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星と召喚と女神の聖剣士  作者: 桐生スケキヨとYOM
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第015話「星明かりの遭遇戦」

【〇一五 エムール大森林】

■バレモ平原に接する広大な面積を持つ大森林。

背の高い木が原生しており、貴重な森林資源を得られる場所となってきた。

チェロリダ村からの道がひとつあるだけで、他の部分はほとんど人の手が入っていない。

長年それで不便を感じることはなかったのだが、大森林の開拓が進まなかったことには理由があるようだ。

【〇一五 星明かりの遭遇戦】


 ユーリたちがアルファス開拓地を出たのは日の出前、まだ暗いうちだった。開拓地の人たちは監視塔に動きを悟られぬよう、見送りはしないことになっていた。

 星明かりの中、エリシアを先頭にバレモ平原を進む。

 平原とは言え、人が簡単に隠れられそうな茂みが点在しているため、そこで敵が待ち伏せていることも考えられる。なので、エリシアは注意深く進む。


「ルーミア中尉」


 ふと先頭のエリシアが足を止める。


「なに?」

「もらった行動食は時々食べるように。長い時間重い荷物を持って歩くから、栄養をとらないとバテちゃうから」

「わかった。この木の実と……お魚ね」

「うん。魚はともかく、木の実はこまめに食べておくと、疲れなくなるからね」

「うん。そうする」


 ルーミアに大事なことを伝えると、エリシアは再び歩きはじめる。

 暗闇の中にかすかに見えるエリシアとルーミアの背中を見たあと、ユーリは周囲を見渡す。異常なところもなく、なにかが潜む気配も感じられない。

 しかし油断は禁物だった。先に出たアルシェ隊も消息を絶っている。自分たちより遙かに人数の多い部隊だったのに、ひとりとして戻ってきていない。

 ジェニオス監視塔に新しく派遣された人物というのも気になる――そんなことを考えていた時だった。


「とまって」


 小声ではあるが、エリシアの声が聞こえた。

 ユーリは咄嗟に姿勢を低くする。ルーミアも反応は遅れたが姿勢を低くし、近くの茂みに移動した。エネスギア人はあまり身を隠すことはしないものだが、ルーミアは違っており、行軍の基礎をしっかりと守っていた。

