饗宴編 災禍の手紙①
※ちょっと不穏回
ガラハッド再滞在、二日目。
相変わらずのカイルの母の盛大な歓迎で夜を過ごしエルたちはガラハッド邸にて冷たい冬の朝を迎えた。
オズはやはり酒場から戻ってこなかったし、ミルリーゼは借りた店舗をこれからの本拠地にすると言いロッドを引き連れて屋敷を出て行った。
後で様子を見た方が良いかもしれないな、とのんびりと考えていると、エルの使わせてもらっている部屋にノックの音が響く。
「はーい、ごめんなさい今起きたから少し待ってもらえる?」
「悪い、オレなんだけどゆっくりでいいから支度が終わったら居間にきてくれないか?」
「カイル……ええ、わかったわ」
なんとなく自分を起こしに来たのはレオンかセラフィナかと思ったら、ドアを叩いたのはカイルであった。
彼の家だからおかしいわけではないが、朝に少し弱いエルを起こすのは大抵前述の二人なので珍しくはある。
エルは急いで寝台を抜け出すと、すっかり冬に染まり極寒の街の朝の空気に包まれながら身支度を整えた。
「お待たせしたわ……皆いるのね。どうしたの?」
エルが着替えと寝癖を直した後にカイルが示した部屋に入ると、すでにエルの仲間たちが揃っていた。
ガラハッド邸に宿泊したレオンとセラフィナ、昨夜は店に行ったミルリーゼとオズの姿もあった。
配慮をしているのかオズはボロボロのローブはやめて、比較的普通な服を着ているので珍しい。
彼が無精髭を剃って、髪を整えているとエルが想定していた年齢よりもだいぶ若く見えた。
「おはようございます、エル様」
「おはようございます、良いお目覚めですか?」
「レオン、セラフィナおはよう。ミルリーゼとオズは一緒にいたの?」
「そだよ、おじさんは昨夜は僕の借りた店にいたよ」
ロッドもいたけどと付け足してミルリーゼはテーブルに出されていたお菓子を遠慮なく頬張っている。
膨らんだ頬が、なんとなくちいさなリスを彷彿とさせた。
「ここにいる間は、ミルリーゼちゃんのところで部屋を借りることにするわ。そっちの方が酒場に近いからね」
「オズ殿、酒はほどほどに」
レオンのお約束の小言にオズは苦笑する。
「オズ、あなた今日はずいぶんと男前じゃない。ずっとその姿をしていなさいよ。正直いつものあなたは不審者よ?」
「あらお嬢様、オジさんに惚れちゃった?………痛ッ、おいレオンさんよぉ、あなたの足が当たってますけど」
「すまない、俺の足が長すぎてしまったようだ」
オズのいつもの軽口に、即座にレオンが机の下で蹴りを入れたのがわかった。
相変わらずツッコミで忙しい。
間に挟まれているセラフィナは反応に困って若干、戸惑っているのがわかる。
「……あの、話を始めても良いか?」
いつまで経ってもターンが回ってこなさそうなのを察して、カイルが恐る恐る手を上げた。
「いいわよ、どうしたの?」
「あのさ、こんな手紙が届いて……一応知らせた方が良いと思ったんだけど」
カイルはそう言って、豪華な封筒を取り出した。
それに押印されている紋章は、エルが見慣れたデザインで目に入った瞬間エルは少し自分の呼吸が荒くなるのを感じた。
「アステリア王国の王室印じゃん!」
貴族令嬢であるミルリーゼが、仲間の中で一番早く反応する。
「なんできみに?」
「アルフォンスから届いたんだ……あの野郎、俺が刃向かったことをまだ根に持ってやがる。陰湿な野郎だぜ」
「王太子殿下を悪く言うな。まぁ、同意するが」
カイルの悪口をそっと嗜めて、レオンは封筒に同封されてた手紙を読んだ。
『背景、愚かなカイルへ。そろそろ反省したかい? どこで何をしてるか僕の知ったことじゃないけど謝罪したくてたまらないきみに、謝罪する機会をあげるね。次の春の候にリリエッタとの婚約披露パーティーを王宮で開くので是非きみもパートナーを連れて出席してくれたまえ、きみの“素敵なダンス”をみんなの前で見せてくれたら、寛大な僕は許す気になるかもしれないね。王室と辺境伯の関係を考慮の上で参加の有無を聞かせてくれ。くれぐれもきみの冷静な判断に期待しているよ。追伸、きみ、エスメラルダと浮気してたらしいね。つくづく失望したよ』
「なにこれ……きっしょ!!」
「だろ? マジむかつく!! あいつら、オレを晒し者にしようと企んでるんだぜ……というか、浮気したのはおまえだろうが!!!」
「こんなもん、さっさと燃やして捨てようよ!! おじさん、火をつけてよ!」
カイルとミルリーゼは、顔を赤くさせて怒りを露わにするが大人組の反応は冷静であった。
「……カイル、これはおまえの判断で捨ててはダメだ。内容はふざけているが王室からの手紙を無下にしたら最悪の場合、反逆罪に問われる可能性すらある。対応はガラハッド辺境伯と相談しろ」
レオンは事態の大きさを把握して、頭を抱えながらため息をついた。
「これが次の王位継承者とは涙が出るねェ」
オズは手紙の文字を見ながら皮肉に笑う。
セラフィナも心配そうに手紙を眺めた後、ふと気づいて隣で固まっているエルの顔を伺った。
「…………エル様?」
「………」
エルは小刻みに震えながら、荒い呼吸を繰り返している。
その顔は真っ青で、いまにも倒れてしまうのではないかと思うくらいにその表情は歪んでいた。
「エル様、お加減が悪いのですか?」
「………ぁ」
大丈夫、と答えようとしたが声が出なかった。
口の中の水分が一気に消えて、ぱくぱくと乾いた口内はうまく酸素が吸えない。
「エル様、大丈夫ですか?」
エルの異変に気づいたレオンも速攻で駆け寄り、彼女に寄り添う。
「カイル、その手紙とりあえずしまっとけ。こんなん見たら気分悪くなってもおかしくない」
「あ……ゴメンそうだよな!悪いエル、オレそんなつもりじゃ……」
オズは出しっぱなしの手紙をしまうように提案する。
慌てたカイルが言われた通りに慌てて手紙を懐にしまうが、エルはテーブルに手をついたまま大きく震えて何も喋らない。
「エル……だ、大丈夫?」
ミルリーゼも心配そうに近寄るが、そこでエルのトラウマは発動した。
ミルリーゼの姿が、かつて学園で彼女を罵り陰湿に嘲笑い、断罪劇で晒し上げた女子生徒たちの姿と重なって見えてしまったのだ。
「いや……来な……いで」
「えっ」
突然の拒絶にミルリーゼも顔を青くした。
伸ばした手が、行き場を失い宙を泳ぐ。
「ごめ……ごめんな……さい」
エルはなんとか謝罪の言葉を居間に残すと、そのまま口元を押さえて部屋を飛び出した。
これはひどい
ちょっと不穏回が続くので、次回は更新を早めにします。




