


 シャーラが厚めの唇に指をあて、声を潜める。

 

「大丈夫。連中、武器庫になんて近づかないもの。面倒ごとは全部人間に押しつけるんだから」

「そうだけど……気をつけなよ? あなたはそうじゃなくても目をつけられているんだからね?」

「そうなの?」

「そうよ。人間で少尉になったのなんてあなたくらいじゃない。たまに噂を聞くけど、エネスギア人たち、あなたたちがいつまで生きてるか、賭けてるみたいよ」

「へぇ。それならずっと生きてやろうじゃない」

「そうしてくれるとわたしも嬉しい――って、そんなことよりさ」


 シャーラは再び声を潜め、テーブル越しのエリシアに顔を近づける。なにか耳打ちしたいことがあるのかと思ったエリシアはシャーラの口元に耳を近づけた。


「なに?」

「なにかあった? ユーリとずっと一緒だったんでしょう?」

「なっ!」


 エリシアは驚き、バッと身を退いた。困惑するエリシアに対し、シャーラはニヤニヤと笑みを浮かべていた。


「敵部隊を倒してから合流するまで、戦闘はなかったんでしょう? それなら……なにか起きちゃうような時間、あったんじゃないの?」

「あるわけないでしょっ! 任務中よ」


 シャーラはよく、ユーリのことでエリシアをひやかしていた。


「ユーリがなにかしてくるわけないじゃない」


 そう言って頬を膨らませるエリシアを見て、シャーラはため息をついた。


「もうっ、こうなってくると原因はエリシアにあるんじゃないの? もっと積極的にいきなさいよ」

「わ、わたしから!? そんなの……できるわけないじゃない……」


 エリシアの声が消えそうなくらいに小さくなる。


「できるって。エリシアなら簡単よ。その無駄に大きいおっぱいを有効活用しなさいよ」

「ひゃっ!?」


 シャーラは指を伸ばし、エリシアの胸の膨らみをむにゅっとつついた。


「うわ、すごっ」

「なによ無駄って! これは赤ちゃんを育てるために必要なの!」

「なに遠回しなこと言ってるのよ。その赤ちゃんだって、ユーリと作りたいんでしょ?」

「なっ……!?」


 ずぼん、と音が聞こえそうな勢いでエリシアの顔が真っ赤になる。


「なななななな……!」

「ふふふ、もうさ、あなたたちって気持ちは決まってるようなものなんだし、いいじゃないの、変な遠慮とかしないで。それに――」


 シャーラはふと笑みを消し、目を閉じた。


「いつ死ぬかもわからないのよ、あたしたち人間は特に」


 エリシアはきゅっと胸が痛んだ。

 シャーラは間違ったことを言っていない。


「安全な場所にいられるエネスギア人と違って、いつも危険なことをやらされて、あとのことなんて考えずに使い捨てにされるんだから」

「シャーラ……」

「こんなところにいるとね、そういう人たちを見かけるの。武器をもらいに来たきり、戻ってこない人たちを。エリシアにはそうなって欲しくない。あなたたちはめちゃくちゃ強いから、よほどのことがないと大丈夫って思ってるけど……戦場じゃなにが起こるかわからないでしょ」

「……そうね」


 シャーラの言っていることは理解できた。シャーラは優秀な兵士だ。訓練生の頃、シャーラは用兵に長じた才能を見せ、小規模ながら演習ではその機転で同期を助けてくれたことは数知れない。しかし、訓練が終わり、配属になったのは武器庫の管理という、彼女の才能をまったく無視したものだった。

 これがエネスギア人の社会だ。人間の才能よりも、自分たちの地位や名声を大事にする。


「湿っぽい話になっちゃったね。けど、やりたいこと、やれるって時にやった方がいいよ。これだけは伝えたい」

「うん……ありがとうシャーラ」

「そんなにあらたまらないでよ。きっとユーリだって喜ぶよ、あなたに迫られたら」


 パチッと、シャーラは片目を閉じて見せる。エリシアはこの明るい少女のことが大好きだった。戦争なんてなかったら、いつも一緒に遊び回っていたと思う。


「はいこれ、注文通りの数を揃えたよ」


 シャーラはテーブルの上に、スッと四つの小さい木箱を取り出した。


「え? 注文通りって?」

「補充の弾丸百発、たしかに」

「うそっ!? 百発も!? 却下されなかったの?」


 銃は魔法史上主義のエネスギア人社会において、異端視されている武器であり、現在は有効性の試験もかねて少数が配備されているだけだった。エリシアはその内の貴重な一丁を任されてはいたが、使用する弾丸はいつも多くても二〇発程度しか支給されないでいた。

