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星と召喚と女神の聖剣士  作者: 桐生スケキヨとYOM
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第021話「湯浴みと禁断の魔法」

【〇二一 継承魔法目録】

■セルフィリア教会が管理する、後世に継承すべき魔法の一覧のこと。

新しい魔法の発見や古文書からの復元などがある場合を除き、十年周期で更新されることになっている。

生活に使える基礎的なものから戦闘用までを網羅しているため、膨大な文字数になる。

事故を起こしたり、使用者や周囲への危険度の高いもの、あるいは道義的に忌避すべきものは削除され、規律を持って定められる。

中にはひっそり個人継承されている魔法もあるとか。

【〇二一 湯浴みと禁断の魔法】


 エリシアとルーミアは教会の修道女から風呂の用意ができていると言われ、入りに来ていた。エリシアは別々に入るつもりでいたのだが、ルーミアに一緒に入ろうと言われ、修道女にも大浴場だから大丈夫ですと言われてしまい、一緒に入ることになっていた。

 通された浴場は屋外にあり、囲いで覆われてランタンもある、雰囲気のよい浴場だった。エリシアは髪を洗うと、湯船に浸かる。温かいお湯がたっぷりとあり、それに包まれるとここまでの疲れが吸い出されるようだった。


「はぁ~っ、作戦中にこんなにくつろげるなんて……堕落しそう」


 湯船の中で体を伸ばしながら、エリシアは気の抜けた声を出す。

 お湯に浸かるエリシアは体を伸ばす。戦いの日々に身を置くエリシアではあったが、肌に傷跡などはない。訓練の時に細かい傷を負うことはあったが、よい塗り薬があるので、そのおかげもあり残る傷はなかった。

 できればこのまま綺麗な状態を保ちたいとは思うものの、この先どれだけそれが維持できるのだろうか、そんなことを、湯船の中からあげた腕を見ながら思う。

 そんなことを思っていると、髪を洗い終えたルーミアが湯船にやってくる。そのまま浸かるのかと思われたが、エリシアを見下ろすように立っていた。


「中尉?」

「…………」


 ルーミアはジッとエリシアの――体を見ていた。


「な、なにか……?」


 ルーミアの視線はエリシアの胸に注がれている。


「エリシアはいつもそのすごい体でユーリを誘ってるの?」

「なっ――」


 エリシアは慌てて胸元を隠す。するとルーミアは湯船に浸かり、エリシアの正面に来る。


「どうなの?」

「どうって……そ、それは秘密です」


 ぷいっと顔を背けるエリシアに、ルーミアは顔を近づける。


「答えなさい。教会士官命令です」

「こんな時にそれを使うなんて……もう」

「どうなの?」

「それは……あまり体を使ったことはないけど……あっても、なんか空振りです」

「この前の夜も、エリシアがすごい迫っていたのにね」

「そのことは……はぁ」


 エリシアは思わずため息をつく。


「エリシア?」

「ユーリって、結構理性が強いんです。昔から、精神修行もやっていたせいなのかなって」

「昔……。エリシアとユーリって、同じ故郷の出身らしいけど、一緒に育ったの?」

「そうですね。同じ、アシダナ村で育ちました」

「ここから遠いの?」

「アシダナ村は、フォルダナ山の麓にある村です。小さい村で……マテバ湖の近くの」


 マテバ湖と聞いた瞬間、無表情のルーミアの眉が動いた。

 マテバ湖、それはエネスギア人なら誰もが知る、有名な場所だった。


「もしかして……アシダナ村って、マテバ湖の……大魔法湖の……?」

「……そうです」


 エリシアが顔を伏せ気味にそう応えると、エリシアはハッと口に手を当てた。


「ごめんなさい。不用意に聞いてしまって」

「いえ。わたしはもう……気持ちの整理はついていますから。やはり、知っていますか?」

「うん。エネスギア人社会に反乱を起こした人たちを大魔法で粛正した事件……マテバ湖と、魔法でえぐれた爆心地がつながって湖がもうひとつできたって言う話……」

「その反乱を起こした人の中に、わたしの両親と……ユーリの両親もいました。わたしにはお爺ちゃんとお婆ちゃんが残ったけど……ユーリは一度に両親を亡くしてしまって」

「そうだったのね。それで兵役に?」

「わたしもユーリも志願兵です。村は……さみしい村だったから、再教育する価値もないと言われて、放置されて……。教会が派遣してくれるはずの医者とか、そういう支援は打ち切られたんですけど、それでも村ではなんとかみんなが生活していて、わたしとユーリが村には数少ない若い人で……なんとかしよう、ってふたりで相談して、軍に」

「軍で功績を挙げれば待遇がよくなる。それで村の待遇も改善させよう、って?」

「……そんな感じです」


 エリシアは目を背けた。ルーミアはエリシアの言葉には、なにか含みがあることを察したが、言及はしなかった。


「そうだったのね。ごめんなさい、つらいことを聞いてしまって」

「いえ。――だから、ユーリとは小さい頃からの付き合いです。わたしのお爺ちゃんはアシダナの村長だったから、ユーリの面倒も見てあげて、ふたりで家族のように育ってきたんです。その頃からの縁が、今も続いているんです」

