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奔走編 廃教会③

※ちょっと不穏で、ちょっとバイオレンス

 




「ソフィアの……友人?」


 エルの脳裏に、舞台裏でほくそ笑むあの薄気味悪い顔が映る。

 夢の中で火刑にかけられても、最期まで笑いつづける歪な顔がよぎる。



 エスメラルダ・ロデリッツを冤罪によって堕とした黒幕の顔が浮かびあがる。














「(でも、冷静に考えたらソフィアとミルリーゼの煽り口調とか微妙に似ているわ……類は友を呼ぶってやつね)」


 一種だけ思考が狂ったが、ソフィアとミルリーゼの繋がりを期待してエルたちは旧都まできたのだ。


 むしろここにきて友人関係であった事実解明はエルの読みが当たったということだ。


「おいオッサン!勝手にネタバラシしてんじゃねーぞ、契約に関わってんだぞ!ふざけんな!!」


「うるさい黙れ」


「かはっ!!!」



 ミルリーゼは腹部にモロに打撃を食らって、それまで髪を掴まれてジタバタと暴れていた動きが止まる。

 脂汗を滲ませて、少女の顔は恐怖と苦痛で引き攣った。


「ミルリーゼ……てめぇはいろんなところから恨みを買いすぎた。おまえが生きたまま魔獣に食われるところを見て胸がスッキリする奴は多いだろうぜ」


「うぅ……」


 腹部に受けた打撃で辛そうに苦痛の声を漏らすミルリーゼの耳元で、男は楽しそうに下卑た笑いを浮かべた。


「悪趣味だなあ……服のセンスだけに……し、とけよな」


「次、俺の許可なく耳障りなことをほざいたら、そこの女どもを痛い目に合わせるぞ」


「……畜生」


 男はミルリーゼの喉元に強くナイフを突き立てたまま、後ろ手を掴んだ。

 彼女の小さな体で屈強な男の拘束から逃げ出すのは限りなく不可能だろう。


「食い終わった後のおまえの亡骸は、ノクタリア派にビビって王都に逃げたお前の両親にちゃんと届けてやるよ」


「……パパとママを馬鹿にすんな!!!!」


「黙れと言っただろうが」


 男はナイフの柄で再度のミルリーゼの腹部を殴打した。


「うぐぅ……!」


 涙目を浮かべて苦痛に悶える少女。


 エルには、とうてい泣き真似には見えず、その痛々しい光景から目を背けたくなる。


 そして男から語られた話は、ミルリーゼはもともとは王都にいた事実とリンクしていた。


「(帝国派の危険思想な貴族の多いこの町から、ミルリーゼのご両親は上手に逃げたんだわ……懸命な判断じゃない)」


 表向きは商会の新店舗開店による引越し、だがその裏にはそういった裏事情があったのかとエルは納得した。


 ミルリーゼ自体も「聖女ルチーアは嫌いじゃない」と先程、聖女教徒セラフィナに言っているのを聞いたので彼女の家は帝国派の思想に染まっていない何よりもの証拠だ。



「ああ……ミルリーゼ様……神よ……お救いください……」


 暴力に晒される少女の姿に、慈愛深いセラフィナは耐えられないのだろう。

 震えながら必死に祈りを捧げている。


 そんなシスターを横目に、エルはこっそりと男の意識がミルリーゼに向かっているのを見計らってポケットに入れた小袋に手を伸ばした。





『お姉ちゃんがいらないなら、エルにあげるよ。魔物に当てて動きを鈍らせる痺れ薬だよ。念の為持ってて』




 この小袋は、廃教会に突入する為の作戦会議中に、ミルリーゼから託されていた品だ。


「……セラフィナ」


 エルは小声で隣のシスターの名前を呼び、こっそりと痺れ薬を見せた。

 彼女が、言葉なくともエルの指示を察してくれると信じて。


 横目で見るとセラフィナはほんの小さく頷いたので彼女を信じることにした。


 息を吸う。


「ミルリーゼを殴るのはやめなさい」


 エルはよく通る声で男の意識を引き付けた。


「お前動くなと、。さ、、!?」


 男の汚い顔面がこちらを向いた瞬間、エルは隠し持っていた痺れ薬の小袋を男の顔面に向かって思い切り投げ付けた。


「………かはっ、う、ぐ!」


 封が破れ男の顔面に薬の粉が盛大にふりかかる。

 薬の効果は即効性だったのか男の足はよろめき、視点の定まっていない目線はフラフラと泳ぎ始めた。


「でかした!!」


 男の手が離れた一瞬の隙に、男の拘束から逃れたミルリーゼは瞬時に抜け出して



「……神よ、お許しください」



 セラフィナは、勢いをつけて踏み込んで盛大に握った拳を男の顔面に叩き込んだ。



ぶん殴れ!やったれ!

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