 ユーリは姿勢を低くしたままエリシアのところまで行く。エリシアはまだ暗い中、遠くの一点を見つめていた。


「なにか見つけたのか?」

「動く灯りが見えたの」

「数は?」

「三つ。間隔があった」

「もうすぐ森の入り口だぞ」

「森に入って行ったのかもしれない」


 そんな会話をしていると、後ろからルーミアも這いながらやってきた。


「敵がいたの?」

「まだわからないけど……おそらく」


 エリシアが応じると、ルーミアも目をこらしている様子だった。

 すると、ユーリたちにも灯りの揺らぎが見えた。


「いるな」

「あれは敵なの?」

「ユボリ族はたいまつを使うんです。俺たちの使うランタンの灯りはあんなに揺れないので、ユボリ族のものと見て間違いない」


 エリシアはランタンの灯りを消す。


「こっちに気づいてる?」

「たぶん、わたしたちのことには気づいていない」

「やりすごすか?」

「まっすぐこっちに来てる……今大きく動いたら見つかる」


 エリシアのその判断を聞いたユーリは背中の荷物を降ろした。


「仕掛けるの?」


 ルーミアが問う中、エリシアも背中の荷物を降ろす。


「迎撃します……と、判断は教会騎士様が」

「現場判断はあなたの方が経験がある。わたしの判断なんてあてにならないわ」

「では……」

「迎撃を許可します」


 ルーミアも背中の荷物を降ろす。そして魔導杖のランタンのような部分を数回つついた。それがなんの動作なのか、ユーリにもエリシアにもわからなかった。


「正面から行くのか?」

「東へ移動しましょう。あそこの開けた場所に来た時、あそこの茂みから側面に強襲できるわ」


 星明かり程度の中、エリシアは指を指して場所を指定する。ユーリが場所を理解するのはそれで十分だった。


「わかった。それでいこう」

「わたしは?」

「ルーミア中尉は……わたしたちについてきて茂みで隠れていて」

「魔法が使える」

「はじめてでしょう?」


 エリシアの手が、魔導杖を握っていたルーミアの手に触れる。そのルーミアの手にはこれ以上ないというくらいの力が入っていた。


「はじめては見ているだけで大丈夫です。まずは実戦の空気を感じて」

「訓練はしています」

「それはわかる。けど、訓練の時の三割も上手くできないのが実戦の、はじめての戦闘です。そこで終えてしまう人も、多い」

「大丈夫、俺とエリシアでやれます」

「……わかった」


 ルーミアは自身の緊張を理解し、ふたりの進言を受け入れた。死を覚悟はしているものの、無謀な行動をしてふたりの迷惑になるのは避けたかった。


「今よ」


 エリシアの合図で三人は茂みを移動した。

 ルーミアはわずかに遅れたが、それでも敵に見つかるようなことはなかった。

 まだ明け切らない空の闇が味方してくれている。

 揺らぐ灯りが近づく。


「ユボリ族よ。長槍が三、弓が二」

「長槍は俺がやる。後ろの弓はエリシアに任せる」

「わかったわ」

「時間差で仕掛けた方がいい」

「先手は後ろ側面からわたしが弓をやるわ。囲んで来るだろうから、ユーリはそれを外から狩りとって」

「わかった」


 頷いたユーリは、服が引っ張られていることに気づいた。


「ルーミア中尉?」

「五匹も相手にふたりで大丈夫なの?」


 実戦の恐怖から来る質問かと思ったが、ルーミアの表情には緊張はあるが恐怖はないようだった。ただの疑問を口にしただけに思えた。


「大丈夫です。まぁ……見ていてください」

「来た。行くわ」

「あぁ、しっかり」


 エリシアは銃を置き、細身の剣を抜く。そして茂みからかすかに身を出した。次の瞬間、ルーミアが見たのは弾けるように翔んだエリシアの姿だった。


「え――」


 ルーミアがそう言葉を漏らす頃、弓を持ったユボリ族の一匹に突進したエリシアは狙った相手の喉深くに細剣を突き刺していた。突きを受けた一匹はなにが起こったを理解する間もなく息絶える。

 あまりの早さに、ユボリ族の集団は襲撃されたことにも気づかない。

 エリシアは突き刺した剣を抜くと、となりにいたユボリ族の両手を切り飛ばした。その時になり、先に喉を刺したユボリ族がどさりと倒れ、周囲のものたちも異常に気がついた。

 しかしその時はもう、両手を切り飛ばされたユボリ族の喉にも細剣が深く突き刺さっていた。


「ギギギ!」


 ユボリ族が独特の声をあげる。


「行ってくる」

「あなたたちもしかして――」


 ルーミアがなにかを言いかけた時はもう、ユーリの体はそこにはなかった。残っていたのは、かすかな煌めき。その煌めきを見たルーミアは夜空に見た星を思い出した。


「星の煌めきのような……あなたたち……まさか……」


 ルーミアの目でユーリの飛び込みは追えなかった。突進したユーリは左右の剣を振るい、ユボリ族二匹の首を同時に切り飛ばしていた。

 そして返す左の剣で、最後に残っていた一匹の胴体をなぎ払う。鋼鉄の剣が、ユボリ族の鎧ごと断ち切る。

 ユボリ族五匹は、こうして一瞬で倒された。


「周囲に敵影なし」

「確認した。たいまつを始末しておく」


 ユーリはユボリ族が槍にくくりつけていたたいまつを取り外す。そして倒れたユボリ族の装備から水筒を取ると、一カ所にまとめたたいまつに中身の水をかけて火を消した。

 火が消えるのを確認すると、ふたりはルーミアの潜む茂みへと戻ってきた。


「終わりましたよ」

「あなたたち『剣技』を使うの?」


 戻ってきたふたりにルーミアは開口一番そう言った。


「まさか。わたしは違うけど」

「俺だって」

「嘘。ユーリが飛び出していった時、煌めきが残った。星の、煌めきのような。あなたたち、魔力を使ってる。それは『剣技』ではないの? 神話の中で女神に仕えた勇者たちが使ったとされる技、そうなんでしょう?」


 ずいっとルーミアはユーリに顔を近づけた。星明かりのせいか、ルーミアの瞳が輝いているように見えた。


「これは『剣技』ではなくて……普通の技です」


 ユーリがそう応えると、ルーミアは顔を近づけたまま首を振る。


「そんなことない。あなたたちが圧倒的不利な状況でも生き残ってきた理由がわかった。あなたたちは『剣技』を使うからだ。わたし、知ってる、勇者、聖剣士の使った『剣技』は女神様の召喚魔法に並ぶ力があるって。あなたたち、勇者なの? 聖剣士なの?」

