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ポイント・ネモの星  作者: 都津 稜太郎
1.ポイント・ネモ
6/15

6.フリディンガー 6-p③


 ラッセル大尉のフリディンガー 6-pで起きた話を聞いた後、自分がした下らない虫の話を撤回したくなった。「任務をこなしていれば、よくある事さ」と彼は言っていたが、未だ危険な現地生物に会っていない自分は、いざという時に彼のような、仲間を救う覚悟を決めることが出来るのだろうかと不安になる。

 

 その覚悟を、ラッセル大尉と別れてからも考え続けていると、いつの間にか自室の前についていた。

 相部屋の3人の内、ひとりは寝ていて、ひとりは勤務、夜10時を回って起きていたのは一人しかいない。


「おー、遅かったな」


 扉一枚挟んだ寝室で寝ている同室に気を使って、少し声を落として話しかけてきたのは、選抜過程からの同期で第二小隊所属の、小早川 信忠(こばやかわ のぶただ)中尉だ。同じ年代で同じ階級が固まっている中でも、彼は学年が一緒という事で特に仲がいい。


「知り合いのアメリカ軍人と会ってな」

「お前は顔が広いな」

「だろ?」

「どうした?声に元気がないな」


 手元の本から目を上げた小早川中尉と目が合う。


「虫共に会ったから萎えてるだけだよ。お前は元気そうだな」

「あぁ、次の当直が終わったら暫く休暇だ。いまからワクワクが止まらないね」

「休暇で髭伸ばすなよ?似合わないから」


 細身で長身の小早川中尉は、その自慢の深い黒色を持った長髪を常に後ろで小さく結んでいる。細身に似合わない膂力を持っている彼だが、本人はもっとアメリカ映画のアクションスターのようになりたいらしく、長い休暇で本土に帰省する度に、似合わない顎髭を蓄えて来る。

 勿論、酸素マスクを装着して行動することがある我々前線部隊に、密閉性を損なう顎髭は許されない。それでも毎回髭を伸ばして来て、勤務が始まる前日の夜に半泣きになりながら剃り落としている。


「伸ばすに決まってるだろ!?」

「やめとけ~」

「うるさい!!」


 さっきまで注意を払っていた筈の声量が、元に戻っていることを自覚して、慌てて口に手を当てているのが何とも面白い。さっき思った不安も、この下らない会話をする仲間を守る為なら、無くなるような気がした。



 翌朝から始まる通常勤務は、0815からと日本と変わらない。

 眠たい目を擦りながら分隊に割り当てられている部屋に入ると、一番後輩で階級の低い那須曹長がコーヒーを作っている。「おはようございます!!」と朝一番から元気に挨拶してくる那須曹長に、気圧されながらも軽くあいさつを交わして、コーヒーを貰っていつものソファーに座った。視線を時計に向けると、いつも通りの0745だ。


 ここから次に到着するのは副隊長の里美で、机の上のノートPCを起動すると先に今日の予定をチェックして印刷する。あとはいつも通り、猫舌にも関わらず熱いコーヒーを持ちながら、あれやこれや喋りつつ自分の正面のソファーに着席だ。

 0800になると榊原少尉が到着して、こちらは言葉少なにコーヒーを飲みながら、自分の隣に座る。最後は0805に曹長が到着して、那須曹長が着席すると朝会議が始まるのだが、この日は違った。


「おーい、装備の洗浄が済んだそうだ。皆で回収に行くぞ」


 入り口から上半身だけを出した一条隊長が、私たちを呼んだ。

 いつもは3日程度かかる洗浄が、今回は2日で終わったらしい。これで今日の午前の業務は自分達の装備の手入れになった。


「行きます!」


 元気な声で返事したのは、午前の書類仕事が装備の手入れに変わって、嬉しさを隠せない那須曹長だ。


 我々が自分の装備を受け取る場所は、ポータルがある建物に隣接した場所にある。メディカルセンターや他の研究施設も同様にポータル棟から接続され、地球外から持ち込んだものを決して洗浄せずに外に出すことは無く、これは空気でも変わらない。


 その洗浄棟のエアロックの外側にある玄関に、4分隊の名前が書かれたクリアボックスが並んでいた。装備をクリアボックスごと持ち出して、自分達の分隊室に帰り整備を始める。


 装備の綻びが無いかを確認して丁寧にロッカーに戻すと、銃を解体して一つ一つの部品を綺麗に磨き上げて、元に戻していく。これは自分達が命を預けるもので、動作不良が起きたらそれは即ち死だ。

 そして我々の使う銃は、完全に自由を許されているという”特殊部隊”らしい特別待遇で、自分以外に整備を任せるのことが出来ないのだ。もちろんその中でも制式採用の官品を使っている人もいるが、数が少ない。


「一条隊長、その20式随分年季が入ってますけど、変えないんですか?」

「これが慣れてるんだよ。前期教育からこれだったからな」


 一条隊長は制式採用の官品を使う奇特な人間の一人だ。手持ちの20式は所々塗装が剥がれ、銀色のアルミが見えていて、交換したと思われる樹脂製の部分は真新しく、アンバランスなものだった。


「お前らが好きな武器を使うように、使い慣れた銃が良い奴もいるからな。それに蠣崎…お前も人のことは言えないだろ?」

「G36Cは格好良いので!!」


 一条隊長は自分の自信満々な回答を笑って受け流し、一番最初に整備が終わらせ、動作確認をしている。一条隊長のその手際が慣れという物の大事さを示しているのかも知れない。


「お前らも整備早く終わらせて、事務するぞ」


 一足先に銃を戻しに行った一条隊長の背を見送るの皆の表情は、榊原少尉以外、事務仕事に向かう事を拒否したいという願望が見て取れた。



ーーーーーーーーーーーー


個人装備:第一宇宙作戦隊・第一分遣隊の現場に立つ者達は、全員に装備の自由が与えられている。


はじめまして。都津トツ 稜太郎リョウタロウと申します!


再訪の方々、また来てくださり感謝です!


今後とも拙著を、どうぞよろしくお願い致します。


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