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星と召喚と女神の聖剣士  作者: 桐生スケキヨとYOM
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第010話「大森林に潜む災禍」

【〇一〇 ユボリ族】

■ウィスパニア地方北部山岳地帯に住む亜人族。

灰褐色の肌と、長い両手が特徴。上背は小さく、森の中での活動なども得意とする。

集団生活をして群れで狩りなどを行うため、知能もそれなりにある。ゾディアス帝国の侵攻を受け、帝国の兵となった。

繁殖力も高く成長も早いため、帝国としては扱いやすい戦力とされ、各地に派遣されている。

挿絵(By みてみん)


【〇一〇 大森林に潜む災禍】


 基地を出て二日目の夜、アルシェたちが野営の準備をしていた時、突然アルシェの前にいたエネスギア人兵士の胸に矢が突き刺さり、倒れる。


「なっ――」


 アルシェはたき火の前にある石の上に座り、部下たちに野営の準備をさせていた。特に周囲の警戒はしていない。野営の支度を急がせるあまり、見張りに立つ必要があると進言した人間の兵士にまで野営の支度をさせていた。

 そこへ、奇襲を受けた。


「アルシェ様、どうされ――ぐがっ」


 倒れたものがいることに気づいた人間の兵士が様子を見ようと立ち上がると、彼の喉にも矢が突き刺さる。


「ひっ!?」


 アルシェはまだなにが起こったかを理解できなかった。

 ふたりが倒れたのを見たエネスギア人兵士がようやく事態に気がつく。


「アルシェ様! 敵襲です!」

「どこからだ!? 見張りはいなかったのか!?」


 アルシェが叫ぶ。


「見張りはいいから野営の支度をとアルシェ様がおっしゃり――」


 人間の兵士がそう言うと、アルシェは手に持っていた木の枝を投げつけた。


「敵が近づけば気がつくだろうが!」

「敵とて気づかれずに近づいてくるものです!」

「そんなことはいい! どこからだ!? 数は――」


 取り乱すアルシェの頬を飛んできた矢がかすめる。


「なんとかしろ!」


 場所はエムール大森林の中。アルシェたちはその森林の中、チェロリダ村に通じる街道を進んでいた。

 今日も街道のそばの開けた場所で野営をしようとしていた。

 これでは襲ってくれと言っているようなものだ――同行する人間の兵士たちはそう思うものが多かったが、言ったところで聞き入れられるものではなく、用心していたが限界はあった。


「ユボリ族だ!」


 ひとりのエネスギア人兵士が叫ぶ。


「殺せ! なんとかしろ!」

「囲まれています! 数は、多数!」

「そんなことはいい! さっさと始末しろ!」


 アルシェが叫ぶ中も、矢が飛び交う。ユボリ族は普段槍を多用する種族だが、身を潜めて矢を放つのも得意だ。アルシェがいくら周囲を見回しても、夕闇が訪れた森の中では、敵の姿を見つけることはできない。


