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星と召喚と女神の聖剣士  作者: 桐生スケキヨとYOM
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第028話「包まれる香りに馳せる決意」

【〇二八 美食の神】

■ギ族は日々の食事を重要視しており、信仰する神々の中には美食を司る神も存在しているらしい。

ギ族は元々なんでも食べる種族であったため、各国の様々な食文化が集約されていったという説もある。

ギーファンはそうでもないようだが、ギ族には多く食べる人が多いらしい。


【〇二八 包まれる香りに馳せる決意】


「おあふぁふぇりなふぁい」


 ギーファンの家に戻ると、そこでは広い卓にめいっぱいの料理が並べられており、それらをこれでもかと頬張るルーミアが出迎えた。


「た、ただいま……」

「ルーミア、起きてたのね」


 部屋から続く台所からは、香ばしい香りと、鍋を振る音、なにかが焼ける音がしている。


「ギーファンさん、これは?」


 すさまじい数の料理に、エリシアが思わずたずねる。ギーファンは苦笑する。


「儂の妻がせっかくの客人なのだと張り切ってな。あいつは料理が好きなんだ。村で祭りがある時など腕を振るうのだが、地上から振ってきた怪我人がいると言ったら、たくさん食べて栄養をつけてもらおうと言って、この有様だ」

「ふほくおいひいよ」

「わ、わかったからルーミア、食べながら話しちゃダメよ」

「さぁ、あんたたちも食べてくれ。ギ族の料理は美味いぞ。なにせ、ギ族の神である幽冥の疾風神ギ=ガリクは美食の神としても信奉されている。そのギ=ガリク考案の料理が、ギ族の料理なのだからな」

「へぇ、それはすごそう。それに、すごくいい香り。セルフィリアのスパイスとはまた違った感じだわ」

「これはなんだろう? 白い麦粒みたいなものが椀に?」


 ユーリが興味を引いたのはルーミアの前にあった白い麦粒が盛られた椀だった。その上に、茶色く煮込まれた食欲をそそる香りのする肉がのせられている。


「なんだ、米を見るのははじめてか。我々ギ族の主食だ。チェロリダ村にも分けてやっていたが、評判はよいのだ。どうやら他の場所には流さなかったらしいな。食ってみろ、今よそってやる」


 するとギーファンは椀をふたつ取り、ユーリとエリシアにそれぞれ米をよそって渡す。


「あったかいんだ。それにいい香りがする」

「それだけでも美味いが、この煮込み肉や小麦包み焼き、香草の油炒めなどと一緒に食べるのがギ族の流儀だ。やってみるといい」

「いただきます」

「いただきます」


 テーブルにつき、スプーンを使い、ユーリは煮込み肉を、エリシアは小麦包み焼きを取ってそれと一緒に米を食べた。


「んんっ!?」

「美味しい!」


 今まで食べていたパンとはまた違い、豊かな香りと甘みが口いっぱいに広がる。一緒に食べた肉や包み焼きの甘さや塩っぽさが、この米によく合い、無限かのように思える旨味を爆発させる。


「ルーミアが口いっぱいに頬張るのもわかった!」


 ユーリは口に運ぶスプーンが止まらない。エリシアも夢中で食べてしまう。

 それを見たギーファンは満足そうに笑う。


「これがギ族の料理だ。鉄だけかと思っていたら大間違いだな。ギ族にもしっかりとした文化はある。どんどん食べてくれ。あにせあいつは客人に料理を振る舞いはじめたら、食い倒れるまで作り続けるのだからな」