「なるほど……」


 ルーミアは目を閉じる。そして数回頷いた。


「慣れね」

「え?」

「ユーリはエリシアのそのすごい体を見慣れちゃってて、誘惑されないのかも」

「えぇっ……そ、それはそれで……困るというか……。でも、わたしも昔からこんなんだったわけじゃなくて、ここ数年で一気にだし……見慣れるほど見せてもいないと思うし……」

「エリシアは小さい頃からユーリが好きなの?」

「そ、それは……」

「答えなさい」


 ルーミアが再度顔を近づける。

 エネスギア人の血が流れているからというわけではなく、ルーミアには謎の迫力のようなものがあった。


「好き……です。小さい頃からずっと……。いつか大人になったら一緒になって、本当の家族になるんだって、疑いなく思っていました」

「おぉ~」


 ルーミアは関心した様子だった。


「思いは伝えたの?」

「い、一応は……」

「どうだったどうだった?」


 迫るルーミアの瞳は好奇心に燃え上がっているように見える。


「ユーリの答えは、聞かなかったの」

「……どうして?」

「ユーリは優しいから……わたしをがっかりさせるようなことは言わない。わたしも、それがわかっていて伝えたってところもあって……ユーリはわたしを信頼してくれているし、大事にもしてくれてるのも知ってるし、わたしはちょっと、そんなユーリに甘えすぎてる」

「なるほど……」


 そう言うと、ルーミアはエリシアから少し離れ、肩までお湯に浸かる。


「どのくらい好きか、なんとなくわかった」

「そ、そうかな?」

「うん」

「そうなんだけど……でも、やっぱり実感が欲しいっていうか……なんていうか」

「やりたいのね?」

「ちょ――」


 ルーミアの率直すぎる言葉に、エリシアは返答に困った。しかし、こちらを見る青聖石の瞳を前にすると、うまく本心が隠せない。ルーミアの瞳には駆け引きなどを感じさせない。ルーミアも本心であり、対峙するこちらも本心を引き出させる力がある。


「う、うん……ユーリに、ぎゅってされたい……たくさん……」

「……わぉ」

「ちょ、なんですかその反応はっ」

「ごめんなさい。エリシアからそう聞くと、すごく実感があるというか、現実的だなって。わたしが思う気持ちとは歴史も重みも違う」

「中尉はどんな気持ちなんですか?」

「性行為をしてみたい」

「…………」


 あまりにも簡潔かつ明瞭な言葉に、エリシアは言葉を失った。


「もう一回言う?」

「だ、大丈夫です。理解しました」

「わかってくれた?」

「……たぶん」

「すごく気持ちいいって聞くから、死ぬ前に一回くらいは経験してみたい。でも、どうせならいい経験がしたいから、相手はユーリがいいなって思った」

「どうしてです?」

「わたしを助けてくれたし……混血ってわかっても態度を変えなかった。この人は優しいから、きっと優しくしてくれるって思ったから。エリシアも言うように、優しさがいいと思った」

「な、なるほど……」

「恋敵になっちゃう?」

「失礼ですが……中尉の思っている気持ちは、わたしの思っている気持ちと少し違うような気がするので、恋敵とはちょっと違うかな、って」

「そう……ね」


 ルーミアはふむふむと頷く。


「でも、エリシアの体で誘惑しても動じないなら、わたしごときでは到底……」


 そう言いながらルーミアはお湯に浸かる自分の体を見る。

 エリシアから見たルーミアの体は、普段は法衣で隠れてしまっているが、しっかりとした凹凸がある。十分という表現では足りないほどに魅力的で綺麗な体をしているとエリシアは思った。


「中尉も魅力的です」

「そうかな?」

「そうです」

「じゃあどうしてユーリは襲ってこないんだろう? エリシアにだって」

「それは……ユーリは理性が強いということもあるのだけど、もうひとつ、気にしていることがあって」

「なになに?」


 ルーミアがまた顔を近づける。


「それはなに?」

「ユーリは……わたしもあるのだけど、わたし以上に強く成し遂げたいことがあって……それを叶える前に、子どもができちゃうことを避けているんです」

「……なるほど」


 ユーリの成し遂げたいこと、そのことをエリシアから聞くことは無粋と思ったのか、ルーミアはそこには言及しなかった。


「なるほど、ユーリはそれで遠慮しているのね」

「わたしのお爺ちゃんからユーリは剣を習ったのだけど、その時に、成し遂げたいことがあるなら、その前に責任を持つようなことは控えるのだとかなんとか言われたらしくて。わたしに子どもができちゃったら、わたしも戦えなくなるし、それでユーリは気にしてくれているんだって」

