第001話「荒野の星ふたつ」
【〇〇一 ウィスパニア地方】
■セルフィリア教会より天司の称号を持つセルフィリア四大領主クラッド家の治める土地の北部地方。
ゾディアス帝国の共和国侵攻において、最前線となっていることから、数百年に渡り戦乱の地となっている。
寒冷地であるため食糧自給率が低く、食糧は他の領地からの輸入に頼るところが大きいものの、農地や作物の改良も行われつつある。
兵の人的消耗も激しく、ウィスパニア地方の各地からの徴用も行われている。
【〇〇一 荒野の星ふたつ】
その剣技は今は失われたとされている、煌めく星が如く剣技――。
死屍累々たる荒れた戦場に、星が如く煌めく光がある。
「これで最後かっ!」
ユーリの左手に握られた剣が兵の鎧を切り裂き、そのまま胸板を深く貫く。剣からこぼれ落ちる光はユーリの持つ命の力、魔力の光だ。
ユーリは兵から剣を引き抜くと、事切れた体を蹴り飛ばした。
「はぁ……はぁ……全部……やったか……くそっ」
左右の手に握っていた剣をそれぞれ地面に突き立て、返り血のかかっていない肘あたりを使い額の汗を拭った。右手に持っていた支給品の剣は刃もこぼれ、切っ先はかけて曲がりつつあった。
周囲を見回す。
「ひどい光景だな……」
思わずそうつぶやく。
周囲には帝国兵――ユボリ族の兵の亡骸が延々と横たわっている。数にして二〇〇体近くある。
灰褐色の肌を持つユボリ族はユーリたち人間より小柄であるが、両手が地面に届くくらいまで長い。この長い両手に槍を持っているため、集団で正面から相手にするとなかなかにやっかいな相手となる。
ユーリたちは本隊を逃がすために残り、このユボリ族の追撃を防ぐ任務に当たっていた。
「しんがりなんかやらせやがって。俺たち以外全滅してるじゃないか」
周囲を見回すと、立っているのはユーリと、もうひとり。
立つ荒野に吹いていた強めの風が止まり、なびいていた二つ縛りの長い髪がふわりと落ちる。
それと同時に――パァーンという乾いた銃声が響く。
「お?」
軽鎧を着ているユボリ族が銃弾を受け、どさりと倒れる。
撃ったのは自分と同じ、青と白を基調にした制服に身を包む、紅玉石と見まごう瞳を持つ少女――エリシアだった。
「お見事、エリシア、そいつが最後だ」
「なにがお見事、よ。って、これで最後?」
エリシアは撃鉄を引き、弾丸を発し終えた薬莢を排出してユーリを見た。
体をユーリへと向けると、制服では抑えきれない胸が揺れる。エリシアと長くいて、それは見慣れた光景だ。
「まわりを見てみろよ。俺たち以外誰も残ってないぞ」
「……本当だ」
エリシアは銃に安全装置をかけ、背負い紐を肩にかけた。そしてユーリのように地面に突き刺していた長剣を抜き、鞘におさめる。
ユーリも剣を鞘におさめながらエリシアに近づく。
「本隊はもう安全圏まで下がってるだろ」
「追撃部隊はもうないのかしら?」
エリシアは長い髪を揺らして背後を確認するが、友軍の姿はどこにもない。部隊の存在を示す軍旗さえも見当たらない。
「西バレモ平原まで退いたのかしら?」
脚を覗かせるスカートの後ろには、ユーリと自分がお互いの認識をしやすいようにとつけた、リボンのような識別布がなびいている。
識別布は本来ユーリのように腕につけるものなのだが、エリシアは腰につけていた。
「橋も渡っているかもしれない。これ以上の増援はないだろうし、いてもそこまでは追ってこないだろうさ。ほとんどふたりでやったな」
「うん。怪我とかなかった? 平気?」
「見ての通り」
ユーリが両手を広げて無事をアピールすると、エリシアはふふっと笑った――が、すぐになにかに気付きハッと目を丸くする。
「無事じゃないじゃない」
「え?」
「ほら、左肩。切れて出血してる」
「あぁ、これくらい平気だ」
「ダメでしょ。よくない風土病も出回ったじゃない」
「あれはひどかったらしいな」
「ジッとして」
エリシアはユーリに駆け寄り、腰裏の雑嚢から消毒液を取り出し、ユーリの傷口に振りかける。エリシアの制服は激しく動く戦場には相応しくないような短いスカートになっており、その端からは下着の紐が垂れているのが見える。ユーリは一度それとなく、それはどうなのかと注意したことがあったが、これはどうやらエリシアの美意識によるこだわりで、スカート丈も自分で調整しているとのことだった。