「アルシェ様! 火を!」

「なんだ!?」

「火を消してください! 明かりでこちらの位置が相手に!」

「明るくなくては敵が見えないだろうが!」

「手元の光では森の中は見えません!」

「俺に意見するのか!」

「ですが――あがっ!?」


 アルシェに意見をしていたエネスギア人の背中に矢が刺さり、倒れる。


「アルシェ様……は、反撃を!」


 矢を受けたエネスギア人は苦しそうに声を絞り出す。


「か、勝てるのか!? どうなんだ!?」

「我々エネスギア人は……負けてはいけません……!」

「そ、そうだな、そうだ、その通りだ!」


 アルシェが意気込むと、矢を受けたエネスギア人はふらふらと立ち上がった。だが、その背中にさらに数本の矢が刺さり、再び倒れる。


「どうなっている!」


 アルシェが叫ぶと、そばに三人の人間とふたりのエネスギア人が集まる。皆が剣を構えており、アルシェを中心に方陣を取る。


「他のものはどうした!?」

「やられました!」

「なんだと?」

「みんな死にました。残っているのは我々だけです!」


 剣を構えたエネスギア人が叫んだ。

 二五人いた部隊が、あっという間に六人になってしまった。


「敵はそんな大部隊なのか!?」

「わかりません。ですが矢はあちこちから飛んできていました。囲まれています」

「なんとかしろ!」


 全員が黙る中、ひとりの人間がつぶやく。


「矢が……止まった……」


 不意に静寂が訪れる。それはアルシェたちにとって、不気味な静寂だった。

 アルシェは額から眉間を通る汗を感じた。


「す、進むぞ」

「どこへですか?」


 エネスギア人が問う。


「基地へだ。基地へ進む」


 それを一般的には退却と言うのだが、エネスギア人は退却とは言わなかった。


「周囲は囲まれています。突破するしかありません。アルシェ様、召喚を」

「は?」


 思わず目を見開いたアルシェを見て、発言したエネスギア人も困惑した。


「今こそアルシェ様の召喚が威力を発揮する時です。召喚の攻撃力で敵包囲を瓦解させ、そこを前進するのです」

「そ、そ、そうか、そうだな……召喚か……召喚……」


 アルシェはなにかをぶつぶつと繰り返す。


「さぁ早く!」

「うるさい! せかすな!」

「失礼しました! ですがお急ぎください!」

「わ、わかった、今やる――」


 周囲を警戒していた全員の視線がすっとアルシェに集まった。

 アルシェは剣を構え、召喚の詠唱に入る。


「ディ、(ディア)――契約(アステムスム・)に基づき(ザン)て――」


 全員が固唾を飲むその瞬間、森の木々の中から槍を構えたユボリ族数名が飛び出してきた。


「迎え撃て!」


 エネスギア人兵の声がする中、ひとりの人間は三人のユボリ族の持つ槍に貫かれていた。


「ひっ!」

「アルシェ様! 詠唱を! 召喚を!」

「こんな状況でできるか! あとは任せた!」

「アルシェ様!?」


 味方を置いたまま、アルシェは森の中へと走り出した。


「アルシェ様どこへ――うがっ!?」


 周囲を多数のユボリ族に囲まれ、皆が槍を受けて倒れていった。

 ほぼ全員が致命傷を受けて倒れる中、腹を刺されたエネスギア人ひとりはかろうじて意識を保っていた。


「ア、アルシェ様は……逃げたの……か……我々を置いて……!」


 にわかに信じられないことだが、アルシェは逃げ出していた。

 その情けなさと悔しさに涙が溢れてくる中、彼はとどめが刺されるのを待った。しかし、ユボリ族の槍は迫ってこない。不思議に思い顔を上げると、ユボリ族が整列していた。ユボリ族は二〇匹ほどいる。


