11. サクラ157-e ⑤
100年ぶりに帰還するような感覚に襲われる地球には、仰向けで到着した。
ポータルから勢いよく飛び出した体は地面に叩きつけられ、装備と銃が打ちっぱなしのコンクリートにぶつかり、派手な音を立てながら地面を滑る。
地球に到着したと言えど、我々の仕事は終わりではない。最後に確認したサクラ157-eの光景は、20m後ろに迫る青色の肌を持ったデカいワーム共だ。あいつらが我々の後を追ってポータルに飛び込む前に、何としてでもポータルを封鎖しなければいけなかった。
指令室に無線連絡してポータルを封鎖するのでは遅い。ポータルの管理室に合図を出していては間に合わない。するべきことは一つだ。
摩擦で熱くなっている背中に一気に力を入れて、跳ね起きるとポータルの左の柱へと走る。
様々な配線と金属が剥き出しの、近未来を感じさせる2本の柱はポータルを生成装置で、そのうち左の柱には緊急停止装置があった。
同時に跳ね起きた一条隊長と少し遅れて体を起こした榊原少尉の中で、一番左側にいた自分が緊急停止装置に近い。重たい脚を必死に回し、一つ呼吸するのも厳しい肺に無理矢理息を吸い込んで、柱に向かって走り寄り、しがみ付くように柱に辿り着いた。
目の前にあるハザードテープに四隅を囲まれたガラスのカバーを、USPのグリップエンドで砕くと、中にある赤いボタンを、そのままグリップエンドで叩く。
緊急停止ボタンが押されたポータルからは、短く断続的なビープ音が鳴り響き、ポータルは神隠しの様に直ぐに消失した。
だが、振り向くと、そこには見覚えのある青い体がその太い胴体を分断されて、もがき苦しむように体をうねらせ、目の前にいる那須曹長と里美に向かって進んでいる。
頭だけになった目の前のワームを消えたポータルがあった場所へと蹴飛ばし、2mも地球に”侵入”したワームに向かってUSPの最後のマガジンを叩き込みながら進んで行く。
もちろん9mmの弾丸などワームには効果がなく、そのままワームの横っ腹に体をぶつけて、ステージの下へと押し出すように、ひたすら下半身を踏ん張った。
マスクで守られた鼻には、その匂いを感じることが出来ないが、体の感触はブヨブヨとした気持ち悪い感触だ。いくら押してもその前に進む力を弱めるだけで、完全に止めることは出来ない。
ワームの体に2回の衝撃が走ると共に、状況を見た一条隊長と榊原少尉が両脇に加わり押し出そうとするが、それでもワームは動かない。だが、ついにこちらに意識を向けたようで、大きな口を開ける。そこにすかさず全員が残弾の全てを撃ち込んで、やっとのことでワームの動きが止まった。
「ハァハァ…クソが!」
そこら中にポータルによって千切られたワームが転がる空間から距離を取り、壁まで下がると意図せず悪態が出た。隣に並ぶ分隊員達もその言葉を否定することは無い。
「はい…そうです、はい。お願いします」
指令室やポータル管理室、その他諸々のお偉方から矢継ぎ早に飛んでくる無線を、一条隊長が一つ一つ捌いて行く、その声色は先程まで続いていた緊張から、やっと弛緩している。
消えたポータルと殺風景な部屋の中にある二つの柱、そしてそれに続くスロープの上に点々とあるワームの死骸や破片をぼんやりと眺めていると、横の出入り口から完全武装の即応部隊が進入してきた。
彼らはポータルが開いている間、常に警備している第二分遣隊の者達だ。今日の当直には同室の奴が居て、指揮を取っているのは彼のようだった。
「あとはお任せください。洗浄室へどうぞ」
即応部隊の小隊長であり同室の佐竹中尉が一条隊長に促すと、「行こう」と首と手で周りに合図を送る。出入り口に向かう我々を見つめる佐竹中尉と目が合うが、軽く手を挙げて挨拶するに留めて洗浄室へと向かった。
火器を預けて、全ての装備を着たままの状態で洗浄室へ入り、体中に液体やら空気やらを立ったまま浴び続ける。
こちらとしては今すぐにでも椅子に座るか、寝転がるかしたいところだが、地球外生命体と接触をしてしまった以上そういう訳にもいかない。トラピスト1-dなどの各国の分析が終わっている星ではなく、日本のみが足を踏み入れている星なのだ。分析により一応の安全が確認できていると言えど、そのまま脱いでメディカルチェックに入ることは規則上出来なかった。
自分を含めて数人が疲れからか、それとも安堵からか無言のまま浴びる中で、普段静かな榊原少尉が興奮したように喋り続けている。アドレナリンが出て口から出る言葉を留めることが出来ない彼に、律儀に那須曹長が反応しているが、それ以外の3人は無視するように洗浄が終わるのを待っていた。
「足がないのもクソだな」
頭の中にはラッセル大尉の言葉が反響している。
本当にその通りだ。足が多いのも嫌いだが、足がないのもそれ以上に嫌いかもしれない。
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ポータル施設:縦50m、横40m、高さ10mの空間にポータルが設置されており、周囲は気密と衝撃に耐えられるような防御がなされている。出入口側の高さ8mにはガラス越しにポータル管理室及び指令室がある。
はじめまして。都津 稜太郎と申します!
再訪の方々、また来てくださり感謝です!
今後とも拙著を、どうぞよろしくお願い致します。




