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饗宴編 とある貴族の生存戦略

王宮サイドです。

時系列は少し前です。


エドワルドは学園編とレオン視点に出てきたエルのお兄ちゃんです。

アッシュは奔走編???視点で出てきた第二王子です。

 




「カトリーナ王妃陛下、エドワルド・ロデリッツと申します。父が過労にて倒れた為、代理での会議への参加をお許しください」


 アステリア王宮・会議室にて


 人形のように整った顔立ちの青年は少し緊張をしたような面持ちで王妃カトリーナはじめ他の公爵の揃う場にて一礼した。


「私はロデリッツ公の登城はまだ許しておらぬが」


 ギロリと冷たい面持ちの女性は睨む。

 扇子で口元を隠し品定めをするように、目の前に立つ謹慎を命じた公爵の息子を見回した。


 先ほども述べた通り、エドワルドは繊細な人形のように整った容姿をしている。きめ細やかな白磁の肌と金糸雀金の髪の美しい青年だ。

 エメラルドグリーンの瞳は、逃走中の公爵令嬢エスメラルダと同じ輝きを放っている。

 その彼女と同じ血が通う兄なのだ、美しいのは当然である。


 カトリーナの実の息子のアルフォンスは王太子として優雅に美しく正統派な美形、そんな彼とはまた違った繊細さを感じさせる青年だ。

 深窓の令嬢が男になったような印象のエドワルドの儚げな美貌は、率直に言えば美しい男が好きなカトリーナの好みである。


「………まぁ良い、あの頭の硬い古狐がいるよりは場の空気が多少はマシになるだろう。ロデリッツ公子、おまえの着席を許す。ロデリッツ公の代理として励め」


「……義姉上、なりません。ロデリッツ公は謹慎の身、何故その息子が許されるのでしょう」


 異議を唱えたのは筆頭公爵家デュラン家当主のデュラン公だ。


 彼もまた、舞台俳優のような整った容姿を持っていた。

 ここにいる他の公爵より歳がだいぶ若く、彼にエドワルドと同年代の息子がいるという事実を初見で見抜くのは実質不可能だ。彼の息子、ヴィンセントが隣にいたらデュラン公は父親より歳の離れた兄と大多数には認識されるであろう。


 彼は三年前に亡くなった前国王陛下の、妹姫を妻に娶ったことでこの国で二番目に権力のある公爵家となったデュラン家の当主だが、その肩書きを背負うには些か貫禄と威厳が足りず他の公爵たちより少し浮いた雰囲気を持っている。


 わかりやすく言うと、舐められているのだ。


「デュラン公、カトリーナの寵愛が移りかけて焦っているのかね」


 カトリーナ王妃の実兄であるアルバート公が皮肉に笑う。その瞳のぎらつきは王妃と同じくらい冷淡で、彼の指に嵌められた宝石の大きさは彼の財力を示していた。


「若輩の身ですが、どうぞよろしくお願いします」


 エドワルドは丁寧に一礼すると、一番端の席に腰を下ろす。

 建国よりこの国を支える名門公爵家の公子が末席を自ら選び腰を下ろしたのである。


「きちんとわきまえられておるではないか、デュラン公、おまえにないものだ。少しは公子を見倣うが良い」


 カトリーナ王妃は、そんなエドワルドの様子を見て目を細めた。




(……ロデリッツ公の策略か、上手いな)




 部屋の片隅で一連の流れを見ていた第二王子のアッシュは、カトリーナ王妃の隣で静かにここにいない公正で厳格な公爵の手腕を評価した。




 公爵令嬢エスメラルダの逃走から一月以上が経過した、依然その足取りは掴めておらず「エスメラルダの身を差し出すまでは顔を出すな」と王妃に命じられているロデリッツ公の不在のまま残った王家と三つの公爵家で行う会議はロクな議論もせず身内の繁栄のみを最優先にしたひどいものであった。