「いくらでも食べられそうです」

「こんなのはじめて!」

「おいひいれしょ?」


 三人が一心不乱に食べていると、恰幅のよいギーファンの妻が大きな鍋を持ってやってきた。


「さぁ、スープも食べておくれ。チェロリダ村の鳥をまるごと煮込んだスープだよ。滋養のつく野菜も一緒に煮てあるから栄養も抜群さ」

「ありがとうございます。こんな美味しい料理ははじめてです」


 ユーリがそう言うと、ギーファンの妻も笑顔になる。


「それはよかった。ギ族はね、排他的な種族と思われがちなんだけどね。まぁ実際そうなんだけど、あたしゃ自分の料理を美味しいって食べてくれる人は誰も歓迎するよ」

「振る舞いに感謝します」


 エリシアが丁寧にお礼を言うと、ギーファンの妻は頷き、大鍋からスープを取り分ける。これも鶏肉の臭みを殺し、いい香りだけど抽出したような香りがする、透き通ったスープだった。

 ひと口飲むと、鶏の旨味が絶妙な塩加減に引き出され、骨の芯まで染みこむような味わいだった。


「すごい、俺、なにかを食べて感動したなんてはじめてかもしれない」

「わたしも……この世にこんな美味しいものがあったなんて」

「ふふふ、褒め上手な子たちだよ。まだあるからね」


 ギーファンの妻は軽い足取りで台所へ戻っていった。


「まぁ食べながらでいい。温泉はどうだったかな?」

「おかげさまで痛みが引きました。こんなに効果があるなんて驚いてます」

「うむ。よく効くんだ。――特に、体に魔力を通すものにはな」

「っ!?」


 一瞬、ユーリの手が止まった。


「ユーリと言ったか。おぬしはやはり『剣技』を扱うな。それも生半可なものではない。体にも、武器にも魔力を通す、『聖剣技』と呼んで差し支えない技を使うようだな。でなければ、あの温泉でここまでは回復しないものだ」

「……お見通しってことですか」

「試すようなことをしてすまん。だが、知りたかったんだ。名剣を持つもののことを」

「悪くは思っていません。でも、俺自身も『剣技』のことはよく知らないんです。ただ、教わって、それができてるってだけで」


 ユーリの言葉に、ルーミアも口に運びかけていたスプーンを止める。


「ユーリの動き、やっぱり『剣技』だったんだ」

「隠すつもりはなかった……と言えば嘘になるな。あまり言いふらしてほしいことじゃなかったし、ルーミアには隠していた。ごめん」


 ルーミアは首を振る。


「星の煌めきがごとき剣――普通じゃないと思ってたよ」

「爺ちゃんから何度か名前を聞いたことがある。ルーミアの言うように、星の煌めきを纏う剣技、星煌剣(ステラーアーツ)――って言うらしい」

「なるほど」


 ルーミアとギーファンの声が重なる。


「儂も剣技には詳しくなくてな。存在は知っているが細かい流派まではわからん。しかしそれは現代に伝わる神話の妙技。まさに、その輝石剣と女神の聖剣を持つに相応しいと言えよう」