「なん……だ……」


 出血で朦朧とする意識の中周囲を見ると、森の中から背の高いふたりの影が現れた。


「ゾ、ゾディアスタス人……!?」


 はっきりとは見えなかったが、そこにはたしかにゾディアスタス人がいる。前線ではあるが、こんな場所にゾディアスタス人自らが出向くとは考えられにくかったので、驚いた。


「ガブリアス様、一匹取り逃した模様です。おそらくはこの部隊のリーダーかと。追撃を放ちますか?」


 女性の声だった。


「放っておくがいいパルア。部隊の仲間を放り出して逃げるエネスギア人など、捕らえたところでなんの情報も持っていまい」

「はっ、仰せのままに」


 ガブリアスと呼ばれた長身のゾディアスタス人の足が目の前に降ろされた。


「まだ息があったか。エネスギア人よ、名前を聞いておこう」

「……ハイゼル」

「俺はガブリアスだ。おまえを看取るものの名を、最後に覚えておくがいい。その傷では助からん」

「ゾディアスタス人の情けなど不要だ……!」

「ふん、そうだな。だが最後に聞いておこう、チェロリダ村になにをしに行くつもりだったのだ?」

「調査だ。村からの連絡が途絶えて……おまえたちが……やったんじゃ……ないのか?」


 ガブリアスと呼ばれたゾディアスタス人の男はふむと頷いた。


「そういうことか……なるほどな。おまえたちのリーダーは街道を歩いて火を使うような無能なものだったが、無能は無能なりに活用されたということか」

「どういう……ことだ?」

「おまえたちの死は無駄にはならないということだ。安心して死ぬがいい」

「それはどういう……」


 ハイゼルはこれ以上頭を上げていることができなかった。がくりと、地面に顔をつける。

 頭上で声がする。


「パルア、ひと思いにとどめをさしてやれ」

「よいのですか?」

「楽にしてやれ。エネスギア人は情けなど受けんが、せめてもの情けはかけてやろう」

「はっ」


 じゃりっと、自分に近づく足音がする。

 ハイゼルは最後に思った。自分たちはなにかのために利用されたのだと。


◇ ◇ ◇


 アルシェは暗い森の中を走っていた。剣はどこかで落としてしまい、地図も持っていない。走り続けたことと緊張で喉はカラカラだが水筒も持っていなかった。


「はぁっ……はぁ……俺が、どうしてこんな……!」


 自分がどこに向かっているかもわからない。しかし追っ手も来ているかもしれないから止まるわけには行かなかった。せめて街道に出ればと思っていたものの、その気配はなく、延々と同じような暗闇が続くだけだった。


「だれかっ! だれかいないのか!」


 アルシェが叫ぶ。返るのは静寂だけだった。足を止め、後ろを振り返る。じっと耳を澄ますが、物音は聞こえない。


「追っ手は……来ていないのか……」


 アルシェはもう、自分たちが音もなく襲撃されたということを忘れていた。


「は、ははは、俺に召喚を使われると思って逃げたのか。そうだ、そうに違いない。所詮はユボリ族だ。勝ち目がないことを理解したようだな」


 そう言ってアルシェは堂々と歩き出した。

 すると、森の闇の中にかすかな光が見える。


「ん? だれかいるのか?」


 アルシェの足が速くなる。だれであろうと道案内をさせよう、明かりと水ももらおう、そう思い、光に近づく。


「軍のものだ。明かりと、水をよこせ」


 光に向かいアルシェが叫ぶ。しかし、反応がない。


「聞こえないのか! 軍のものだぞ!」


 光の輪郭が見えてくる。

 それは人の形をしていた。


「なんだ?」


 アルシェが近づくと、光が強くなった。


「うぐっ!?」


 閃光に目がくらむ。


「おい! 返事をしろ!」


 光が揺らぐ。どうやらこちらを向いたようだった。

 そして――。


「コオォォォォォォ」


 笛のような音が周囲に響く。大きい音で、アルシェは思わず耳を覆った。


「なんの音だ!? ひぐっ!?」


 不意に、足になにかが絡みついた。そしてものすごい力で引っ張られ、アルシェは地面に倒れ、引きずられる。


「うわぁああああーっ!!」


 森の中にアルシェの叫びが響き、光が、消えた。


◇ ◇ ◇


「失礼します」


 エルマンの執務室にひとりのエネスギア人兵士が訪れた。


「アルシェ隊の消息が途絶えました」


 椅子にかけていたエルマンはその報せを受け、鋭い目つきになった。


「どのくらい経つ?」

「最後の野営の煙が見えてから丸一日が経過しました。伝令に出た兵もいない模様です」

「そうか」

「捜索隊を派遣なさいますか?」


 エルマンが兵士を睨む。意見無用、視線はそう語っていた。


「失礼しました」

「戻れ」

「はっ」


 兵士が部屋を出ると、エルマンは立ち上がった。


「ゾディアス兵にやられたか……あるいは……そう願いたいものだが念を入れておくか」


 エルマンはそうつぶやくと再び椅子に深く腰掛け、人知れず不気味な笑みを浮かべた。


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