 それが、無理とはわかっていながらに申請していた百発が支給されたので、エリシアが驚いたのも無理はなかった。


「へへ~ん、たいしたものでしょ」


 シャーラが胸を張るが、エリシアは不安になった。


「なにか悪いことしたの?」

「うーん、ちょっとだけ」

「ダメだって。バレたら大変なことになるよ? 弾丸は厳しく管理されてるんだからね」

「大丈夫、バレないよ」

「どうして?」

「……この弾丸は、戦場で回収されたものよ。今回の作戦じゃ大勢の兵士が死んだ。中には戦わないで死んだ人もいる。この弾は、その人たちが持って行ったものを回収したものよ。持ってきてくれた人がいたの」

「そんな人が……?」

「同じ人間の生き残りが、撤退の時に回収してきたんだって。上に戻さないで、欲しいって言う人に渡してくれって。報告はしてないから、上も把握していない弾よ」

「そういうこと……」


 今回の作戦はゾディアス帝国の砦への攻撃だった。しかしこちらの動きは事前に察知されており、エネスギア人が開幕に放った大魔法もほとんど効果はなく、陣地の左右から奇襲攻撃を受けることとなった。

 まともな反撃に転じる間もなく陣地は瓦解し、前線に出された多くの人間たちが死んだ。

 戦うこともできずに死んでいった仲間たち……この弾丸は、いわば無念の弾丸だとエリシアは思った。


「大事に使わせてもらう」

「うん。あなたの命もね。それと、これ」

「ちょ――」


 シャーラの指が再びエリシアの大きな胸をむにゅっとつつく。


「これ、今夜はユーリのために使いなさいよ?」

「え、使うって、ええぇええ!?」

「そんなに驚くことないじゃない。今夜って言ったけど、すぐに招集されるかもしれないでしょ。本当に、迷っている暇なんてないんだからね。覚悟決めなさいよ」

「うぅう……」

「エリシアはかわいいんだしスタイルもいいんだからさ、あなたみたいな子にちょっと大胆に迫られたらユーリだってガーってなっちゃうわよ」

「そ、そんなことは……」

「ある。そんなことあるっ。だから、がんばって!」


 シャーラは弾丸の入った木箱と、ユーリに頼まれていた砥石をエリシアに押しつけた。


「わ、わかった――やってみる」

「そうよ、その気持ちを大事にね」

「うん! また来る!」

「いつでも」


 エリシアは荷物をまとめて受け取ると、保管庫をあとにした。

 基地内の通路ですれ違うのはエネスギア人ばかりだった。階級がエリシアより低いものでも、人間に対しての敬礼はない。さらには、聞こえるように陰口まで言う。


「おい見ろ、ふたり部隊の人間少尉だ」

「また生き残ったんだってな」

「ふたりで三〇〇匹の敵を倒して生還したとかなんとか」

「さすがに野蛮なやつらだ。魔法という高貴な戦いも知らずに剣と銃なんてもので戦ってるそうだな」

「それももう限界だろうよ。次の戦場が最後だ」

「そうだな」


 聞こえないふりをするが、はっきりと聞こえる。

 ――うるさい、わかってる。人間はエネスギア人ほど魔法に長けているわけじゃない。でも、自分たちは戦えている。無謀な作戦でも生き延びてきた。同じ友軍なら少しくらいは戦果を評価してくれてもいいじゃないか――。


「撤退の支援はわたしたちがしたのに……ふたりだけで」


 思わずそんな愚痴がこぼれる。

 エリシアの部隊はエリシアと、ユーリしかいない。エリシアを隊長とした小隊は当初十二人いたのだが、ふたりを除いて皆戦死してしまい、その後補充されることなく、ふたりの部隊となっていた。

 ふたりの人間部隊――エリシアとユーリは基地内ではそう呼ばれていた。だがそれは敬意を込めた呼び名ではなく、人間風情がよくも生き残っているという、見世物的な意味合いを込めた蔑称に当たるものだった。

 いろいろ言い返したい気持ちはある――しかしここでエネスギア人に逆らえば生きていくことはできない。故郷の人たちにどんな仕返しがあるかもわからない。

 エリシアは不満を堪えつつ、自分たちの部屋があるおんぼろ宿舎へと向かった。

 宿舎につくとエリシアはバタバタと部屋へ向かい、遠慮なく扉をあける。ここが自分の帰るべき場所、家だからだ。


「ただいまー。報告書出したけどエルマン大佐が書き直せって。勝利したって書けだなんて、まぁいつものことだけどさ。あぁ、ユーリに頼まれていた砥石、もらって来たよ。弾丸もいっぱいもらえたのはいいんだけど、またエネスギア人たちが……って、あれ? ユーリ?」