 それでもアステリア王国の比較的平和な現状が、横暴な状態でもそこまで悲惨な事態にはならずに済んだがここに災厄が万が一訪れたらこの国は根幹から崩れてもおかしくないのである。


 見せしめのように、第二王子のアッシュは病弱な体に鞭を打つかの如く継母カトリーナにより定期的に会議の場に参加させられ続けていたが、発言権の与えられない彼にとっておかしくなっていく亡き父の愛した国を見せつけられるような状態だ。


 それは彼の病に冒された身体だけではなく、心まで大きな負担となった。


 まだ厳格だが公正なロデリッツ公が会議の場にいたら、おかしな議論もある程度修正してくれたが、彼が不在のうちに行われる、軌道修正のない権力者たちの戯れは誰にも止められない。

 無秩序に税は増され、彼らの私腹を肥やすことのみが最優先の議題となる。


「では会議を始める。公子よ、分からないことがあったなら何でも聞くが良い。おまえとは仲良くしたいものだ」


 カトリーナはそう言って本日の議題、新しく建設する関所を通過する際の税金についての議論を始めた。






「アッシュ殿下」


 本日の会議が終わり、離宮へ帰るふらついた足に声がかかる。


 アッシュが振り返ると、エドワルドが立っていた。


「ロデリッツ公子……」


「父より、王宮の公爵会議に参加できるだけの知識と技能を叩き込まれておりました。登城が遅れ大変申し訳ございません、殿下の力になるようにとの申し付けです」


 エドワルドは抑揚のない声で静かに語る。

 表情は依然として無いが、これは非情なのではなくエドワルド本来の性格からなのだと推測する。

 アッシュは過去に、彼の父であるロデリッツ公から「息子は常に無表情」と聞いたことがあったからだ。


 そしてアッシュは、この場にいなくても自分を思い、救いの手を差し出してくれたロデリッツ公の優しさに内心胸を温かくする。


 現に本日の会議は、麗しい美青年に見栄を張ったのかカトリーナ王妃は普段よりは為政者として少しだけ真っ当な言動であった。


 アッシュはエドワルドとは初対面だが、どこかこの人形のような繊細な公子は気の置けないような気がした。


「離宮までお供します、さぁ手を」


「すまないロデリッツ公子、私の唯一の家臣が不機嫌な王妃に王宮への出入りの禁止を喰らってしまって困っていたのだ……とても助かる。それに実を言うと最近はもう歩くのが少し辛くてね」


