15.サイレン③
緊急警報が解除されたのは、事故発生から26時間後であった。
その間我々は全ての装備を着用したまま分隊室で警戒をすることを義務付けられており、その規定通り実施した。
「流石に疲れたな」
「はい……」
普段は愚痴も言わない一条隊長であるが、全ての装備を付けたまま体の上に銃を保持し、交代でソファーの上で睡眠を取るのは堪えた様子だった。これが訓練や現地であれば緊張感が優先され、体の疲れを感じるのは数日経過してからだ。だが、普段の仕事場と言えどリラックスできる空間である分隊室では、どうにも体が先に疲れてしまう。
「よし、警報解除だ。あとはアナウンス待ちだな」
「無事に見つかった報告もありましたし、直ぐだと思いますけどね」
「日本はこういうとこ長いからな。分からんぞ」
仔細は入って来ていないがラップトップの警報は解除され、救出完了の報告が上がっていたので、あとは館内の放送で解除の放送を聞くだけだ。
その放送までが長かった。洗い物をする前に残りのコーヒーをマグカップに注ぎ、それを飲み終わっても中々解除されない。ようやく解除となったのは、開会が解除された26時間から更に1時間経過してからだった。
その時間の長さに「緊急警報解除」の放送が流れた後に言葉を発する者が居なかったほどだ。無言で各自のロッカーまで戻ると、それぞれの装備を収め始める。
やっと部屋に帰る事の出来る喜びもあるのだが、それを表に出すことは控える事にした。既定の通りだと、これから一条隊長はオペレーション室がある建物まで向かって、会議室で説明と指示を受けるのだ。
「じゃあ行って来る。お前らはしっかり休んどけ」
「了解」
部屋から一歩出ると疲れを見せないように振舞う一条隊長を見送り、自分達は言葉少なに宿舎へと戻った。他の部署の者達も一斉に宿舎への道を歩いていたので、出店が出ていてもおかしくない程の人の多さだが、上官が居ても敬礼が省略され顔見知りを見ても軽く手を挙げる程度の挨拶で済まされる道のりは、異様に静かであった。
「よぉ、お疲れさん」
「おう、おつかれ」
寝室のベッド横にあるロッカーに、洗濯と整理を明日の自分に任せて荷物を放り込み、あとから入って来た山名 高久中尉と挨拶を交わす。
彼はオペレーション室の担当士官であったことを思い出し、今回の状況について聞いてみる事にした。
「なぁ、オペ室からの警報解除遅くないか?」
「仕方ないだろ?警報が解除されてからのチェックやらなにやらだ。こっちもえらい長い残業になったよ」
「今回は何があったんだ?」
勿論ある程度の情報はラップトップから入手しているが、それ以外に一番部外の話が入って来るのがオペレーション室の特権だ。
情報屋として頼られるのが面倒臭いと言った表情を見せる山名中尉であるが、仕方がないといった様子でため息を吐いた。
「別に、期待されるほど新しい情報は入ってない。なんせ秘密主義の隣国さんだからな……分かってるのは、ミッションから帰還する時に10人が一気に飛び込んだらしい。それでポータルの位置がズレたんだとさ」
「は?学者とかの素人でも入ってたのか?」
「いんやー、どうも違うらしい」
「だったらなんで」
「それを俺に聞くなよ、取り敢えずその10人は全員無事に救助されたらしい。緊急展開された救命ボートに乗ってたんだとさ」
我々の携行装備の一つに5人乗りの小型の救命ボートがある。それこそ海の上に放り出された時の為に持っているものだ。いつもは邪魔で邪魔で仕方がないと思っている持ち物であるが、助かった話を聞くと有用であったことが分かる。
「誰か聞ける人はいないのか?幸盛は俺より間違いなく顔広いだろ」
言われて考えてみても、当該国の知り合いは思い浮かばない。隣国はどうにも仲が悪くなるような傾向があるように感じる。そもそも、彼らが同盟国でもない我々と仲良くしようとしてきたら、それはスパイを疑うような案件なのだ。
「……そういえば居ないな」
「じゃあほかの国でもいいから聞いてみてくれよ」
「なんで俺が」
「こっちは情報出したからな、交換って奴だ」
「ほぼ意味ない情報だったがな」
「分かった、そういう態度ならもう今後一切教えない!!」
「冗談だ。悪い、悪かったよ!!」
口をへの字に曲げていじける素振りを見せる山名に謝り、さっさとベッドの隣のロッカーから風呂道具を取り出して風呂へ向かう。他の国の人間に何か情報を聞こうかとも思ったが、それより疲れを取る方が自分の中で優先順位が高かった。
さっさと風呂に入って寝て明日に備える事にしよう。
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作戦指令室(オペレーション室):通称オペ室と呼ばれる場所は、ポータルの状態から他国との連絡状況、他国の探索状況など、ポイント・ネモにおいて共有されている全ての情報が手に入り、共有される。
はじめまして。都津 稜太郎と申します!
再訪の方々、また来てくださり感謝です!
今後とも拙著を、どうぞよろしくお願い致します。