 二段ベッドと机があるだけの部屋にユーリの姿はない。

 ふたりが生活しているのは老朽化した宿舎で、六部屋ある建物なのだが他の部屋は住めないほどに傷んでいて使えなくなっていた。なのでひと部屋しかなく、エリシアとユーリは同じ部屋で寝泊まりすることになっている。


「ユーリ?」


 耳を澄ますと、水音が聞こえてくる。


「なんだ、お風呂か」


 おんぼろの宿舎であっても、風呂などの水場が機能しているのは奇跡だと思えたが、ありがたかった。


「お風呂……」


 そう思った瞬間、ふとシャーラの言葉がよみがえる。


『いつ死ぬかもわからないのよ、あたしたち人間は特に』 

『エリシアはかわいいんだしスタイルもいいんだからさ、あなたみたいな子にちょっと大胆に迫られたらユーリだってガーってなっちゃうわよ』


 正直なところ、ユーリが自分をどう思っているのかはわからない。ただの同郷の幼なじみであり、戦友である程度にしか思っていないのかもしれない。

 では、自分はどうなんだと、今さらな自問をする。


「わたしは――」


 昔からユーリが好きだ。シャーラのように綺麗には表現できないが、ひとりの女性が、ひとりの男性を想うという意味での好きという感情がある。

 しかし、その想いをユーリに対して口にしてしまい、今の信頼関係が壊れるのは、死ぬほど怖い。


「でも……」


 今までに五回の任務。どれも生還は想像もできないような任務ばかりだった。そのたびに、帰ったらユーリに想いを伝えようと思ってきた。だが、伝えたことは一度もない。いつもまた、今度、としてしまう。

 エリシアは首を振る。


「きょ、今日こそ……!」


 シャーラに使うようにと言われた胸に手を重ね、一度深呼吸をした。


「これを……使う……!」


 エリシアは服の留め具に手をかけた。

 ユーリの逃げ場がないよう、風呂に入っている今が機会になる。奇襲こそ基本、ユーリもシャーラも、いつもそう言っていた。

 ジャケットと肌着を脱ぎ、下着姿になる。心臓の鼓動は戦闘の直前よりも早い。

 本当に自分には魅力があるのだろうか。ユーリはわたしを見て、なにか感じてくれるだろうか――不安はある。

 下着のまま、風呂の脱衣場へと入る。


「ユ、ユーリ?」


 ドア越しに声をかけると、ユーリの声が返る。


『おぉ、エリシアか? 帰ったのか、悪い、すぐ出るよ』

「う、ううん、平気」


 自分でもわかるくらいに臆病な小声になっている。

 ダメだ。

 こんな時こそ大胆に攻めるべきなのだ。自信なく攻めるのは隙を突かれて敗れる原因となる――有利な状況を有利に進めるのは大胆さだ。

 エリシアは思いきって下着も脱ぎさり、風呂場の扉に手をかけた。

 そして、開ける。


「ユーリ!」

「うぉわっ!?」


 扉を開けるとそこには全裸のユーリが立っていた。

 ユーリも想像していない出来事に、なにが起こっているのか理解が及ばず戸惑っている。


「お、おまっ、なにを――!?」


 怯むな。奇襲は成功した。今は攻める時。

 怯んだら負けだ――!


「ユーリ!」


 エリシアは踏み込み、裸のまま裸のユーリに抱きついた。


「うぉおおおどうしたエリシア!? なにかあったのか!? おい!?」


 ユーリもエリシアを抱き留められず、抱きつかれたまま両手をバタバタさせている。


「あ、あの、聞いてユーリ。わたし、今日こそどうしても――」

「おぉおおおおおどどどどどどうしたんだよ!?」

「え、えっとね、わたし、ユーリが……ん、んんん?」


 エリシアはふと、下腹部に触れる違和感に気がつき、視線をそこに落とした。

 するとそこにはユーリの――。


「なっ、に、こっ……れ……」

「な、なにと言われましても……まぁ、うん……」


 ユーリの下半身を直視してしまった瞬間、エリシアの瞳からはサァっと光が消え、白目になってしまった。そして――。


「ふぁあああっ……」


 ふらっと、意識を失い後ろに倒れそうになる。


「おぉっと」


 ユーリはすぐにエリシアを支えたが、体から視線は逸らした。

 棚にあったタオルを取り、エリシアの体にかける。


「なんなんだうちの隊長は……」


 突然の奇行ではあったが、エリシアは意味のない行動をするような人物でもないので、なにか考えがあってのことなのだろうと思った。しかし、その目的はわからない。


「まいったな」


 ユーリはどうしようかなと思い、あいている方の手で頬を掻いた。


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