「そう……なのかな」


 ユーリは思わず照れる。すると、エリシアがふふっと笑う。


「ごめんなさい、ユーリ、あまり褒められるのに慣れてなくて」


 ギーファンは笑ったが、ルーミアはそう言ったエリシアの顔をジッと真顔で見つめる。


「ル、ルーミア?」

「なにか際どいことをしてきたみたいな感じがする」

「ちょ――」


 エリシアの顔がボッと赤くなる。


「でも結局はできてなさそう」

「わ、わかってるなら言わないでよっ」


 そんなやり取りを見ていたギーファンがふむと首をかしげる。


「どうかしましたか?」


 ユーリが問うと、ギーファンは不思議そうな顔をする。


「儂の記憶では教会騎士とは敵からは当然、味方からも恐れられる存在のはず。この教会騎士は随分と仲がいいように見える」

「ルーミアは特別なんです」

「そうです。他のエネスギア人とは違って、わたしたち人間のこともわかってくれています」


 ルーミアは包み焼きをパクッと頬張ったところで固まる。それを見たギーファンが笑う。


「なるほど。そういうことか。なに、傲慢なエネスギア人と食卓を囲むのは遠慮させてもらうが、こういう人なら儂も歓迎だ。よかったよ」

「はい、次は卵炒めだよ。甘くて、ちょっと酸味も効いてるんだ、美味しいよ」

「おい、まだ作る気か!?」


 運ばれてくる料理にギーファンが驚く。


「客人に食材をケチったらギ族の名折れだよ。さぁ、まだ続くよ」

「まったく……勘弁してくれ」


 うんざりした様子のギーファンだったが、ユーリたちには身も心も安心、満足する歓待となった。



 ◇ ◇ ◇


「こ、この状況、長く耐えるにはあまりも困難! ガブリアス様は無理難題を仰る!」


 ガブリアスとパルアは森で野営をしていた。交代で仮眠を取るということでガブリアスが先に寝ているのだが、それを守るパルアは足音と気配を殺し、寝ているガブリアスの周囲をぐるぐると何周も回っていた。


「あぁ……ガブリアス様の寝顔がこんなにも近くに……なんということだ!」


 興奮のあまり近くの大木を殴りつけたくなる衝動を、これでもかと堪える。


「今すぐに吸い付きたい、覆い被さりたい、抱きしめたい……!」


 堪えきれなくなった願望はそのまま言葉になって口からあふれ出ている。

 ガブリアスは崖下を確認したいらしく、ふたりで下に続く道を探していた。しかし道らしいものはなかなか見つからず、一旦休憩をとることになった。

 しかしパルアにとってはそのようなことはたいしたことではなく、ガブリアスとふたりきりになれたという現実に狂喜乱舞し、ずっと舞い上がりっぱなしだった。

 ガブリアスが寝るぞと言った時、思わず「一緒にですか!?」と大声をあげてしまったが、ガブリアスから冷静に「見張りがいる、交代で寝るに決まっているだろう」と言われ、一瞬だけ我に返ったものの、今ではこうして無防備なガブリアスを狙う猟犬のような動きになっていた。


「くっ……このままでは正気を保てない! せめて近くで、少しだけ触ってみるだけでも……」


 そう思い、ガブリアスの前に座ったパルアは意を決して指をいっぽん、ガブリアスの頬に向けて伸ばす。その先端が、一瞬、ガブリアスの頬に触れる。


「ぬぅううあああああーっ!!」


 手を離したパルアは声を押し殺して叫びつつ、地面に転がり回った。


「触れた! ガブリアス様の頬に触れた! なんという柔肌!!」


 触れた指を夜空に突き上げながらごろごろと転がりまくる――が、ふとあることに気がつきぴたりと動きを止める。


「もしかして、ガブリアス様は安心しきっていらっしゃるのか? 触った程度では起きないのか?」


 パルアの脳内では様々な可能性が浮かび、いくつかが否定され、そしてひとつの結論へと収束されていく。


「つまり――く、く、唇で触れても……起きないっ!!」


 パルアはこれでもかというくらいにカっと目を見開く。導き出された結論を受け入れ、ガバッと立ち上がり、夜空に拳を突き上げる。


「これは千年に一度の好機! ここを逃したらわたしは後悔で死ぬというものだ! ならばっ! やるしか! あるまい!」


 パルアは暗殺者のように気配を消し、音ひとつなく寝ているガブリアスに近づく。そして、ガブリアスのとなりに体を横たえた。

 全身に血を巡らせる心臓はかつてなく早く、熱く鼓動する。間近で見るガブリアスの寝顔は、寝顔とは思えないほどに端正であり、美しく、そしてパルアが戦慄するほどに魅力的だった。