「優しさがあるから、その優しさのせいで甘えさせてくれないってことなのね」

「そうです。……たぶん。でも、ちょっとなら……一回二回くらいなら大丈夫かな……って自分は思っていたり、いなかったり」

「エリシアも、してみたいのね」

「……そうですね。中尉と、同じです」


 エリシアは自分の感情にも呆れ気味になり、笑みを浮かべた。すると、それにつられてか、ルーミアも笑みを浮かべた。それは今までに見たことのない表情だった。


「ちゅ、中尉?」

「こんなに自分の気持ちを話したのははじめてかもしれない。エリシアとは、仲良くできるかも」

「そう……なんですか?」

「うん。エリシアは、やっぱりわたしは嫌い?」

「嫌いとか好きとかではないような」

「わたしも、ユーリがいいって思ってるんだよ?」

「だからそれは、わたしとは違う感情なんだって」

「それなら、仲良くできそう」

「そう……かもしれませんね」


 エリシアが再度笑顔を見せると、ルーミアはなにかに気がついたように目を見開く。


「そうだ」

「な、なんですか?」

「中尉じゃなくて、ルーミアって呼んで欲しい。リファリーバ家は幼名を使うから、教会ではルーミアと呼ばれたことはなかったの。信頼の意味をこめて、ルーミアって呼んで欲しい」

「わ、わかりました……ルーミア」

「うん。それそれ」


 ルーミアは満足気に頷く。

 やはり変わった人だ、エリシアはそう思った。


◇ ◇ ◇


 風呂から上がり、脱衣場で着替えを済ませ、髪を拭いている時だった。


「失礼します」


 ティアルが脱衣場に現れる。


「お湯のほどこし、ありがとうございました」


 エリシアが感謝を述べるとティアルは微笑む。


「エリシアとよい話もできました」

「それはなによりです」


 ルーミアの報告にティアルは頷くと、すっと体を正面に向ける。


「あの――おふたりにお伝えしたいことがあるのです」


 エリシアとルーミアは思わず顔を見合わせた。なにか、チェロリダ村に関することなのかと、一瞬の緊張が走った。


「それは……なんでしょう?」


 エリシアが問うと、ティアルは胸の前で手を組み合わせる。


「これは……おふたりに託す、わたしの願いでもあり……教会騎士様には申し訳ないのですが、深く深く禁じられた、禁断の魔法でもあります」


 ルーミアは無表情だったが、緊張感が募ったことはとなりにいたエリシアにも感じられた。


「司祭様、それはいったい?」


 ルーミアが問うと、ティアルは頷いて、一度なにかを確認するようにエリシアを見た。


「エリシア隊長は、魔法は使えますね?」

「は、はい、それほど強力なものは使えませんが」

「エリシア、魔法使えたの?」


 ルーミアは少し驚いたようだった。


「一応、戦いで使える程度には。森でルーミアが使ったようにはいかないけど、戦いの牽制程度には使えるわ」

「そうだったんだ。すごいね」

「それで十分です」

「司祭様、深く禁じられた魔法の継承となれば……それはここでは少々場が悪いのでは?」


 ルーミアがそう言うと、ティアルはふふっと笑った。


「司祭様?」

「いえ、わたしが教えるのは戦闘用の魔法ではありません」

「では……どのような?」


 ルーミアがたずねると、ティアルはふっと口元を抑え、笑みを消す。

 そして神妙な顔になり、ささやくように言う。


「避妊の魔法です」

「え――」


 エリシアとルーミアの声が重なる。


「司祭様?」

「今なんと……?」


 二人が同時に言うと、ティアルは頷く。


「教会が禁止し、継承魔法目録から削除されていますが、今でも一部地域の女性の間で密かに継承されているのです」

「そ、そんな魔法が……」


 エリシアは思わず赤くなる。その魔法があれば、ユーリと、一瞬でそう考えてしまう自分を恥じるも、頭はそのことでいっぱいになった。

 それに比べると、ルーミアはまだわずかに冷静さを残している。


「司祭様、その魔法をどうしてわたしたちに教えてくださるのでしょう?」

「欲望のままに振る舞えとは言いません。むしろ欲望は制御するべきです。しかし、人の温もりを知ることでわかる愛情も、優しさも、勇気もあることでしょう。抑制するだけでは知り得ない、かけがえのないものもあります。それはおそらく、あなた方の長い旅路には必要だと思いました」


 ティアルの言葉に深い思いを感じ、エリシアは自分を戒める。欲望にまみれていてはいけないと。


「お教えします。禁断の魔法と言っても、難しいことはありません。簡単なもので、魔力の負担もほとんどありません。どうか、ここで覚えて行ってください」

「よかったねエリシア」

「わ、わたしに振らないでも」

「ふふふ――。自分を大事に扱ってくれる人は、それと同じくらい大事にしてくださいね」

「は、はいっ」


 即答したものの、ティアルは自分の気持ちを見透かしているような、そんな気がした。

 そして、エリシアとルーミアはティアルから避妊の魔法を教えてもらった。特に、エリシアはかつてなく真剣に聞き、覚えた。


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