「そんなわけは……」


 かつてない興奮を見せるルーミアにユーリがたじろいでいると、エリシアは落ち着いて置いていた銃を拾った。


「ふふふ、そんなたいそうな存在だったらよかったのだけど……ルーミア中尉、わたしもユーリも普通の人間。これは『剣技』ではなくて、村に伝わる剣術です」

「そうとは思えない実力だけど」


 ルーミアはエリシアの説明には納得していない様子だった。


「今後も興味深く観察させてもらう」

「あの、でもこのことはできれば……」


 ユーリの申し出に対し、察したルーミアはすぐに頷いた。


「うん。教会には報告しない。教会に知られたら、あなたたちは隔離されてしまいそうだもの」

「ありがとうございます」


 お礼を言ったユーリはほっと胸をなで下ろした。エリシアも安堵しているようだった。


「さて、前進しましょう。荷物を回収して、進みます」

「敵と遭遇したのだけど、ルートは変更しないの?」

「間もなく森に入ります。そうすれば、隠れる場所には困らないので、大丈夫です」

「わかった」


 三人は再びエリシアを先頭に歩きはじめた。

 空がかすかに明るさを纏いはじめる頃、三人の前には広い森、エムール大森林が見えている。


「そう言えば、ルーミア中尉」


 ユーリが声をかけると、ルーミアは行動食の木の実を食べているところだった。


「なに?」

「実戦を目の当たりにして、大丈夫でしたか?」

「大丈夫もなにも……よくわからないうちにあなたたちが終わらせていたわ」

「そ、それはそうだけど……」

「ユボリ族五匹をあっという間に殺したのだけど、その判断にはわたしも賛同してる。これは教会の教えに反するものでもないし、罪悪はないよ。でも、達成感があるわけでもない。いたって、普通」

「そ、それなら……大丈夫か」


 そんな問答をしていたユーリとルーミアに気づき、エリシアが歩みを緩め、ルーミアに近づく。


「わたしもユーリも、はじめて剣術を使って命のやり取りをした時は迷いがあったから。それでユーリは気になったんだと思う」

「それなら心配はいらない。わたしはそんなに繊細ではないと思う」


 ルーミアの様子は完全に落ち着いて見える。初の戦闘を経ての動揺は見られなかった。


「なにかあったら言ってください」

「うん、その時は言う」


 ユーリは再びルーミアから数歩離れる。

 先頭のエリシアは森に入った。

 エムール大森林はかなりの規模を持つ大森林であり、木材や狩猟、採集などで食料や資源を得る場所でもあった。ゾディアス帝国領と隣接していることから、緩衝地帯としての役割もある。セルフィリア軍の方針では帝国軍との接触を回避するために商隊以外の民間人の立ち入りは制限されていたが、地域住民はよく出入りしており、立ち入りの制限は事実上意味をなさなくなっているのが現状だった。

