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学園編⑦【リリィ視点③】

 





 生徒会室に飛び込んだあたしを迎えてくれたのは色とりどりのイケメン男子たちでした。


「わっ、何事だい?」


 ノックもなしに飛び込んだあたしを見て、書類の山に埋もれていた金髪の男の子が驚いた表情を向けてきた。


「えっとーあれー?ここどこですかー?」


 わざとらしく、さりげなくあたしはキョロキョロと何かを探るフリをして部屋の中へ入っていく。


 夢にまで見た王子様。

 金髪青眼の美少年、アルフォンス様のお側に近寄る為だ。


「ずいぶん可愛らしいお客さんだね、きみのことは知ってるよ転校生のリリエッタ・フローレンスさんだね」


 アルフォンス様に似た雰囲気の、銀髪の男の子があたしを見て柔らかく微笑んでくれた。

 アルフォンス様に比べたら、ムードとか話し方とかが少し軟派っぽくてあたしの好みから外れるかな。


「騒がしい方ですね、生徒会室は部外者は立ち入り禁止ですよ。お引き取りを」


 机に向かって何かの書類を記入していた青い髪の真面目そうな男の子がこちらに、いかにもカタブツですって声色で注意をしてきた。うわ!冗談が通じなさそうな眼鏡だわ、あたしこう言うタイプ苦手なんだよね。


「いいじゃねえかテオ。生徒会は男しかいないからムサくるしいと思ってたんだ!リリエッタちゃんだっけ?菓子でも食うかい?」


 ソファに座ってた筋肉質で大柄の人が、こちらに向かってキャンディを差し出してきた。

 この中で一番むさ苦しい人がこれを言うんだからあたしは少し笑いそうになる。


「あたし、友達とはぐれちゃって迷っちゃったんです!ごめんなさい生徒会の方々のお邪魔する気なんてないんです〜」


 そう塩らしいことを言いながら、あたしはちゃっかりとソファに座って差し出された飴の包み紙を受け取った。

 いつのまにか銀髪の人が、あたしの隣に座ってくる。

 見定めるようにあたしをジロジロ見てきてちょっとだけ気持ち悪い。


「リリエッタ、ここは生徒会室だよ。僕はアルフォンス・エーデル・アステリアって言うんだ。この国の王子だけど硬くなったりしないでくれ」


 アルフォンス様はそう言って、整った顔を綻ばせて微笑んでくれた。

 もう感激、あたしが会いたかった理想の王子様がそこにいるのだ。


「そしてボクがヴィンセント・フォン・デュランだよ。アルフォンスの従兄弟にあたるんだ」


「あっそうなんですね。どうもよろしくですー」


「……女の子にこんな塩対応されたのはじめてだけどよろしくねリリエッタ」


 ヴィンセント様は、ショックを受けたみたいに弱々しくなるとシオシオとした声で机に向かっている眼鏡くんを指さした。


「あのメガネがテオドールだよ。宰相閣下のご子息なんだ」


「……」


 ヴィンセント様の震える指は,あたしの向かいに座ってるでかい男を指さした。


「こいつはマクシミリアン、この学園でいちばんの強い、騎士団長閣下のご子息だ」


「リリエッタちゃん、よろしくな」


 マクシミリアン様はそう言ってくしゃっと人好きのする笑顔を向けてくれた。


 ふーん、まぁまぁかな。


 あたしはこの中だとアルフォンス様が最推しだけど、二推しを決めるならこの人かな。なんでそんなことを、飴を舐めながらのんびりと考えていたらアルフォンス様がわざわざ席を立ってこちらに近寄ってくれたのだ。


 ヴィンセント様が隣にいなかったら、あたしの隣に座ってくれたかもしれないのに!?


 ヴィンセント様、どいてくれないかな……


「生徒会にはもう一人いるんだけど、彼は不真面目でね。嫌われているのかなかなか顔を出してくれないんだ」


「えっそんな、アルフォンス様……お可哀想……あたしその方の代わりにお手伝いとかできませんか?」


「生徒会は選ばれたものだけが所属を許されています。リリエッタ嬢、あなたでは務まりませんよ」


 あたしの提案を、すっぱりと眼鏡が却下した。

 こいつ、あたしとアルフォンス様の仲を邪魔する気満々だな!


「でも、いつでも来ていいんだよリリエッタ。生徒会は生徒のためにあるんだから困ったことがあったらいつでも訪ねてきてくれてかまわないんだから」


 そう言って、お優しい微笑みを振り撒いてあたしを送り出してくれたアルフォンス様。

 実在したのね、夢にまで見た王子様!


 あたしは、夢見心地のまま部屋を出ると物影に隠れて様子を窺ってくれたソフィと合流した。



「どう?」


「すごかった、やばかった!アルフォンス様まじ推せる」


「推す?よくわからないけど会えてよかったね」


 あたしは溶けそうになりながら夢の中を歩いているようなふわふわした震え足で、教室のある棟へ戻った。


 途中大荷物を持った赤い髪の人とすれ違った気がしたけど、あたしにとってはどうでもいいや。


 アルフォンス様、きていいって言ってくれたし、これから毎日通うことにしよっと!






 それからあたしは、宣言通り毎日のように生徒会室に通った。

 アルフォンス様はいつもあたしを優しく迎えてくれて、あたしはそんなアルフォンス様に更にメロメロ。


 そんなある日、「リリィは何か悩みはないのかい?」とあたしに尋ねてきたことがあった。

 おそらく生徒会長として、より良い学園生活を過ごせるようにサポートしてくれようとしたのだろう。


 なのであたしは思い切って、相談をすることにしたの。


 アルフォンス様にここでは話せないことなので二人きりで、と声を潜めるとアルフォンス様は生徒会室の奥の応接室のような場所にあたしを案内してくれた。


 アルフォンス様と二人きりだなんで、神様本当ありがとう!


