12.サクラ157-e ⑥
「洗浄完了」
インカムから響く声に従い、装備を外してメディカルチェックに入った。
今回は前回のような気楽な別れではなく、それぞれが無言で自室へと向かって行く。それは興奮が収まらず、ずっと喋りを止めない榊原少尉からやっと離れることが出来るという事だ。
そんな分隊員との別れから1ヶ月。
やっとのことで外へ行くことが出来る日を迎えた。ここまでの1ヶ月は暇な時間が無かったと言ってもいい。次から次に襲い掛かる報告書の山に、毎日のように数時間を掛けて行われるメディカルチェック、そして戦闘行為の違法性をチェックするための本土と通信を繋いで警察官の取り調べを受ける。普段のメディカルチェックのような悠長さは微塵も無かった。
そもそもこのメディカルチェックの1ヶ月は国際基準でA~I級の9等級に分けられ、そのうちD級の、”足を踏み入れているのは1カ国のみだが、その星に害となる物が認められない場合”の隔離期間として設定されているものだ。その期間の全ての時間を使っても足りないほど、我々は忙殺されていた。
「では、これで査問会議を終わります」
この言葉を聞くまでに丸1カ月かかった。
各員が2日かけて必死に書き上げた報告書を、一条隊長が上に決裁を上げては突き返されるを繰り返し、そこから関係省庁に決裁が回り、更にそれぞれから質問事項をまとめて戻されて、それに回答し、最終的にわざわざ常装の制服を差し入れされて、全て着用してホログラムの会議だ。
何の意味があるのか分からない、これまでの文章のやり取りを口頭でさせられる無駄な時間を二日間に渡って過ごし、やっとさっきの言葉が議長から出て来た。
「なげぇ……はぁ~疲れた……」
ホログラムが消えて部屋着に着替えてベッドに寝転んだ時、思わず呟いてしまった。この言葉は間違いなくカメラの記録に残っているが、そんなことを一つも気にしないほど無意識に口から零れ出た言葉だった。この無駄な2ヶ月を過ごすくらいなら、もっと出来る事があった筈だ。ただ腕立て伏せをしているだけでも、これよりは有益な事だと断言できる。
今回は惑星施設の放棄を決めた事が査問の長さの要因になったわけだが、途中に受けた地球外生命体との戦闘に適法性があったかの事情聴取が一番無駄だった。わざわざ本土の警察とカメラを繋いで事情聴取を受ける訳だが、軍警察を持つ他国の軍隊なら軍内部で終わるような内容だ。
地球外生命体の事を何も知らない本土の警察官も、何を聞いたらいいか分からず適当な問答をしているあの時間だけは、無駄と言わざるを得ない。ベッドに横になり、寝る段階になってから思い出してもムカムカして来る。だが、それよりも疲れの方が先に来たのかいつの間にか目を閉じていた。
「蠣崎中尉、メディカルチェック異状なし、外出許可」
いつも通りの無機質な女性の声に目が覚めると、いつの間にか外が明るくなっていて、上向きにしたブラインドが天井に光を太陽光を当てている。
普段であれば個室だと喜んでいたメディカルチェックの時間も、今はやっと面倒ごとから解放されることに対する嬉しさの方が大きい。当然そそくさと荷物を纏めて部屋から退出して、潮の匂いがする空気と、肌に焼き付けるような太陽の下へ出る。
「おつかれ」
思わず外で体を伸ばして、”地球の空気”を深く吸っていると後ろからひと月振りに聞く声がした。
「里美か、おつかれさん」
「あんたにしては、メディカルセンター出るの早くない?」
「今回ばかりは忌々しい記憶しかないからな。コーヒーも飲まずに出て来たよ」
「珍しい、まぁ地獄だったね」
「本当だよ…正直、ここまで詰められるとは思って無かった。何度も同じ説明ばかりさせられるのは、気分が良いものじゃない」
「ホントに……ね。んじゃ隊舎に帰ろうか」
「あぁ」
二人で並んで歩くのは久方振りだ。少なくとも宇宙作戦軍に入ってからは、そんな機会は無かった。
「あのワーム共には今後会いたくないわ」
里美が先に話題を切り出すのも、一緒の学校に通っていた昔を思い出す。
「お前の持ってた豆鉄砲じゃきつかっただろ?」
「あれならまだSR持ってった方がマシだったかも、MP7じゃまともに当たっても厳しかった。武装変更申請しようかなー」
「つってもセカンダリだろ?大口径持つわけにもいかないんじゃないか?」
「そうなんだよね~~分隊選抜射手のつらいとこ。あんたの腕が良かったら任せるのに」
「はっ、よく言うわ!微差だろ!微差!!」
「その微差であんたと私の格が違ってくるのよ」
「はいはい」
「適当な返事すんな!!だからモテないんだよ?」
「馬鹿が、本土に帰ったらモテモテに決まってるだろ?」
「自分が惨めになる冗談はやめといた方が、自分の心を守れるよ?」
「あー、うるせぇ!」
そして里美の口喧嘩の強さもずっと変わらないものだった。
そこから暫く他愛のない話をしながら歩いていると、にわかに北の方角が騒がしくなったのを感じる。明らかに飛び立つヘリの数が多く、そのローターが空気を切り裂く音がいくつも聞こえた。
「なにかあったのか?」
「分かんな……」
里美の言葉を遮るように、けたたましいサイレンの音がポイントネモに響き渡る。
緊急警報のサイレンだった。
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国際協定によるメディカルチェック隔離期間
A級:10カ国以上の探査かつ無害-12時間
B級:5カ国以上の探査かつ無害-3日
C級:2カ国以上の探査かつ無害-14日
D級:1カ国以上の探査かつ無害-30日
E級:10カ国以上の探査かつ有害-45日
F級:5カ国以上の探査かつ有害-60日
G級:2カ国以上の探査かつ有害-90日
H級:1カ国以上の探査かつ有害-120日
I級:未踏惑星-180日
はじめまして。都津 稜太郎と申します!
再訪の方々、また来てくださり感謝です!
今後とも拙著を、どうぞよろしくお願い致します。