「ガブリアス様……あぁ……今宵のパルアの罪をお許しください……いや、お許しにならずとも……どのような折檻もお受けします……」


 パルアの唇がガブリアスの唇に近づいた。

 その瞬間――。


「むっ!?」

「ひゃわっ!?」


 ガブリアスが目を見開いた。

 パルアは思わず飛び上がってビシッと起立する。


「なんだパルア、おまえも横になっていたのか。近くにいたようだが寒かったのか?」

「い、いえ、そのようなことは――大丈夫です」

「そうか」

「あの、なにか……」


 もしかして気づかれてしまったか。パルアはハラハラしていた。だがなにか咎められて折檻してもらえないものかとドキドキもしていた。


「音が聞こえた。なにかが砕けるような、掘られているような音が地面から聞こえた」

「地面から、ですか?」


 ガブリアスの真剣な表情と声に、パルアも冷静さを取り戻す。


「もしかしたら、あいつが地下を移動しているのかもしれない」

「なるほど……地中から現れたようですから、その可能性はあると思います」

「あいつ、崖下へ行くと思うか?」

「この崖下になにか秘密があるように思えます」

「そうだな。そう考えるのが正しい。ならば、この音を辿れば……あやつの行き先も、崖下へ降りる道もわかるかもしれない。パルア、地面に耳をつけて音を聞くのだ」

「わかりました」


 言われた通り、パルアも耳を地面に押し当てる。

 すると、たしかにガブリアスが言っていたように、ごごごごっという鈍い音が遠くから響いてくる。


「この音の発生源は……向こうだな」

「北側ですか。しかし音はかなり遠いようです」

「方向は把握した。が、出立はもう少ししてからだ」

「なぜですか?」

「おまえが休んでいない。俺が見張る、少し寝るといい」

「っ!? そ、そのような気遣いなど!」

「おまえの力と活躍が不可欠だ。休み、万全にせよ」

「……わ、わかりました。しかし……」


 パルアはふと気恥ずかしくなり、もじもじとしてしまった。


「うん? どうした?」

「その……人前で……ガブリアス様の前で寝るというのはいささか恥ずかしいものがありまして……」


 すると、ガブリアスは笑う。


「そうか。それは配慮が足りなかったな。しかし、俺は野蛮な男ではない。おまえの寝姿を見てどうこうなるようなことはない」


 ぐしゃりと、パルアの中でもしかしたらという期待が粉砕した。


「そんな!」


 思わず本音が口をつく。しまったと思い、次の言葉を足す。


「そんなことは考えてもおりませんでした」

「そうか。俺も信頼されたものだな。ありがたく思うぞパルア」


 ガブリアスに感謝されたことへの単純なうれしさと、寝ていても手を出してくれないとわかったことへの落胆が入り交じり、パルアの胸中は混沌を極めた。


「さぁ、眠らずとも横になって体を休めろ。おまえはいつも気を張っているからな」

「そのようなことは……」

「いや、おまえの働きにはいつも感謝している。こうしてふたりになってもやつを追える決断ができるのは、おまえだからだ」

「っ!!」


 ガブリアスの言葉に、パルアの感激が絶頂する。


「横になれ。時間を無駄にするな」

「ありがとう……ございます」


 パルアが横になると、ガブリアスがマントを脱ぐ。


「寒がっているようだったからな」

「ガ、ガブリアス様っ!?」


 ガブリアスは自身のマントを寝転んだパルアにかける。

 ガブリアスの香りに包まれたパルアは心の奥と体の奥から強烈な熱が巻き起こった。


「ゆっくり休め。部下をいたわるのも、俺の務めだ」


 ガブリアスが優しく笑んでそう言った時、パルアは涙が溢れそうになった。思わず、寝返りを打ってガブリアスに背を向ける。


「このパルア、今夜のことは生涯忘れません」

「あぁ、静かで闇深い、いい夜だな。こんな夜は、俺も久しい」


 いつか、いつか必ずガブリアス様に抱きつき、思いのままに欲望をぶつける! その日まではなにがあっても付き従う――パルアはそう堅く誓い、眠れそうにないと思いつつ、まぶたをきつく閉じた。せめて体を休め、ガブリアス様のお役に立とう……パルアのその決意はこの世のなによりも固いものだった。


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