13.サイレン①
サイレンの不快とも言える音を聞いてから、駆け出すのに時間はかからなかった。空を切り裂くように、甲高い音を響かせる緊急警報のサイレンが背中を押す。隣で歩いていた里美も十分な速度を持って自分に追従している。
頭の中で訓練の可能性を考えたが、直ぐにそれを否定した。全体警報が予告なしに行われることは無い上に、訓練時であれば詳細な状況のアナウンスが付随される筈の放送は、サイレンのみを流し続ける壊れたラジオのようだった。
鳴り止まないサイレンを背に我々は隊舎に向かわず、自分の所属する第4分隊室へと全速力で向かっていった。それが緊急警報が鳴った時に我々が最初にするべきことだ。
飛び込むようにして入った第4分隊室はまだ誰もいなかった。走って2分も掛からない距離にいた我々が一番乗りで飛び込み、急いでイントラネットの電源を起動し、装備を身に着けるためにロッカールームに向かう。まだ本装備は回収していないので、予備の普段と違う武装になる。
私が使っている予備の武器も拘ったもので、プライマリがFN P90でセカンダリがFN 5-7だ。選定理由は純粋なもので……見た目がカッコいいからだ。基本的に原野で銃火器を扱う我々にとって、銃身の短さや取り回しの良さはそこまで求めるものでないが、それを凌駕するのが持った時の気持ちの問題だ。とはいっても普段の任務では扱いずらいので、予備装備から出て来ることはない。
暫くぶりに取り出した予備装備の感慨に浸りながら、P90を吊り5-7をレッグホルスターに納めて、バイタルパートのみを守る小さいアーマーを身に着け、最後にガスマスクを頭の上に乗っけながら部屋に戻る。そして同時に出て来た里美と共にイントラネットのPCの前に集った。
まだまだ鳴り響く不安をあおるサイレンの中、絶え間なく廊下を走り回る足音は鳴り響いているが、誰も詳細な事を叫んでいる者がいない。つまりは目の前にあるPCからしか、情報を入手することが出来ないという事だ。
「……これだな」
顔を寄せ合いながら見つめる画面の一番上部には、赤い帯の上に横に流れるWARNINGの文字。
カーソルを合わせて開くと情報が出て来る……ハズなのだが、そこには警報の文字しかない。詳細が掲載される項目は全て空欄で”警報”の文字のみが虚しく浮いている。結局情報が入っていないから、誰も出来る事がなくただ動き回るしかないのだ。
「ちょっと周りに聞いて来る!」
「わかった。チャンネル……8で」
「了解」
無線の周波数を合わせた里美は、周囲の分隊室に状況を聞きに行った。その間自分に出来る事と言えば、目の前の画面に映る情報の更新を待つことだけだった。
「何が起きた!?」
里美と入れ違いで入って来た一条隊長が、焦りを隠したような口調で問いながら奥のロッカールームに入って行く。「まだ何も分かりません!!」と大声の返答をしたと同時に、残りの二人もこちらは焦った様子を隠しもせずに、隊長向けの返事を「了解です!!」と返事しながらロッカールームに入って行った。
彼らが装備を整えてロッカールームから出て来る時間があっても、画面の情報は更新される事は無く、ただ無駄に時間が過ぎて行く。本当の緊急時であるはずなのにもかかわらず何も情報が共有されていないのは、このポイント・ネモに関わる者達全体の、緊急事態における経験があまりに少ないのが原因だろう。若しくは”秘密主義の旧東側諸国”からの統制された情報が降りてこないかだ。
「何か出て来た!?」
出て行ってから5分と少し経った後に戻って来た里美は何も情報を持っていない様子で、こちらに問いかけながら部屋へと小走りで入って来る。こちらは手持無沙汰すぎて、周りから椅子を引き出してゆったりと座っている具合だ。警報から詳細な次報までの時間が長いと、どうしても警戒が緩まるのが人間の性というものらしい。
「何も、遅すぎ……いや、来たぞ!」
目の前の画面に英語で詳細な内容が表示され始める。自分の周囲にはその一つ一つの情報を追う為に、4人分の頭が集まった。
「ポータルだ……ポータルの誤作動」
第一報はポータルの誤作動というものだったが、それは30秒と経たずに訂正される。
最終報はポータルの座標ズレで、それに伴う救助活動が行われる報告と場所についての詳細が出て来たのは、更に10分後であった。当事国は日本の西側に位置する大きな人口を持つ大国であるが、これではその救助を手助けすることが出来ない程の情報の遅さだった。
「うーん……マズイですよねコレ」
「隔離措置もしていない者達が、そのまま外洋に放り出された訳だからな。マズイとかの次元ではない話だよ」
私の問いかけに、一条隊長は苦虫を噛み潰した様な表情で返事をした。
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緊急警報:何らかのトラブル(地球外生命体の進入、ポータルの異常等)によって全地区に発出される緊急の警報。サイレント共に内容が英語でアナウンスされる。発出された場合、兵科によって集合場所と行動が変わる。
はじめまして。都津 稜太郎と申します!
再訪の方々、また来てくださり感謝です!
今後とも拙著を、どうぞよろしくお願い致します。