「ごゆっくりで構いません。病床のアッシュ殿下を支えるようにとの指令です」


 麗しい青年に支えられ、灰の王子は歩いた。

 王宮を抜けて、庭園を通り、王宮から離れた場所にひっそりと立つ寂れた離宮へと戻る。




「殿下、私は毎日は城には来れません。おそらく登城を重ねすぎると、非力な私では、いとも簡単に目障りに思うもの達に消されてしまうでしょう」


 筆頭公爵家当主のデュラン公のエドワルドに向ける目は明確な敵意があった。


 エドワルドさえ来なければまだ若い、男盛りのデュラン公はカトリーナのお気に入りだったのだ。


 会議はデュラン公の意によって流れ、筆頭公爵家にまず利益が生まれるように進む。そして彼の家が潤うことによって相乗効果で富が他の公爵家へと流れるように進むのだ。

 真っ当で公平な意見を持つロデリッツ公の意を継いだエドワルドの存在は、自家の繁栄を望む他の公爵家によっては些か邪魔な存在である。


「……理解している。おまえのような公子がいることだけでも私には救いだ」


「ありがとうございます、それとこれは父からです。ロデリッツ家の専門医に作らせた解毒剤です。おそらく快復は難しいとのことですが、多少はマシになるとのことです」


「重ね重ねすまない、ロデリッツ公の尽力に感謝する」


「ですがアルバート家の毒には到底敵いません。気休め程度とお思いください」


 アッシュは現在、原因不明の病ということになっているがおそらくだが彼が口にするものに微量の毒を混ぜられている。


 その毒の出自は確実にカトリーナの実家で、毒の名門と裏の世界で名高いアルバート家だ。

 彼の体は毒に侵されて、いつ倒れてもおかしくは無い状態なのだ。


「なんとなくだが、私は兄上の婚約パーティーで私の姿を晒された後に始末されるような気がするのだ」


 麗しの美青年の高貴なる王太子アルフォンスと病に侵された見窄らしい灰の王子アッシュ。

 どちらが次の王座に相応しいか、国中の貴族にカトリーナは知らしめるつもりだろう。


 そして、その後にアッシュが王宮の闇に沈んだところで、アステリア王国には美しく健やかな自分の息子であるアルフォンスがいるので何の問題もないと言い切るのだろう。


 残酷な王妃が嬉々として選びそうな手段だ。


「血眼で探しているロデリッツ公には申し訳ないが私は公子の妹君が逃げ切ることを祈っている、王宮ここは腐敗しすぎた。彼女が関わることがなくて安心している」


 アッシュはかつてこの国の次期王妃となる予定であった、翠玉の公爵令嬢を思い浮かべる。

 彼女の誇りを今の王宮で淀ませる事なく保つことはできただろうかと考える。




「……私が亡き後は、できたらたまに墓を参りにきてくれたら嬉しい。死体が見つかればの話だが」


「……諦めないでくださいアッシュ殿下」


「アルバート家の毒薬は、この国のどの名医より鋭い。おそらく奇跡を呼ぶ聖女が現れぬ限りはもはや私の身体の完全な解毒は不可能だ。それこそ建国神話の聖女ルチーア並の聖性の持ち主が現れぬ限りはだ」


 アッシュは自らの置かれた残酷すぎる環境を皮肉に笑う。


 この時代にはルチーア教会に認められた公式な聖女はいない。治癒術の使い手はいるが、王宮と教会は共に不可侵の領域で基本的に交流は皆無である。


 それに、王妃が形だけでも治療したとなるように呼んだ治癒術師たちはどの者もペテン師のような印象であった。




「聖女ルチーア……」


「一番聖女と呼ぶのに近いのは建国の聖女ルチーア・リュミエールの血を引くリュミエール家の娘だが、彼女は数年前に地方の修道院に去ってしまったらしい。王都にいたら聖職者の身で権力闘争に巻き込まれる可能性があるからね、年頃の娘なら懸命な判断だよ」


 たとえ聖女の称号を持たぬ存在でも、伝説の聖女の血を自分の家に入れようと考える貴族は少なからずいるだろう。平民の娘にそれを拒む力は皆無だ。


 王都にあるリュミエール家には、従者のユーリスを派遣させたが持ち帰ってきた現実は非情であった。

 呼び寄せようにも、問い合わせたらその田舎の修道院からもすこし前にどこかに旅立ってしまったらしい。


「……それでも私は殿下の力となります、薬はできるだけ定期的に届けます。どうか諦めないでください」


「エドワルド、おまえも十分に注意してくれ。カトリーナ王妃は美しい男が好きだが、一番好きなのは“美しい男が苦痛に顔を歪ませる姿”だ」


「………」


 アッシュはそう言って警告をすると、そのまま離宮から出迎えにきた彼の唯一の従者に迎えられる。


「ユーリス、ロデリッツ公の子息だ。世話になった」


「………尽力、感謝します」


 エドワルド以上に表情の乏しいユーリスは、榛色の目をエドワルドに向けてから静かに一礼した。


 エドワルドは物静かな従者に礼をするとそのまま踵を返して立ち去った。


 王宮の闇は、彼の予想より何倍も深いようだ。




王宮視点はエルの兄のエドワルドが主人公です。



ヴィンスの父はアラフォーくらいをイメージして書いてます。ヴィンスが18歳なのでかなり若いお父さんです。

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