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饗宴編 ふたたびの辺境

 





 久しぶりに再会したエリザベートをはじめガラハッド家には特に変わりはなく、辺境伯であるカイルの父も辺境伯夫人であるカイルの母も無事に旧都から戻ってきたエルを見て大いに喜び、「辺境にいる間は、またうちに泊まって行って」と快く迎えてくれた。


「エルさん〜」


 エリザベートは、屋敷にやってきたエルを見かけると喜び、急ぎ足で玄関から飛び出して抱きついた。


「また会えてとっても嬉しいわ、いつまでいるの?また一緒に遊べる?」


「もちろんよベティ。知り合いが辺境の街でお店を開くっていうから付き合いで戻ってきたのだけど、とりあえず開店を見届けるまではいる予定よ」


「……知り合い?」



 ちょうどその時、辺境伯に挨拶すると言っていたミルリーゼが屋敷から出てきた。後ろにはレオンの姿が見える。


「ミルリーゼ、お疲れ様。ちょうどあなたの話をしていたの。営業許可はもらえた?辺境伯に失礼なことしなかったでしょうね」


「勿論。バッチリさ。なぁお兄ちゃん!」


「………その言葉に相違はないとだけ言っておく」


「?」


 変な言い回しをするレオンに首を傾げながら、エルはエリザベートにミルリーゼを紹介しようと彼女を注目させる。


「ベティ、彼女がそう。ミルリーゼっていうの」


「えっ、この子がお店を開くの?まだ子供じゃない?」


「はぁ!?なんだとおま……んんッ!?!?」


 ミルリーゼの小柄で、三つ編みヘアという幼く見える容姿にエリザベートが率直な意見を述べる。

 エリザベートに“子供”と呼ばれて、反射的に怒りそうになるミルリーゼの口をレオンが抑えた。


 ミルリーゼは異様に悪口のレパートリーが多いので、純粋なエリザベートの耳を汚す前の迅速な処置だ。


「ベティ、ミルリーゼは私と同い年なの」


「えっ!?ってことは兄貴と一緒なの?」


「そうよ。学園の同級生だったの」


「ふーん……」


 エリザベートはエルの腕を掴みながら、目前でレオンに羽交締めにされて抵抗してるミルリーゼをちらりと見る。

 エルにはその目が少し冷淡に見えた。


「(ベティは女の子の友達が少ないって言ってたからミルリーゼを紹介しようと思ったけど、あんまりノリ気じゃなさそうね……オズに会った時も思ったけど、案外人見知りするタイプなのかしら?)」


「エル様、ミルリーゼ嬢はご退場願いますか?エリザベート嬢に悪影響と思われますが」


「いいわレオン、離してあげて。……ミルリーゼ、お上品にしてね、ベティはカイルの妹だし辺境伯のご令嬢なのだから」


 エルはレオンにそう指示をして、軽くミルリーゼを嗜めた。

 エルの指示に従い、レオンはミルリーゼの拘束を解く。その目は、またミルリーゼが何かをやらかしたら即手が出るタイプの監視モードに入っていた。


「へいへい、……こほん。紹介にあやかりましたミルリーゼ・ブランです。お会いできて光栄です〜どうぞよろしくお願いします。カイルの妹のエリザベートさん〜」


「………どうも」


 ミルリーゼは表面状は丁寧な言葉を並べて挨拶をした。言葉に棘を感じたのか彼女を見るエリザベートの目は怪訝である。


「可愛くないガキだ……おっと、お兄ちゃん、いま僕の三つ編み引っ張ろうとしたね」


 ミルリーゼはレオンの攻撃を察知したのか、レオンの手が伸びる前に自分の髪を掴んで保護した。

 攻撃が空振りに終わったレオンは舌打ちをする。


「おまえ、エル様がなんと仰ってたか忘れたか!?その口の利き方!」


「ああん!?十分お上品にしてるだろうが!?お上品コンテストがあったら優秀賞狙えるレベルだよ!!」


「おまえ、さっきの礼儀作法はどうした!?」


「知るかい!過去など忘れた!僕は未来に生きるんだい!!」


「……エルさん、レオンさんとミルリーゼさんは漫才のコンビでも組んでいるの?」


 一連のやりとりを眺めながら、依然エルの腕を掴んだままのエリザベートが尋ねた。

 以前ガラハッド辺境に来た時は、エリザベートはレオンを『都会の男性は素敵』と憧れに近い感情を抱いたので落差に驚いたのだろう。


 エルは返答に困り、笑って誤魔化した。




 ガラハッドの街に着くと、オズはやはり以前と同じく自らの風貌とそれを見たガラハッド家の感情を考慮してガラハッド邸への訪問は避けて酒場に消えた。

 前回の出発時の盛大な二日酔いを覚えていたのか、「酒は軽く飲むだけにするよ」と言い残してはいたがまだ日が高い時間に酒場にいる時点でとエルとしては首を傾げたい。


 セラフィナは屋敷まで一緒にいたが、彼女の姿を見たガラハッド伯夫人に「あらあらまぁまぁまた来てくれて嬉しいわ」と捕まり、また夫人の付き添いをすることになった。

 カイルの母であるガラハッド夫人は、前回に訪れた時からセラフィナの穏やかで貞淑なところをとても気に入ってセラフィナにいろいろと気を向けている。


 ガラハッドの街の嫁不足問題と18歳の貴族子息でありながら婚約者のいないカイルに対しての母親の手回しも感じるが、その辺りは本人の問題なのでそこは深入りしないでおいた。


 セラフィナが困っているようならエルから夫人を止めるが、本人も気の良くておしゃべり好きな夫人の家事を手伝う姿からは、そこまで忌避感を感じないのでしばらくは様子見だ。

 カイルは年齢不相応に恋愛耐性がないので、先は長くも感じるが。




「ねぇ、エルさん。そういえばエルさんが前に街を出ていった後に王国の騎士団の人が来たのよ。お父さんは気にするなって言ってたけど」


「えっ」


 突然のエリザベートからの情報にエルは驚いた。

 旧都に向かう道や、旧都から帰る道のりで何度も自分たちを探す王国騎士を見てはいたがまさか国の端であるこの街まで来ていたと知って背筋が冷える。


「しばらくなにかを探してから、街を出て行ったけどエルさん気をつけてね!お父さんがエルさんたちは何も悪くないって言ってたし、アタシもエルさんの味方だからね!」


「ありがとうベティ、迷惑をかけてごめんなさいね」


 自分を慕う年少の少女の言葉に胸に温かいものを感じたエルは、そっと彼女の赤い髪を撫でた。


 そして改めてこの街の、確実な味方がいるという心強さと温もりに感謝した。


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