7.サクラ157-e ①
我々第4分隊の当直日が3日後に迫った月曜日。戦闘訓練を終えて銃の手入れをしていると、内線が鳴った。それを受け取った那須曹長は浮かない顔をしている。
受話器の口を手で抑えた那須曹長が、「隊長、当直について小隊長からお電話が」と一条隊長に内線を取るように促した。受け取った一条隊長は「分かりました」と「大丈夫です」のふたつの言葉しか話さないので、どうにも内容が掴めない。
副隊長の里美と目が合うが、特に心当たりがないようで小首を捻っていた。
「……了解しました、失礼します」
静かに受話器を置いた一条隊長は、皆の顔を見回し、全員が揃っていることを確認する。
「……みんな聞いてくれ。俺たちの当直が早まった、明日からになる」
「え……?」
当直は基本2日で一回として扱われるのだが、これは、安全確認と時間の制限等により2日に分けて行わなければ、十分な作業時間を得られないからだ。
そして今回のように当直が早まる事象は、他の分隊が任務続行不可能となった場合に発生する。今日の当直である第3分隊に、何かしら起きたのかも知れない。
「いや、他の分隊の事情による物では無いから、安心してくれ」
自分達の一条隊長を見つめる不安な視線を察してか、即座にその可能性が否定された。だが、一条隊長の表情は明るくない。
「サクラ157-e の観測施設から連絡が入っていないそうだ。本来、明日も当直を行う第3分隊のサクラ157-bでの任務は解除となり、俺達がサクラ157-e に入る」
静かに頷く分隊員たちを、隊長が見回す。
「整備が終わり次第、ブリーフィングをするぞ」
「「「よし」」」
翌日0900、我々第4分隊はポータルの目の前で最終確認をしていた。
一条隊長を中央にして、我々が囲んでいる形だ。
「重要事項だけ話すぞ……サクラ157-e の大気組成は酸素濃度が低い、酸素残量に注意しろ」
「「「よし」」」
「重力は地球の1.38倍。体が重くなるぞ」
「「「よし」」」
「今回の任務は通信途絶の原因の特定及び、当該惑星の現地有害”宙獣”の駆除。以上!」
「「「よし!」」」
隊長がポータルに向き直ると同時に、天井のスピーカーから「第3分隊、ポータル使用許可」という声が響いた。
その声に全員がサムズアップで、自分の状態を伝える。一条隊長が静かに我々の意思を確認すると、いつも通りの言葉を発した。
「安全装置解除……行くぞ!」
走り出してジャンプでポータルに飛び込むのはいつも怖い。
もしかしたら「このまま宇宙に放り出されてしまうのではないか?」という不安が、海岸に打ち寄せる波の如く、絶え間なく心の奥へ打ち寄せる。
「「「よぉし!!」」」
その不安を、隣にいる仲間たちと、声で誤魔化すのだ。
一歩目を踏み出した我々はもう止まれない、徐々に加速してポータルに飛び込んだ。
体が無限に伸びる感覚に襲われた後、唐突に目の前に先程の無機質なポータル室と打って変わって、色彩鮮やかな景色が広がり……それが一気に上昇する。
「んぐぅ!」
僅か30cm程の高さに浮くポータルからでも、フル装備で飛び降りるとそれなりの衝撃が来る。
だが、この衝撃にかまけている暇はなく、直ぐに愛銃のG36Cを、持ち上げて周囲の状況確認だ。重力が地球より重いせいで、持ち上げたG36Cどころではなく、自らの腕でさえも随分と重く感じる。
「クリア!」「クリアァ!」「クリア」「クリア!!」
それぞれが担当方向の安全確認を済ませた報告が入った。
「よし!オールクリア!ポータルシェルターを組み上げたら進むぞ!!北東に1kmだ」
ポータルの保護が終わり一条隊長が進み始めると、徐々に普段の隊列が組まれていく。
だが、普段通りの隊列と異なり、今回のミッションでは普段通りではない点がある。
一つは武器の違いだ。目の前を歩く里美の背中に、いつもの長い狙撃銃がない。
175cmという里美の身長に負けないほどの存在感を誇り、彼女が愛用するMk22狙撃銃だが、今回の目標の一つである駆除には不向きと言わざるを得ない。そのため今回は普段セカンダリとして里美が持ち歩いている、MP7をメインの装備として使用している。榊原少尉も普段のM7ではなく、ショットガンをプライマリとして使う。
あと一つの違いは、明確な駆除対象が存在する事。
この星には明確な脅威となる生物が数種類確認されているが、その中で観測施設を破壊できるようなものは1種類しかいなかった。
それを駆除して安全確保できると、明日もう一度修復する予定だが、我々が無理だと判断すると、この”サクラ157-e”という、現在日本国が独占的に利用できている場所を、放棄することになる。
つまり、それなりの金額と労力を掛けた日本の拠点が、我々の判断次第で一つ失われるのだ。これはかなりの責任重大と言ってもいい。
そんな我々の気負いを無視するかの如く、地球の昼より若干暗い空には月くらいの大きさの恒星と、空の5分の1はあろうかという大きさのサクラ157-bが輝いている。
この景色を観光で見ることが出来たらどれほど良かっただろうか、と思わない訳に行かなかった。
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当直:時間の制限や調査探索を行うために、2日で1回として扱われる。現地生態系の保護の為に、この2日間で別の星を探索することは無い。
はじめまして。都津 稜太郎と申します!
再訪の方々、また来てくださり感謝です!
今後とも拙著を、どうぞよろしくお願い致します。




