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饗宴編 冬のおとずれ③

 




 翌朝、吹雪が去り山道に多少の雪は残ったが快晴となった。本日も問題なく旅路は出発できそうだ。



「ふあ〜ぁ、おはようございます」


「ロッド様、おはようございます」


 朝一番早く起きて朝食の支度をしているセラフィナへ、起きてきたロッドが声をかける。


「シスターさん、朝早いんですね」


「ロッド様も早起きですね、皆さんまだ休んでおられますよ」


「俺は……えっとすみません、今から見ることはあんまり他言しないでもらえると助かります」


 そう言ってロッドは実はこっそりと持ってきた鳥籠から一羽の鳩を取り出した。

 何かを書いた手紙を足にくくりつけて空へと放つ。


「お手紙ですか?」


「はい、王都にいるミルリーゼさまのご両親宛です。近況報告をしています。旦那様も奥様もミルリーゼさまを本当に大切に思っていて心配しているので……お嬢さんは異様に王都に行くのを嫌がるのでもう一年ちかくご両親とはお会いしてないですね」


「まぁ……事情がおありなんでしょうね」



 ミルリーゼによって行われたソフィアの過去話は、あの時に幌馬車の荷台にいたエルとオズのみ知っている。

 運転席にいたロッドには聞こえなかったようだ。


 もしかしたらオズが防音魔法をかけたのかもしれない。



「ロッド様はブラン商会の皆様がとてもお好きなのですね」


「あ、はい……俺、孤児だったんで拾っていただいた旦那様には本当に感謝しています。家族みたいに思っております」


「まぁ……そうだったのですね。わたくしにお話してしまって良いのですか?」


 ロッドは自分の過去をあっさりと晒した。

 突然の暴露にセラフィナが戸惑う。


「構いません。シスターさん、ミルリーゼさまがこれからもご迷惑をおかけすると思うのですがどうかよろしくお願いします。ブラン商会は雑貨業としても情報屋としてもエルさんに尽くすので、どうぞよしなに」


 そう言って丁寧に頭を下げるロッド。

 エルと一番親しいのは同性であるセラフィナだと思ってのことなのだろう。

 そして、同じく同性のミルリーゼが今後お世話になると予想しての改めての挨拶なのだろう。


「ご丁寧にありがとうございます。ロッド様、わたくしでお役に立てる事がございましたら、なんなりとお申し付けくださいね」


「シスターさんには頭上がんないです。胃痛とかでお世話になってます……もうなんか慢性的なのか全然治らなくて」


「……今度信仰都市にいるわたくしの父を紹介しますね。お医者様のような仕事もしているので」


「本当にかたじけないです。ミルリーゼさまのお付きの仕事が辞められたら多少は改善する気もするんですけどね……いてて」


 思い出し胃痛をしながら、ロッドは苦笑した。






 朝食を済ませてから、一行は小屋を片付けて再度、辺境へ向けて出発した。

 カイルの読み通りなら、陽が暮れる前には彼の故郷へ着く計算だ。


 前回は追っ手と遭遇する可能性のある大きな街道を避けて山道を進んだので巨大な蜘蛛や猪の魔物との壮絶なサバイバル鬼ごっこが展開されたが、今回は大きな街道を選択したので、ガラハッド騎士団の討伐が行き届いているのか魔物の遭遇も少なかった。


 一行は順調に山道の街道を進め、予定よりも早く辺境のそばへと戻ってきた。


「街についたらさ、ブラン商会の店を出す許可をもらいたいんだけど誰に許可取れば良いかカイルはわかるかい?」


「領主は親父だから、親父じゃないかな?」


「そうなんだ、カイルの親父さんに取り次いでもらえたりってお願いできるかな」


 ミルリーゼは本当に辺境で新しい店舗を開店させる気らしい。

 ガラハッドの街は旧都ほど人口が多くないので、経営は不穏そうだと旧都時代の商会の閑古鳥の鳴き具合を知っているオズはこっそりと思った。


「ミルリーゼ嬢、あらかじめ言っておくがガラハッド辺境伯の前で不躾なことはするなよ。言葉に気をつけろ」


「やだな〜、僕が不躾だった事があるのかい?いつだって立派な淑女だろ?」


「あ、自分が許可もらうんでミルリーゼさまは関わらなくていいっすよ。カイルさんよろしくお願いします」


「おう、まかせとけ!」


 謎の自信で胸を張るミルリーゼの隣で、本日も運転席に座るロッドは胃を抑えながら立候補した。


「おいおい僕も行くからな!これから商売でお世話になるのに挨拶しないのはありえないからな!大丈夫だってちゃんと礼儀正しくやってやるって、学園時代の僕が『大人しくて控えめな子』で通ってたのは知ってるだろ!あのノリでいきゃいいんだろ、なぁエル」


