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饗宴編 冬のおとずれ②

 




 夜になり雪の勢いは更に強まり、時折山間を吹く風は山小屋の窓を強く打ち付けた。


「この勢いだと、明日の朝は積もるかもな」


 北国の育ちのカイルが、窓の外を埋め尽くすような勢いに過去の経験をもとに呟く。


「辺境の街まではまだあるのですか?」


「今日と同じくらいのペースで進めれば明日の夕方くらいには着くと思うけど、雪だと馬の足も遅くなるし、むしろ進むこと自体、明日は難しいかもな」


 隣で同じ窓を眺めるセラフィナが尋ね、カイルは外の馬小屋で、ロッドが防寒を整えている馬を見た。


 彼が寒さを少しでも防げるように温かい藁を大量に敷いて、体は厚手の布で覆っている。

 丁重に労われている茶色い馬は旧都から旅の間、ずっと馬車を引っ張ってくれていた大切な存在だ。


 できれば無茶はさせたくはない。

 そう思えるくらいに騎士志願であるカイルは馬に愛着が湧いていた。


「カイル、セラフィナ嬢すこしいいか?」


 窓の外を見る二人の背中にレオンが声をかけた。


「んーどうした?」


「レオン様、お疲れ様です」


 今夜は山小屋で夜を明かすことになったが、この山小屋は狭くて部屋が一つしかなかった。

 幸い暖炉と陽が高いうちに用意した薪が大量にあるので数日くらいなら問題なく過ごせそうだがなにぶん部屋が一つしかないのである。


 そう、ひとつしかないのである。


 レオンはその、ひとつしかない部屋の中央にチョークで線を引いた。


「オズ殿よろしいですか、この線を跨いだら殺しますので」


「名指しやめて」


「夜間にこの線を跨いだ異性は死刑です。ご理解のほどよろしくお願いします。よろしいですねオズ殿?」


 レオンは男女共に同じ部屋で過ごすことになるので、安全な夜を過ごすためのルールを設けた。


 部屋の真ん中で分けた男女のスペースをとり、暖炉側に女性を、出入り口側に男性を過ごさせることを提案したのだ。


 破った際の恐ろしい罰を告げるその目は、冗談のひとかけらもなかった。


「……名指しやめなさいよ、オジさん結構傷ついてるからね?」


「トイレに行きたくなったら?」


 レオンに呆れるオズの隣でカイルは尋ねた。

 山小屋のトイレは女性側の位置にあるのだ。


「漏らせ」


「えっ、ちょっとそれは……」


 彼が何よりも心酔するエルに不安な思いをさせまいとする守護者の優しさだ。

 エル以外(特に男)は、どうでも良いのが透けていて清々しい。


「私は別にそこまで警戒していないけれど、セラフィナやミルリーゼもいるから私の一存で決めちゃダメよねこういうの……」


「レオン様に従いますね、夜中にもし、わたくしがうっかり線を跨いでしまったらその時はお申し付けください」


「えぇ怖い!今夜はみんなでくっついて寝ようよ!エルの布団にみんなで!僕、子供体温だから抱きついて良いよ!あったかいよ!」


「あら本当だわ、ミルリーゼあなた結構体温高いのね」


「エル様、ミルリーゼ様、お風邪を召さないようにお気をつけてくださいね……ふふっ、こうしてくっついていると吹雪も忘れてしまいますわ」


 あっさりと受け入れた女性陣は、暖炉側に布団を敷いて寛ぎ始める。

 ミルリーゼの提案を採用して体をくっつけて眠るそうだ。


「(……なにこれ天国と地獄?)」


 オズは心の中で呟いた。


 男エリアはレオンが血走った目でオズを監視している。夜を徹して監視するつもりなのか、寝る素振りを見せない。壁にもたれかかりながらガン見する彼の手元に剣があるのが尚更怖かった。


 結構長いこと共に旅をしているのに、エルに心酔するあまり一ミリも信用されていないように感じて、せつなさが胸に沁みた。


「オレたちもアレやる?」


「……やめろよ、想像しただけで冷えるわ」


 カイルは単純に温かさを求めて、女性陣を指差したがオズは引き攣り笑いを浮かべてさっさと布団にくるまってしまった。

 ちゃっかり自分だけ、昼間エルとミルリーゼにかけた温かくなる魔法を使ってるようだ。


 ちなみにロッドは馬が心配なので、オズの防寒魔法を処置されてから本人の希望で馬小屋で寝ることとなった。

 馬の値段は、ブラン商会が旧都から持ってきた全ての商品よりも高いのでどうしても目を離したくないとのことだ。





「ねぇエル」


 明かりが消されて真っ黒な山小屋に不意にミルリーゼの声がした。


「なあに?」


 まだ起きていたのだろう、エルが微睡んだ声で答える。布の動く音が男性エリアにも聞こえた。


「好きな人っている?」


「……おい、ちんちくりん。このタイミングでエル様と恋バナを始めようとするな。次余計なこと話したら外に追い出すからな」


 徹夜をするつもりなのか、監視を続けるレオンが夜でもマイペースなミルリーゼを線の向こう側から嗜めた。


「(……そもそも婚約破棄された令嬢と恋の話をするんじゃないよ)」


 真っ先に寝たカイルの規則正しい寝息を感じながらオズは内心で突っ込む。




「私はあなたのことも結構好きよ、おやすみなさい」


 エルは静かに答えるとそのまま目を閉じた。

 だがミルリーゼはそこで止まらなかった。


「えっ、レオンよりも?チームの中で何番目に好き?エル起きて!教えて!」


「おい、エル様は寝るって言ってるだろうが!!!エル様の睡眠を妨げるな!!」


「レオンおまえもさっきからうるさいからミルリーゼちゃんと凸凹漫才したいなら二人して外でやってこいよ」


 両手で耳を塞ぎながら、オズは突っ込んだ。


「……ふふっ皆様、早く寝ましょうね」


 大人しくやりとりを聞いていたセラフィナの台詞は、言葉の通りの意味での発言だがなんとなく『全員うるさい』と言っているようにして気がならなかった。





恋バナって死語らしいですよ、レオン先生

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