10.サクラ157-e ④
ワームが口を大きく開く度に放たれる弾丸は、確実にその生命活動を止めていく。
だが、ワームの死体で塞がれた場所を乗り越え次々と湧き出る新手に、我々との距離は徐々に縮まっていった。
「退避戦術!!2班後退!!!」
一条隊長の指示がインカムから響く。
その声に、考える間もなく体が反応し、立ち上がった自分と那須曹長が30mほど走る。
「1班後退!」
マイクに向かって叫び、未だ前方に向かって射撃を続けている味方の背中越しに援護射撃を開始すると、続いて一条隊長と里美、榊原少尉の3人が後退を開始した。
正面火力が減少した隙をついて、ワームが勢いづいたのが見える。明らかに距離の縮まり方が速くなった。
「那須!!!もっとだ!!もっと援護射撃!!」
「了解!!!」
4点のバースト射撃をしていた那須曹長が、フルオートでワームに弾丸を打ち込み始める。
私も自らのG36Cの残弾をカウントしながら射撃を行う。だが、こちらの弾丸の雨をものともせず突進するワームの距離は、無情にも縮まり続けた。
(あと、5、4、3、2)
このままでは再装填が入ってしまうという焦りが、引き金を引く指を鈍らせる。
「2班後退!!」
やっと後退命令が来たかという気持ちと共に残弾を撃ち切り、立ち上がり頭を屈めながら後退を始める。
走りながら空になったG36Cの弾倉を振り落とし、チェストリグに入れた新しいマガジンを取り出してリロード、チャージングハンドルを引き、一つ目の弾丸を薬室に送り込む。
既に連結した2つのマガジンと、チェストリグの2つのマガジンを使い切った。
駆除という事で予備は持って来ているが、バックパックにの奥深くだ。簡単に取り出せる残りのマガジンはチェストリグに2つ、レッグリグに2つしかない。
「1班後退!!」
交互に後退を繰り返すことで、なんとか距離を保ちながら後退出来ているが、チェストリグのマガジンを使い切った。これは同じ数のマガジンを持っている那須以外の者達が言えることで、もちろん一条隊長もそうだ。
「隊長!!もう残弾が!」
「マガジンを使い切るまで繰り返せ!!無くなったら走るぞ!!!」
そしてブレイクコンタクトを更に2回繰り返したところで、ついに残弾が切れてしまった。
「サイドアームに切り替えろ!走れ!!!」
一条隊長率いる1班が最後の弾倉を使って私と那須を援護する間に、胸のホルスターからUSPを引き抜きながら走り出す。
走り出す我々2班と共に1班の面々が放つ銃声が加速し始め、横に並ぶと一条隊長の「走れ!」の号令と共に合流して走り始めた。
もう足元の嫌な感覚も気にならないほど厳しい状況に、全身の汗が吹き出し息が上がり、止めることを許されない足に乳酸が蓄積し、一歩一歩重くなり続ける脚は、もはや重力など関係ないほどの疲労に襲われる。
ポータルまであと2分も掛からない場所まで来て、我々の速度が落ちたのか、再びワーム共が勢いを取り戻したのか分からないが、距離が再び縮まり始めているのを感じ取ることが出来た。
「サンプルはもういい!バックパックは捨てろ!!」
バックパックををかなぐり捨てるように落として後ろを確認すると、ワームは既にはっきりとその姿かたちが確認できる距離にいる。一条隊長の号令で投げ捨てたバックパックは、あっという間にワームの群れに飲み込まれ見えなくなった。あの青い肌を持つワームの喰われるか、下敷きにされるのか分からないがそんな死に方は御免だ。
「あと少しだ!フラグ使え!!足元に転がせばいい!!!」
ようやく降りた手榴弾の使用許可に「遅いよ!」と悪態を吐きたくなった。
口でピンを引き抜き足元に転がしたフラググレネードは、少しの間の後でくぐもった爆発音と共に後ろに迫るワームをズタズタにしている。
「シェルターは回収しない!!突っ込め!!」
一条隊長が手元にタブレットを持ってくると、普段では考えられない様な雑な手付きで光学迷彩の解除を始め、それによって100m程先に灰色の小型シェルターが出現した。
「最後のフラグ使え!!」
再び足元に転がしたフラグの爆音が響き渡るが、少し首を縮めるだけで今度は振り返らない。今は目の前に見えるシェルターに突っ込むことに全力を注ぐのみだ。
「いけぇ!!!!」
地球に帰るのにセーフティーを掛けている余裕もない。右肩から思いっきり灰色の壁に突っ込み倒れ込むようにポータルの中へと入って行く。
最後に見えたサクラ157-e の光景は、自分達の20m程後方にいる青い化け物たちの姿だった。
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退避戦術:一撃で最大火力を発揮し、その援護の下に2名ないしは3名で、交互に援護と後退を繰り返す。宇宙軍の分隊では、分隊支援火器を持つ者と、ライフルを持つ者で2名、その他3名の順で後退する。
はじめまして。都津 稜太郎と申します!
再訪の方々、また来てくださり感謝です!
今後とも拙著を、どうぞよろしくお願い致します。