「そういえばそんな設定だったわね、あなたあれも演技だったの?」


 ロッドの肩をバンバンと叩きながらミルリーゼは自信満々に言い放つ。

 エルはそんな彼女の過去の姿を思い出した。


「ガラハッド辺境伯のところへは俺も行く。おまえが何かやらかしそうな気配をしたら速攻手刀で落とす」


「レオンさん助かります。お嬢さんマジでちゃんと真面目にやってくださいね、初対面の人に失礼なことしないでくださいね」


「大丈夫だって〜心配症だなあ、ロッドもお兄ちゃんも」


 ケラケラと笑うミルリーゼに、一向の頭には『不安』の文字が大きくのしかかった。







「ブラン子爵家、ブラン商会のミルリーゼ・ブランと申します。この度は閣下にお目通り叶い、至極光栄に至ります。空き店舗まで快くお貸しいただき本当に頭が上がりません。このご恩は忘れずに、閣下の領地での営業を励まさせていただきます」


 ガラハッド辺境に到着して早速カイルの家の、ガラハッド辺境伯の執務室にやってきた一行は、さくっと営業許可を申請した。


 旧都からの旅路をカイルが説明すると、彼の父であるガラハッド辺境伯は快く許可と、ちょうど店主が老齢の為、閉店してから誰も使っていないので持て余している街の中の店舗をブラン商会に破格の値段で貸してくれるというのである。


「ミルリーゼ嬢、ウチの娘と同い年くらいかね?ずいぶんしっかりとしたお嬢さんだ。ブラン商会というのはさぞや立派な商会なのだろうね」


「あら、ごめんなさい閣下、わたしカイルさんと同い年でございますわ」


「これは大変失礼した。何か困った事があったらいつでも尋ねてきたまえ、カイル、ミルリーゼ嬢の荷解きを手伝ってやりなさい」


「…………」


 カイルの顔には、お行儀良くするミルリーゼに対して『お前、誰?』と書いてある。


 同室にいるロッド、レオンも同様だ。


「カイル、聞いているのか!!」


「あ、はい!!!」


 返事がない息子に喝を入れる辺境伯。

 だが無理もない、ミルリーゼがこんなに行儀が良い姿はロッドでさえ初めて見たのだ。


「ありがとうございますカイルさん、それでは閣下失礼いたします。また開店準備が整いましたら改めてご挨拶に伺います」


 ミルリーゼは部屋を出る瞬間まで礼を欠かず、寸分狂わぬ完璧なカーテシーまで披露して部屋を出た。




「………変なものでも食べたか?」


「ああん?」


 部屋を出て開口1番、レオンは心配そうにミルリーゼの額に手を当てた。熱は特にないのを確認する。


「だから『ちゃんとやる』って言っただろうが、これから世話になる人の前でみっともないところ見せられるかよ。はぁ疲れた、カイル馬車の荷物全部店に運んどいて〜」


「え、……あっ、うん」


「すいませんカイルさん、俺がやるんで大丈夫っすよ」


 ミルリーゼの切り替えの速さにカイルはついていけず、ロッドがそっとフォローした。


「エルはどこ?」


「エル様はカイルの妹のエリザベート嬢に会いに行っている、ほらあそこにおられるのがそうだ」


「ふーん」


 ミルリーゼはレオンが示した窓の外を見た。

 ちょうど中庭にいたエルの前には、カイルと同じ赤い髪の少女が嬉しそうに笑っている。





「あー明るくて素直な良い子系ね、困ったな僕とキャラ被ってんじゃん」


「一ミリも被ってないから安心しろ、ちんちくりん」






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