「あの……あたしクラスの人から嫌がらせを受けているんです」


「なんだって!?」


 あたしの秘密や告白に、それまで穏やかに微笑んでいたアルフォンス様が珍しく目を見開いた。


「あたし……かなしくって、そのいじめを指示したのはエスメラルダ様って言われて……あたし怖くて誰にも相談できなかったんです」


「……可哀想にリリィ、それは恐ろしかっただろうね。僕がいるからもう大丈夫だよ」


 あたしの震える手にアルフォンス様の暖かな手が重なった。

 アルフォンス様は自分の婚約者の名前があがって大層驚いたご様子だったけど、あたしの言葉を信じたみたい。


 ……アルフォンス様、男の子だからやっぱりお手手結構大きいんだ。


 そのタイミングであたしは気合いで集めた涙を溜めて、潤んだ瞳でアルフォンス様の高貴な青い瞳を見つめ返したの。タイミングはばっちり。


 目と目が合って、アルフォンス様の整った顔がすこし赤くなっている気がした。


「うれしいです、アルフォンス様。あなたがいてくれてよかった……」


 うふふ、バッチリ好印象じゃない?

 ソフィと練習した甲斐があったわ。


 ソフィがね、そろそろ生徒会に謎に入り浸るあたしを心配してアルフォンス様から学園生活の悩みについて尋ねられるだろうって予言をくれたけど、その予言はばっちり当たった。


 だからソフィと相談して用意した、アルフォンス様が守りたくなるような可憐でキュートな女の子にみえる答えを告げたってわけ。


 そりゃ余裕ですよ。


 そこからは、もう早かった。

 アルフォンス様は授業以外は常にあたしのそばにいてくれるようになったの。


 昼休みにはあたしの教室に来て、婚約者のエスメラルダ様には一瞥もくれずあたしの席に迎えに来てくれて一緒に食堂でランチをしてくれるのよ。

 その時のエスメラルダ様の苦ーい顔、思い出すだけで最高なの!


 まぁ、ランチは二人きりじゃないんだけど。

 相変わらず馴れ馴れしいヴィンス様や、私とアルフォンス様が親密になってきたらとっつきにくかったテオ様も私に優しくしてくれた。

 マックス様は騎士科の方々にあたしを紹介してくれて、守るように指示をくれたの。四人ともとっても素敵な殿方よ。


 あっ、でも……


 赤い髪の人、カイル様はたまーに生徒会室で会うけどあんまり打ち解けていないみたい。

 まぁテオ様もはじめはよそよそしかったし、きっと時間をかけたら仲良くなれるよね。


 カイル様は、同じ騎士のマックス様に比べると少しツンツンした感じ、ツンデレなのかな?いいんじゃない全員デレデレされるよりひとりくらいそう言うタイプがいたほうが、面白いもの。


 でもね、あたしが生徒会室で楽しくなってわらってると小さい声で「うるせえ」とか言ってくるのよ、ひどくない?その度にアルフォンス様が嗜めてくださるのだけど。


 そのアルフォンス様はいつも優しいけど、あたしはアルフォンス様が相変わらず懲りずにあたしの私物を壊してくるエスメラルダ様と婚約状態なのがどうしても許せなかった。


 なんであんな優しいかたが、エスメラルダ様なんて性悪な女の伴侶にならないといけないの!?


 あたしは本当に悔しくて、何度目かのいじめの相談中に思わず泣いてしまったの。


「アルフォンス様、あたしじゃダメなんですか?あたし許せない……お優しいアルフォンス様があんな女に生涯付き纏われるなんて」


「すまないリリィ、きみの気持ちは嬉しいよ。でも婚約破棄に至る確定的な証拠がないんだよ」


「確定的な証拠……」


 確定的な証拠、エスメラルダ様はあたしを陥れようとしてくるのに確かに尻尾を出してない。


 エスメラルダ様があたしをいじめているって揺るがぬ証拠をアルフォンス様に突きつけないとダメだ。




「ねえソフィ、エスメラルダ様がいじめの主犯だって確定的な証拠を出すにはどうしたらいい?」


「……どうしたの?」


「エスメラルダ様があたしをいじめているところをアルフォンス様がばっちり見るように、力を貸して欲しいの」


「リリィ……わざとエスメラルダ様に攻撃されるってこと?ちょっと無謀すぎるよ。そんなことして怪我でもしたらどうするの?」


 あたしはないものを出すんじゃなくて隠れているものを日の下に出したいの。


 賢くてずるいエスメラルダ様はいまだに証拠を見せないから、革新的なやつをあたしの手で暴いてあけるんだから。


 これはアルフォンス様のためにもなるし、あたし蹴られたりして痛いものにはなれてるから大丈夫。


 あたしが少し我慢をしたら、アルフォンス様がエスメラルダ様から解放されて学園から追い出せるとても幸福な未来が約束されているの。


「あのね……要はエスメラルダ様があたしに危害を加えるようにし向けば良いのよ。いままで陰でこそこそやってきてる人だもん二人きりになって挑発したら、他に誰もいないって油断したエスメラルダ様だって隠してる尻尾を出すに決まっているわ!」


 あたしはこっそりとソフィに耳打ちをして、それをきいたソフィが「へえ、面白いじゃん」って肯定してくれたのを聞いて、ニンマリとあの時のクラリスみたいな醜い笑いを浮かべたわ。


 あたしいまきっととても不細工だから、あたしの顔アルフォンス様に見られなくてよかった。

 人間って心が醜いと顔まで醜いのね。

 そう考えた時、エスメラルダ様の美しさを思い出して頭を振った。

 今のなし。あたしは大義のための行いだ。

 顔と心の美しさは関係なし。


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