 しかし安全なのは森の入り口付近であり、森の深い場所は野生の獣たちが生息しており、危険と言われている。

 森に入った三人の行軍速度は落ちる。気がつくと周囲が明るくなっていた。この辺りはまだ木々が薄く、日の光が十分に差し込む。

 ルーミアから見た先頭のエリシアと後ろのユーリは時折森に生えている木苺や木の実などを採取しているようだった。


「ユーリ」

「なんでしょう?」


 ルーミアがユーリを呼ぶと、ユーリはすぐに近くに来る。


「どれが食べられるものなの? わたしも集めたい」

「あぁ、それなら、このちょっと紫がかった木苺なら食べられる。真っ赤になっているやつは毒はないんだけど、酸っぱすぎてあまり美味しくないから、採らない方がいい」

「これね」


 ルーミアはそばにあった木苺を摘み、ひとつ食べてみる。爽やかな酸味と、ほんのりとした優しい甘みがある。


「採るとすぐ色が変わって風味が落ちるけど、これは疲労回復の効果があるんです。見つけたらたまに食べておくといいです」

「わかった。……いろいろな知恵があるものなのね。行軍も奥が深い」


 教わったのは木苺だけだったが、よく見るとエリシアもユーリも、きのこなども集めていた。

 そんな行軍がしばらく続き、ルーミアが足に重みを感じはじめた頃、エリシアが手信号で伏せろという指示を後ろのふたりに送った。

 ルーミアもユーリも、即座に伏せる。エリシアは姿勢を低くし、前方をジッと見ている。

 ルーミアは伏せたまま、エリシアに近づく。後ろからはユーリもやってきていた。


「どうしたの?」

「木が揺れたのが見えました」

「え?」

「なんだって?」

「静かに――」


 耳を澄ます。すると、遠くの方でびゅんと、なにかが放たれる音がした。


「弓の音だ。近い。気づかれたか?」

「矢は来ていないわ。見て、また木が揺れた」


 エリシアの視線の先で木の揺れる音が起こる。


「どういうことだ?」

「わからない……もう少し近づいてみましょう」

「わかった。中尉、姿勢を起こさないように気をつけて」

「うん、わかった」


 三人は森の中を這うようにして前進する。途中、弓を放つ音が何度か聞こえた。


「とまって」


 エリシアの指示にふたりは動きをとめる。


「ユボリ族がいる。槍を動かして……戦闘中みたい」

「アルシェ隊か?」

「それが……ユボリ族はみんな木の上を見てる。もう少し近づけるわ」


 三人が慎重に進むと、なにやら声を上げているユボリ族が六匹ほど見えた。手にした槍や弓を、木の上に向けてなにかをしている。


「一体なにを……あっ」


 エリシアが声にしたその時、弓を構えていた一匹のユボリ族の体が三つに切断された。


「なんだ!?」


 ユーリも驚く。


「なにがあった!?」

「見えなかったわ。魔法攻撃?」

「魔力は感じない。魔法ではないわ」


 魔法の可能性はルーミアが否定する。

 そして、三人が見守る中、また一匹のユボリ族が三つに切断される。


「木の上だ!」


 ユーリが指を指す。木の上でなにかが動いていた。


「なにが――」


 エリシアが目をこらした時、一匹のユボリ族の体が宙に浮いた。すると、残りのユボリ族たちは反転して逃げ出してしまった。取り残された一匹は宙に浮いたままギーギー騒いでいる。


「こ、こいつは……」


 ユーリはユボリ族が宙に浮いている理由がわかった。浮いているのではない、吊るされているのだ。

 ユボリ族を宙に吊るしているのは……木の上にとまる、一匹の獣だった。狼のような顔を持つその獣はくわえていたユボリ族を噛み、鎧を破って食いはじめる。


「ユーリ、知ってる?」


 エリシアの問いにユーリは首を振る。


「エムール大森林の奥には狩人のような獣がいるって話は聞いたことがあるけど、見たって人の話は聞いたことがない。こいつがそうなのか……」

「なんなのこいつ……」

「わたし、知ってる」

「ルーミア中尉?」


 ユーリとエリシアの視線がルーミアに注がれる。


「教会で習った。これは……災害獣。エムール大森林で大昔に討伐されたものよ」

「災害獣だって?」

「それってウィスパニア地方じゃ長年報告されていないんじゃ……」

「報告はされていないけど、いた事実は残っている。森の中を木から木へ跳びながら移動して地上の獲物を切り裂き、食べる災害獣……この森が切り拓かれなかった理由は、この災害獣がいたから。名前を……跳刃鼬(ブレードウィーゼル)


 木の上でユボリを食らっていた跳刃鼬(ブレードウィーゼル)がペッとユボリ族が着ていた鎧だけを吐き出した。

 前足には三本の長い爪を持ち、それはさながら槍のようになっている。バラバラにされたユボリ族はこの爪にやられたのだと、ユーリとエリシアは思った。

 跳刃鼬(ブレードウィーゼル)は後ろ足だけで木からぶらさがり、周囲を探っている。深い緑色の毛色が保護色となり、森の色と同化している。


「まずいわね……気づかれた」

「食事は終わりじゃなかったのか」


 エリシアとユーリはすぐに荷物を降ろす。


「やるの?」

「追い払うしかないわね」

「災害獣よ? 三級災害獣だとしても、三〇人くらいの部隊の戦力が必要になる」

「でも、やるしかない。後ろを見せたら食い殺される」

「ルーミア中尉はどこかに隠れていて」

「ううん。これと戦うなら……あなたたちの『剣技』があれば大丈夫かもしれないけど、わたしも魔法を使う」


 ルーミアも荷物を降ろし、魔導杖を持って立ち上がった。


「災害獣討伐は教会騎士の専売。わたしも……訓練してきてる」


 ルーミアが跳刃鼬(ブレードウィーゼル)を見つめるまなざしには闘志があった。対峙する跳刃鼬(ブレードウィーゼル)もそれを感じてか、こちらへと視線を向け、グルルと唸り、牙を見せる。


「来る!」

「左右に! 囲んで!」


 ルーミアの指示に合わせるように、ユーリとエリシアは左右に飛んでわかれた。

 災害獣との遭遇――これは完全に予想外の遭遇だった。


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