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饗宴編 王都からの知らせ③

 



「僕、エルに頼まれたんだ。王宮の使用人の服が欲しいって、つまり乗り込むつもりなんだと思う」


 レオンとオズに問いただされても断固として口を噤むセラフィナを見かねてミルリーゼが答えた。

 先日、エルがブラン商会に注文した王宮メイドの服は既に手に入れている。王都へ向かわせたロッドからの報告にはその件も記載されていた。


「………この件に関しては後で俺が詰めておく、速攻止める。何故あの方は時折無茶なことをやろうとするんだ。自分の身分を忘れたのか」


 魔物を退治すると言い出したり、犯罪組織を壊滅すると言い出したり、王宮に追われている身分で王宮からの招待に招かれると言い出したり、エルは時折無謀なことを突飛に言い出すのだ。


 これまでの旅の思い出や伝え聞いた情報を振り返ってレオンは眉間に皺を寄せた。


「……魔狼退治の件はわたくしはとても助かりました。王宮のパーティーもマナーやダンスに優れる令嬢としてカイル様を助けたかったのだと思います。エル様は誰かを助けたい思いで動かれます。決してわけもなく無謀なわけではございませんわ」


「犯罪組織もね……あのままだったら、僕は魔物の生き餌ショーの主演にされていたよ。エルをはじめここにいるみんなのおかげだって深く感謝してるよ、無事に生きて逃げられた」


「まってミルリーゼちゃん何その物騒な催し」


 オズは苦笑いしてミルリーゼが口にした恐ろしい言葉に突っ込んだ。そしてレオンはふたたび首を傾げる。

 はたしてミルリーゼが旅に加わってからの言動は『深く感謝』している者のものなのか?

 そう考えると甚だ疑問が浮かぶからだ。


 主にわがままを言って、こちらの都合を無視して無茶振りをして、ああ言われたらこう言い返す徹底的な口答えをして、好き嫌いと夜更かしを毎日マイペースに彼女は楽しんでいる。


「どちらにせよ帝国派の貴族が王宮に潜んでいたとしても、わたくしはパーティーに参りますわ。この身に変えてもカイル様をお守りします」


「いやいやセラフィナちゃんがカイルに守ってもらえよ。奴はまだ若いけど騎士だぜ?こういう時に男を立てるのがいい女って奴だよ」


 皮肉に笑いながら促すオズの隣でレオンは口を手で覆ってからそっぽを向いた。

 そのカイルと同じガラハッドの騎士である若者たちとこのシスターは拳で殴り合い、勝利を収めたことはレオンは黙っているつもりだからだ。


 武器の有無ではわからないが、素手での戦闘なら騎士志願のカイルよりシスターのセラフィナの方が絶対に強いとレオンは確信していた。


「お姉ちゃんたち、ダンスの練習は順調?カイルはお姉ちゃんの手を握れるようになった?」


「ふふふ、カイル様よりエル様と踊っている時の方が多いぐらいですわ」


 講師役のエルはダンスの実力者で、女性パートも男性パートもほぼ完璧にマスターしている。

 どうやら上手く踊れないカイルに変わり彼女がセラフィナの手を取っているのだろう。


「……ダメじゃないか、何をやっているんだあいつは」


「思春期で初々しいねえ、家や王宮が関わってなければ揶揄ってやりたいわ」


 オズは腕を組んで、頬を染める仲間の少年を想像して乾いた笑みを浮かべた。

 彼のその頼りない肩に、この地を治めるガラハッド辺境伯家の未来がかかっているのだ。

 変なちょっかいは出すべきではない。


「おいレオン、ちっとは女の口説き方でも年長者として伝授してやれよ。聞いたぜ、おまえさん旧都で女口説いたんだろ?」


「…………オズ殿、その話をどこで?」


 レオンはミルリーゼによりもたらされた旧都のナンパ情報から始まった一連のバイト雇用騒動を思い出して眉を寄せる。


「そりゃうちには優秀な情報屋がいるだろう」


「知り合いのマダムから聞いたよ!僕の情報網を甘く見ないで!」


 優秀だと褒められて、誇らしげなミルリーゼが小さな胸を張ってドヤ顔をする。

 レオンはその顔を見ながら急激に頭が冷えるのがわかった。


「は?」


「えっ?お兄ちゃん何怒った顔をしているの?どしたん?話聞こうか?」


「………」


 レオンは慌てて顔を背けると、これまで勝手に犯人だと決めつけて勝手に怨恨の念を抱いていたカイルの存在を思い出して、心の中に謝罪する。


 彼は無実潔白だったのだ。


 勝手に恨んでいただけで恨み言を口にしていないのだけは幸いではあった。態度に思いっきり出ていたことは、きっぱりとなかったことにした。


「お兄ちゃん?バイトはいつからにする?雇用契約書は次会った時に渡すか………」


「………」


 レオンの手がいつものテンションで、ぺらぺらと隣で話し出したミルリーゼの頭を掴んだ。

 目一杯力を込めて鷲掴み、爪を食い込ませる。


「いたいいたいいたいいたいいたいやめてお兄ちゃん、いだいいたいいたいいたいって」


「あっこらレオン、またそうやって暴力振るうからおまえさんは勘違いされる……いっでえ無言で蹴るな!オジさんたちなんかした!?」


「女殴ったってエルに言いつけてやる!!いたいいたいいたいよおおお助けてお姉ちゃん」


「レオン様。女性に暴力を振るったらダメですよ?」


「騎士団相手に殴り込みもダメですよ。セラフィナ嬢」


「え?なに?二人ともそんな仲悪かったっけなんか怖いんだけどこの空間」



 寒気を感じたオズは、向き合って笑い合う男女にただならぬものを感じながら、一人酒のグラスを煽った。


オズはちょっと女性観が古い

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