「ぐぇっ、染みる……!」
「傷ついた時よりは痛くないでしょ」
「こっちの方が痛い!」
「放っておいたらひどいことになるかもよ」
消毒を終えたエリシアは清潔な包帯をくるくると巻く。慣れた手つきだった。
「隊長自らありがとう」
「もう、こういう時だけ隊長呼び?」
「普段そう呼んだら嫌がるだろう?」
「こういう時でもあまりいい気分じゃないけど……立場があるからちゃんとしておかないとね、戻ったら特に」
「わかってる」
包帯を結んでいる間、ユーリは腰の水筒を取ろうと思った。しかし、右手では水筒のある腰裏まで手が届かない。
「エリシア」
「えっ、な、なにっ!?」
ユーリはエリシアに不意に顔を近づけた。エリシアはそれに驚き、一瞬目を閉じる。
「ユーリなに!?」
ユーリの胸が自分の胸を一瞬圧迫する。その奥の心臓まで圧迫されたようだった。
「これを――」
「え?」
ユーリが顔をはなすと、右手にはエリシアの水筒が持たれていた。
「あ、わたしの水筒」
「さすがエリシア、まだほとんど残ってる。ひと口もらうよ」
「まだ帰り道もあるんだから節約よ」
「あぁ」
そう言い、ユーリは軽くひと口水をもらう。水が喉を通ると、改めて自分の乾きに気づかされた。からからだった。
「エリシアも飲んでおいた方がいい」
「わたしは平気」
「思ったより乾いてるぞ。倒れる前に飲んでおけよ」
「う、うん。じゃあ――んんっ」
ユーリは水筒をエリシアの口に押し当てる。
「んんっ、んくっ! んんっ!」
「もういいのか?」
「ぷあっ、十分よっ。貴重なんだからそんなにいらないって」
「そうか。じゃあ水筒は返す」
ユーリは水筒をエリシアの腰裏に戻す。
「変なところは大胆なんだから」
「ん? なんだって?」
「なんでも。包帯は巻いておいたわ」
「ありがとうな」
「もう、こんなところエネスギア人に見られたらなんて言われるか」
「部下との交流だよ」
「知ってるでしょ、部下と必要以上に親しくしちゃいけないの」
「そうだったな、ははは」
「はぁ……それにしても、今回もひどかったわね」
「あぁ、これでも我が軍は圧倒的優勢に勝利した、って喧伝されるんだろうけどな」
ユーリたちはセルフィリア共和国クラッド領ウィスパニア方面軍の兵士だ。セルフィリア中央教会より代々天司の称号と位を与えられたクラッド家が治める、セルフィリア共和国北部の地方になる。ここは古くよりゾディアス帝国と隣接する、戦闘の絶えない激戦地でもある。
「本当の敵って、何なんだろうな」
「え? どうしたの急に」
「領内に入ってひどいことやってる帝国はたしかに悪いけど……ウィスパニアのエネスギア人たちだって、戦争のために戦争しているようになってるじゃないか。今回の作戦だって、無駄に砦に突撃して追い返されて敗走してる」
「……そうね。戦争のための戦争って言われれば、そうかも。でも、それも何百年って続いていて……もう誰も、なんで戦争がはじまったのかなんて、覚えていないんじゃないのかな」
「ひどい話だな」
「本当、ひどい話ね」
ユーリとエリシア。ふたりは同郷の幼なじみだった。ふたりは徴用され、セルフィリア共和国のために戦う軍に入ることとなっていた。軍の総司令官はセルフィリア教会の教皇にあるが、共和国を構成する四大天司家がそれぞれの地方軍を総括している。
「だとしても、生き残り続けるしかない」
「うん」
「いつか何かの機会を掴んで……俺たち人間はエネスギア人の支配から抜ける、その時までな」
「うん……そうだね」
あとは基地へと帰るだけだった。
しかし基地に戻ったところで、人間のユーリたちに穏やかな安息はない。
待っているのは、エネスギア人による支配――苛烈な差別社会だった。
桐生スケキヨです。
「星と召喚と女神の聖剣士」の連載がはじまりました。
なんでも原案はYOMさんが小学生の頃から考えていた作品だそうで、歴史の重みを感じています。
王道直球の作品を目指しつつ、いろいろな魅力を詰めていけたらなと思っていますので、よろしくお願いします!
YOMです。
桐生スケキヨ渾身の新作始動!!
色々設定を考えたり楽しく連載してもらえればと思いますので、読者の皆さんも楽しんで読んで頂ければ嬉しいです。
この世界で少年少女は何を見るのか!?
戦いは今日この時、読者の皆さんと出会った瞬間から始まる!!




