14.サイレン②
今回のポータル出現地点の位置ずれを話す為には、何故我々がポータルに入る際に人数と時間の状態を気にするかという話をしなければならない。
そもそもポータルというものは、今から丁度30年前に基礎物理学や宇宙物理学、その他様々な分野において同時多発的に出現した天才研究者達によって作り上げられたものである。
その実証実験と各国間における資金配分と場所の選定、ネモ条約の締結後ポイント・ネモに巨大フロート上に設置されるまでの過程で17年の月日が経過し、そこから1年という短期間の試用運転の後に探索が始まった。
この18年の期間で分かったのは、ポータルには様々な制約がある事。
ひとつ目、ポータルは正確な座標を入力しなければならない。
一番最初に宇宙空間へとポータルの出口が設置されたのは、一番近い天体である月面であった。ポータルの出現する場所は制御装置で入力することが出来るのだが、これを誤ると地表から1000m上空や地中にポータルが出現することがある。つまりは天体の移動速度とコースも考慮し出現地点を修正し続けなければ、ポータルは一瞬にして宇宙空間に置き去りとなるのだ。これは必ず正確に出現地点を観測できる範囲になければ、非常に危険な事になる。よって当初この宇宙という広い空間での新しい星の探索範囲を大いに狭めた。
だが、これにはいい点もある。
何もない宇宙空間に出現場所を固定することで、宇宙天体望遠鏡などの構造物を設置することが容易になったのだ。これによって探査範囲は若干広がり、相殺とはいかないまでも、宇宙という広大な空間を探索する範囲は若干広がった。
ふたつ目、ポータルには転送容量がある。
ポータルの安定する大きさは実験当初から変わらず、5m四方が最大値となっている。これに奥行きの5mが足された容量が、無機質の物体が通れる限界値だ。これによって他星系において資源採集を行い、地球に不足している気体や資源を持続的に供給しようとすると、一辺が4.5mのネモ規格コンテナと呼ばれるものを使用しなければならない。
有機物においては更に転送可能容量が減り、縦2m、横5m、奥行き50cmが限界となる。何故無機物から有機物になる事でここまで制限されるのかは判明していないが、これ以上の大きさを持つ有機物を転送した場合”溶ける”事が分かっている。
これは一度の転送であって、完全に有機物が通過した後に次の有機物が通過した場合は”溶ける”事は無い。
三つ目、ポータルの使用間隔は5分以上開けなければならないというもの。
有機物無機物、大きさの大小問わず一度ポータルが使用されるとポータルに”揺らぎ”が発生する。これは目視でも確認可能なもので、使用後はポータルが歪むのだ。
もしその揺らぎの中に飛び込めば、ズレた座標にポータルが転移し、地球から宇宙空間や地中、空中に放り出されることになる。
逆に帰還する場合は地球を座標の0地点としてとらえてる為、有難い事に地球上で転移されるのだが、如何せんポイント・ネモは陸地から最も遠い場所であることで海に放り出される。つまり海難事故となってしまうのだ。更に、一度に通過する有機物の量が増える度に座標は更にズレが生じ、最も遠くへ飛ばされた実験では、ポイント・ネモから地球をほぼ半周したグリーンランド東側、北極海に出現したことがある。この時はなんと上空2000mに出現した。
未踏惑星に向かう際はこれが厳格に適用され、もし5分以下で入らなければ生命の危機にあるとしても、その場に留まり死ぬ覚悟が必要になるのだ。地球には決して地球外のいかなる有害な物質も持ち込まないように工夫しなければならない。
大きなポータルの特徴であるこの三つのうち、二つ目と三つ目が人数と時間を気にする理由だった。
今回の事故であるポータルの誤作動(ポータル出現位置のズレ)が起きた場合、緊急警報のサイレンが鳴らされ当事国からもたらされる情報を基に捜索が開始される。ところが今回の場合は秘密主義の大国であったがために、情報の共有が遅れたらしい。
私がメディカルチェックを終えて里美と外を歩き始めた時に数多く飛行を始めていたヘリコプターは大国のもので、その段階で既に捜索が始まっていたことを意味する。後に分かったことではあるが、事故発生から42分遅れて、国連ポイント・ネモ管理委員会へと報告が上がった。ポータルの誤作動についての詳細な情報共有がなされたのが更に11分後の事故発生から53分だった。
彼ら大国が探索した場所は未踏惑星や有害物質が確認されている星では無いものの、なにがしかの影響が出る可能性も否めなかった。
何もかも遅い大国の動きは、各国の連携とこれからの宇宙開発について黒い影を落とすと見て間違いない。
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国連ポイント・ネモ管理委員会:国連に新設されたネモ条約とポイント・ネモの管理を行う機関であり、各国の文官と武官が多数参加する組織。管理委員会はポイント・ネモに浮かぶフロートの中央にその施設を構えており、各国のポータルの状況と探索先がリアルタイムで共有される。注意報・警報を発出、船舶と航空機の管制を行うのもこの機関。
はじめまして。都津 稜太郎と申します!
再訪の方々、また来てくださり感謝です!
今後とも拙著を、どうぞよろしくお願い致します。




